第16話 VSお坊ちゃん③

「なぁ、お坊ちゃん。投資家って知ってるか?」


「投資家? お金を入れてくれる人でしょ」


「まぁそんな感じ。企業は投資家や株主がいなくなっちゃったら、場合によっては、株価が暴落して企業が破産してしまうかもだってさ」


「は、はぁ……?」


 不思議そうにすりお坊ちゃんだが、隣のお姉さんは何かを察し、顔色が悪くなった。


「さて、最終兵器くんを呼びますか」


 とある人物に電話をかけると、1コールで繋がった。


『師匠! 僕はいつでも準備ができてます!』


「まぁそう慌てるな。ビデオビデオ……」


 ビデオにして画面を坊ちゃん側に見せる。


「み、三嶋様!?」


『あっ、どうもです』


「三嶋……? 誰それ?」


「我が芳賀グループに多額の投資をして頂いているお得意様のお一人です。な、何故、三嶋様が……」


『芳賀グループのお坊ちゃんが僕の師匠……じゃなくて、大切な友達に無礼を働いていると聞いてね。最近、業績も落ちてきてるし、支援をやめて株も売ろうかなーって思ってる』


 実は昨日、友達の家に行っていたというのはこういう時のための保険。


 高校時代、引きこもりだった翔を俺がなんとか説得して学校に連れ出したのがきっかけで仲良くなった。

 何故か俺を師匠と崇めているのは気になるが……。今は頼もしすぎる仲間だ。


「ま、待ってください! 三嶋様からの支援が止まってしまっては芳賀グループの経営は一気に悪化してします……!」


「え? え?」


 お姉さんの焦りっぷりにお坊ちゃんおろか、芳賀さんや知識がない飼恋人セフレたちは何事かと混乱している。


 翔が支援をやめ、株を売れば他も察し、もっと下落する前に株を売る人が続出。

 下落している株を買う人はいないだろう。

 そうして起こった株価暴落により、風評が出て、取引先が取引を解消する。

 あとは一気に倒産。

 

「要するに、ここにいる三嶋様の判断次第で、君たちは路頭に迷うか掛かってるってこと」


 砕いて説明したおかげで、お坊ちゃんも現状を理解したようだ。


「そ、そんなのズルいぞ! 第一、お兄さんの力じゃないじゃん! ズルだ! ズル!」


「まぁ俺もズルいと思うが、それはお坊ちゃん、アンタもだろ? 稼いでもいないのに、親のスネをかじって好き放題。お前の方がよっぽどズルいと思うぜ」


「くっ……」


 悔しいのか目に涙を溜め、今にも泣き出しそうだ。


「いくら金や地位を持っていても、謙虚な姿勢が欠落していれば、周りの信頼が落ち、大きな損害をくらうかもしれない。これで覚えたな」


 この先の言葉を言わなくても、もう雪空を無理やり奪おうとはしないだろう。


 翔との電話を一旦切る。


「ま、まーくん」


「終わったよ、雪空。さ、家に帰ろう」


 帰り口に向かおうと足を進めた時、柚乃が俺の裾を引っ張った。


「万尋様」


「……柚乃? どうした?」


「私からあの男の子に少し言わせて頂いてもいいでしょうか?」


「おお、いいぞ。ガツンと言ってやれ」


 柚乃もイライラしたのかな?


 柚乃がお坊ちゃんの方を向く。


「な、なんだよ……バカにしにきたのかよっ」


 すすり泣く坊ちゃんの言葉に首を振り、ゆっくりと口を開いた。


「私は親の会社が倒産して飼恋人セフレになりました。飼恋人セフレは酷い扱いを受ける存在。実際、暴力をうけましたし、これからの人生、もう生きている価値さえあるのかと病む時期もありました。けれど、万尋様と出会って人生が180度変わりました」


「……柚乃」


仮恋人セフレだった頃は当たり前だった衣住食。日常すぎてその有り難さに気づけなかった。両親が亡くなって初めて、自分は幸せ者だったと知った。失って気づくなんて……バカですよね」


 シーンと静まる。

 よく見ると、お坊ちゃん側の飼恋人セフレの中には共感して涙を流す者もいた。


「貴方のように上の立場の人間が飼恋人セフレの扱い方を見直すことによって、認識が変わると思います。だからせめて、周りの皆さんだけでも大切にしてあげてください」


 ここで言葉は終わった。


 数秒の沈黙後。


「……い、家に帰る……!」


「ぼ、坊ちゃまお待ちを!」


 足早と帰るお坊ちゃんを追いかける飼恋人セフレたち。


 お坊ちゃんもこれで少しは反省しただろう。


 残ったのは芳賀さんと俺たちだけ。


 ……俺も言ってやるか。


「芳賀さんさ、さっき『一途なところが久城くんのいいところ』って言ってくれたけど、俺はそんな事ないよ。いつも優柔不断で、一人じゃ何もできないただの凡人。それが俺、久城万尋だから」


 もし、宝くじが当たってなかったら、オークションに来ていない。

 雪空を見捨てていたかもしれない。

 翔がいなかったら、雪空をみんなを取られていたかもしれない。


 結局、俺は一人の力では何も成し遂げてなかった。


 芳賀さんは一つ頷き、ゆっくりと詩乃に近づいた。


「ひっ……万尋さまっ……」


「詩乃、今度は大丈夫だ」


 怯えている詩乃の手をギュッと握る。


 芳賀さんは詩乃の前にくると、頭を下げ、


「……詩乃さん、あの時はビンタしてしまって申し訳ありませんでした」


「……」


「私、振り返ったら最低な女ですよね。お詫びになるか分かりませんが、私の頬をビンタしてください」


 頭を上げそう言ったと思えば、目を瞑った。


「……万尋さま……」


「詩乃の好きにやればいいよ」


 詩乃はゆっくりと右手を振り上げた。

 そして……


 ぺチッ


 そんな優しい音が響く。


「えっ……」


 ただ頬に手を置いたような軽いビンタに、芳賀さんは目を見開く。


「私は……貴方をビンタなんてできません。あの時は怖くて、憎くて仕方なかったですが、今はもうその誠意だけで十分です。だから……この件はこれで終わりという事で」


 ニコッと、詩乃が微笑む、


「……っ」


 すると、芳賀さんの目の端に涙が浮かんだ。


「久城くん、詩乃さん、皆さん。この度はご迷惑をおかけしてすいませんでした。そして……ありがとうございました」


 芳賀さんはそう言って一礼して去っていった。


「……世の中、こんだけ素直に会心してくれるといいんだけどなぁ」


 第一印象は最悪でも誰だって変わることはできる。


「……なんかすごく疲れたな。あとお腹空いた。みんなどこに行きたい?」


「今日は雪空ちゃんの歓迎なので雪空ちゃんに決めてもらってはどうですか?」


「えっ、私ですか……?」


「雪空ちゃん、万尋さまはお金持ちですから遠慮はいりませんよ!」


「なんで詩乃が自信満々に言うんだよ。まぁ、二人の言う通り、雪空が決めていいよ」


「えーと……じゃじゃあお寿司食べたい……!」


「んじゃ、寿司屋いくか」


 一俺は一人では何もできない。

 それでも、飼恋人セフレを幸せにしたい。


 どんな手を使っても、この笑顔を守りたいから。



          第二章 —完—




〈第三章あらすじ〉


 無事、雪空と柚乃、詩乃を守ることができた万尋。

 しばらくは何事もなく、ゆったりとした時間が過ごしていった。


 と、思えば柚乃や詩乃、雪空は何やら、思惑があるようで……。


 みんな大好き。

 けれど一人だけが正妻になれる。


 第三章であり、最終章。

 甘々シーンがなかった理由は全部この章のため。

 

 第三章もよろしくお願いしますm(__)m

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