第2話 飼恋人(セフレ)

 季節も夏間近で暑くなってきた。

 クーラーの効いた大学の学食で男友達と昼飯を食っていると、


「はぁ、セフレ欲しいー」


 友達の一人がそう呟いた。


「また言ってんの? ちなみに仮恋人セフレ飼恋人セフレのどっち?」


「そりゃ飼恋人セフレだろ」


 他の二人もコクコクと頷く。

 セフレはお金を持ってさえいれば誰でも買うことができる。


 この世界の人間は男性(主人)>正妻>仮恋人セフレ>飼恋人セフレ>と階級がある。飼恋人セフレ以外、ある程度自由なものの、一番地位がある男性にはそれなりの礼儀をもって相手をしなければならない。

 そして、女性の中で最も地位があるのが正妻。日本では未だ一夫多妻は認められておらず、男性が結婚できる女性は一人。つまり、妻となった者は男性と同等とまではいかないが、それなりの地位だ。


 正妻の他に仮恋人セフレを作ることが許された時代、他の席を見ると学生や大人の女性などを連れた学生が多く見られる。


 お金を持っているものが許された権利。周りは羨ましそうに見ている。


「けど飼恋人セフレって結構値段高いよなぁ」


「それな。確か安いので10万くらいだろ?」


「でもそれで好き勝手できることを考えたら安いんじゃね?」


 飼恋人セフレの話で盛り上がる友達を他所に、定食を食べる。

 

 俺、久城万尋くじょうまひろにはちょっとした秘密がある。それはなんとなく買った宝くじが見事高額当選したことだ。その額12億円。働かなくても一生遊んで暮らせるだろう。


 飼恋人セフレねぇ……。



「たまには贅沢した方がいいのかな」


 宝くじが当たった後もバイトは続けている。一人暮らしのアパートはセキュリティーがあるマシなところに引っ越したらが、それでも贅沢な家でない。


「よしっ。今日は美味しいものを食べるか」


 高級焼肉や海鮮、寿司。どれを食べようかなーと悩んでいると、細道で怒号が聞こえた。


「使えないんだよッ」


 ガシガシと蹲る女の子を蹴る中年の男性。女の子の腕には飼恋人セフレを意味する黒の腕輪が付いていた。


「なんで主人の命令に逆らうッ。ここで早く全裸になれって言ってんだよッ!!」


 なんと酷い命令。そんなのしたくないに決まっている。

 すると男が女の子の腕輪を外した。腕輪は主人以外外すことはできない。外されたら捨てられたと同義。また施設戻り。


「クソックソックソッ」


 うずくまる女の子を更に蹴る。

 いくら好き勝手できるからってこれは酷い。周りも気づいているようだが、見て見ぬふりで素通り。


 俺は耐えられなくなって、


「これは流石にやり過ぎだッ!」


 間に割って入った。


「あ? なんだテメェー! 邪魔すんなよッ」


「アンタはもう腕輪を外した。つまり、この子には主人がいない。俺が止めてもいいだろ」


「チッ……」


 俺の正論が面白くなかったのか、唾をは吐き捨て去っていった。


「大丈夫か?」


 女の子に手を伸ばし、立ち上がらせる。


「は、はい……」


 弱々しい声が返ってきた。

 身体傷だらけで主人から酷い扱いを受けていたことが分かる。病院に連れていってあげたいが、腕輪がないと入れない。軽い治療なら施設でもやってくれるだろう。


「気をつけて帰ってね」


 さりげなくクールに決めて立ち去ろうとしたが、女の子は俺の服の裾を引っ張った。


「あ、あの……! い、妹が、妹がッ!」


 妹……?

 落ち着かせ話を聞くと、どうやら姉妹で売られていたが、彼女だけ売れてしまったようだ。

 彼女は俺に妹を探し出して買って欲しいと言った。


 俺は考える。

 手持ちは12億。姉妹を買うのは余裕だ。だけど、飼恋人セフレというのに俺は若干の抵抗があった。


 男は自分が勝ち組であると分かっていながら、なおかつ負け組と認識している女性を虐げて優越感に浸る。

 俺はこれがあまり好きではない。

 しかし、彼女が施設に戻ればまた酷い主人に買われ辛い思いをするし、妹を探し出して買って欲しいという要望を叶わなくなるだろう。


 チラッと柚乃を見ると、祈るように手を組んで、顔を伏せて小さく震えた。


 ん? なんかこの顔どこかで……あっ。


「君、確か隣町の女子校に通ってた一宮柚乃いちみやゆのさん……?」


「わ、私のことを知っているのですか……!?」


 俺が高校三年の時、隣町の女子校の二つ下にめちゃくちゃ可愛い子がいると噂になったからな。ということは彼女は18歳。多分卒業している。


「ああ。でもなんで君が飼恋人セフレに……。実家はお金持ちだっただろ?」


「半年ほど前は私も仮恋人セフレでした。でも、会社が倒産して父も母も病死して……。それで飼恋人セフレに……」


「なるほどな。ちなみにあの男で何人目だ?」


「いえ、あの方が初めての方です」


「そっか……」


 彼女の顔をよく見ると、綺麗な顔にもアザがある。


 このまま放っておいたら一宮さんも俺も後悔することになる。

 だから俺は……


「分かった。君の妹を買うよ」


 俺の言葉に彼女は涙を溢しながらひたすら「ありがとうございます」と言った。

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