第6話 大学に詩乃を連れていく

「今日、詩乃を大学に連れていく」


 柚乃が作ってくれた朝ごはんを囲みながらそう告げる。


「えっ……」


 詩乃の箸が止まり、俺を見みた。


「柚乃、大丈夫。万尋様が傍にいるから」


 不安そうな面持ちの詩乃の頭を柚乃が優しく撫でる。


 この件は柚乃とコッソリ話していたことなので、彼女は俺の味方。


「悪いが付き合ってもらうぞ」


「は、はい……」



 大学に入ると、人の目が俺たち、というか詩乃に集まる。

 詩乃は可愛いから、そりゃ目がいくか。


「あの、万尋様……」


「どうした?」


「私、外怖いです……。人がいっぱいなので……」


 周りに怯えるように小声で話す詩乃。


「すまないな。これも俺の為だと思ってくれ」


「万尋様はどうして私を外に連れ出したんですか……? 私よりお姉ちゃんの方が愛想が良くて、気に入ってるんじゃ……」


 確かに柚乃は俺のことを信頼してくれていて、俺の彼女を信頼している。

 詩乃は過去に何があったか分からないが、彼女とも仲良くなりたい。


「そんなことはないぞ。俺は柚乃も詩乃も好きだから」


 怖がらせないように、笑顔を浮かべると、詩乃は少し、顔を赤らめ、ちょっと距離を取った。


「怖い時には俺の服とか掴むといいよ。知らない人より俺の方が安心だろ」


 詩乃は俺の言葉に頷いた。


「おいおいおい! 久城、それって飼恋人セフレかよ!」


 馬鹿でかい声で友達が前から近づいてくる。


「高かっただろ?」


「まぁな。ちょっと収入が入って」


「いいなぁー。しかもめっちゃ可愛い子じゃん。今度貸してくれよ」


「嫌だ」


「ちぇ……まぁそうだよな」

  

 他人の飼恋人セフレを借りたりするのは法律で禁止されている。


「っ……」


 俺の友達が怖いのか、詩乃は俺の服の裾を控えめに握った。


「お前もバイトして買えばいいよ」


「何年続ければいいんだよ。はぁ、宝くじとか当たらんかなー」


 すまん。それは俺が当たったんだよなぁ。



 カキ、カキ。


 授業が始まり、長机に詩乃と隣に座り受ける。

 シャーペンを持ってノートに書き込んでいる俺の姿を詩乃は、ただジート見ているだけ。

 まぁ大学生の授業だ、まだ高校生の彼女には理解できることが少ないだろう。


 チラッと視線を詩乃側に向けると、詩の隣に座る男子が何やら凝視していることに気づいた。

 

 こいつ、詩乃に手を出したりしないよな……。


「……詩乃、もうちょっとこっちに来て」


 小声でそう言うと、詩乃が黙って近づいてくれる。

 男子との間には人一人分のスペースができた。


「……チッ」

 

 不満そうな舌打ちが漏れる。


 こっちがその気持ちだわ。人の飼恋人セフレに変な目つけやがって。


 というか……。


 むにゅん


 近づけと言ったものの、かなり密着していて、詩乃の豊満な胸が腕に触れ、柔らかな感触に包み込まれる。


 ……こんな状態じゃ授業に集中できない。


 堪能したい気持ちをグッと堪え、詩乃に伝える。


「詩乃、その……当たってる……」


「……万尋様が近づけと言ったではありませんか」


「まぁ、そうだよな……」


 こんなに女の子に対しての免疫がないなんて恥ずかしい。


 詩乃はそんな俺を気遣ってくれたのか、拳一個分開けてくれた。

 パイプ椅子がギシギシと音を立てる。


「……ありがとうな」


「はい」


 会話は一言で、途切れ途切れ。声色も冷たい。

 でも、分かった。詩乃はとてもいい子ということが。

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