第13話 お背中、流します

 カポーン


「ふぃー。やっぱり風呂はサイコーだな〜」


 と、親父臭いことを言っている夜。


 新居候補を見て周り、それから別行動で俺は友達の家に、詩乃と柚乃は新居に置く家具を見に行った。


 歩き回って少し疲れたなぁ……。

 二人とも、随分外に慣れたようで今では姉妹で仲良くお出かけすることが多くなった。

 

「しかし雪空かぁ……。元気してるのかな……」


 オークションに出されるということは、それまでは誰にも買われないということ。少しは安心だ。

 問題は競り勝てるか。

 まぁ、なんとかなるだろう。


「あの甘えん坊な性格が変わってなければいいけど」


 俺の事を忘れていたり、冷たくあしらわれたら泣いてしまいそう。


 そんな事を考えながら、お湯を身体にかけて温まっていると、背後から浴室の扉が開く音がした。


「万尋様……あの、お背中流します」


「へっ、あっ、柚乃!?」


 タオル一枚を身に纏った柚乃の姿が目に入った。

 今更ながらにこんな美少女と一つ屋根の下で過ごしていることを自覚する。


「嫌、ですか……?」

 

「い、嫌じゃないけど……。どうしても?」


「どうしてもです」


 引く気がない柚乃の指示に従う。

 風呂から一旦上がり、柚乃に背中を向ける。

 膝にはタオルをかけてと……


「では、洗いますね」


「お、おう……」


 ボディーソープをかき混ぜる音が浴室内に響く。

 そして、タオルで優しく洗い始めた。

 人に背中を洗ってもらうなんて幼稚園以来だろう。


 よく泡立ててあって、ふわふわとした感触が背中に当たって気持ちいい。


「痒いところはないですか?」


「ないよー」


「ふふ、良かったです。……万尋様の背中、男らしくて思わず見惚れてしまいます」


「っ……」


 そんなこと言われたら変に意識してしまう。

 平常心を保たないと……。


 その後、背中を洗い終わり、お湯をかけられる。


「あ、ありがとうな。お陰でスッキリしたよ」


 と、風呂場から出ようと立ち上がった時、手を掴まれた。


「もう、行ってしまうのですか……?」


「え、あっ……」


 不意に詩乃が色気のある声を漏らす。


 寂しそうな瞳で見つめられると、断れない……。


  賢者タイムで冷静な頭になり、ふと昼間の事を思い出す。


 雪空の話をした時、柚乃だけ暗い顔をしていた。

 

 俺は椅子に座り、柚乃と向き合う。


「……柚乃、俺に何か隠し事してない?」


「ま、万尋様に隠し事なんてしてるわけないじゃないですか……!」


 明らかに動揺したな。

 声も裏返ったし。


「正直に言わないとお仕置きだから。じゅーう、きゅーう、はーち、なーな……」


「え、えっ!?」


 俺が秒読みを開始すると柚乃は慌て始めた。


「えーと、えーと」


「ろーく、ごーぉ……」


「ゆ、雪空さんが万尋様と幼馴染で……それでもの凄く親しそうな雰囲気だったので、新しく入ったら構ってもらえる時間が少なくなってしまうと、一人で落ち込んでいました……」


 やっぱり俺に構ってもらえなくなると落ち込んでいたのか。

 理由が理由なのでなんか……可愛すぎるというか、クスッと笑ってしまう。


「あっ、万尋様笑いましたね。私、これでもすごく落ち込んでいたんですよ?」


「ごめんごめん。あまりにも柚乃が可愛すぎて……」


「か、かわっ……」


 未だに俺に可愛いと言われるのに慣れてないのか、顔を赤らめる柚乃。

 そんな彼女の頭を優しく撫でる。


「柚乃、心配するな。たとえ雪空が来てもちゃんと柚乃に構うし、甘え足りない時には言ってくれれば甘やかすよ」


「っ……。ふ、二人っきりですか……?」


「柚乃が望むならそれでいいぞ」


「ではその時はそうさせていただきます。……あはは、こんなことなら最初から万尋様に素直に言えば良かったですね」


「柚乃はまだ遠慮しがちだからな。詩乃くらい吹っ切れてもいいんだぞ」


「詩乃くらいですか……。今度やってみますね」


 すっかり元気になった柚乃。

 やっぱり笑顔が一番似合うな。

 

「ふっひひー、万尋さまとお姉ちゃん、仲直りしたんですねーっ」


「「!?」」


 突然俺たち以外の声がしたので、振り返ると、扉の隙間から詩乃がヒョコッと顔を出していた。


「詩乃、寝てたんじゃないの……?」


「お姉ちゃん、実はあれ、狸寝入り。お姉ちゃんの元気がなかったから、これは新しく入ってくる雪空ちゃんに嫉妬してるのかな〜と思って。それなら私がいない隙に万尋様にアピールしにいくと推測した」


「うっ、全部バレバレだ……」


 さすが姉妹。

 姉のことをよく把握してるなぁ。


「お姉ちゃん、万尋さま、騙してごめんなさーい」


 ペロッと舌を出して茶目っ気たっぷりの表情で謝る詩乃を前に、俺と柚乃は許さざるを得なかった。


 お互い顔を合わせ、クスリと笑う。


「お姉ちゃんが万尋さまとお風呂入ったから今度は私の番だね」


「なんでそうなるんだよ」


「姉妹は平等じゃないといけませんよ、万尋さま」


 ほんと、よく喋るようになったなぁ。

 浴室に俺たちの笑い声が響く。

 

 雪空が来てもこうやってみんな揃って楽しく過ごせるといいな。

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