【完結】桜華学園～悪役令嬢に転生した俺はヒロインに盗聴、盗撮、ストーキングされる～

99限目 犬

　目の前でたっている相馬を彩花は無言で睨みつけ通り過ぎようとした。すると、相馬は「待て」と言い彩花の腕に手を伸ばした。

　彩花は乱暴に、その手を振り払うと彼の手にあたり大きな音が響いた。相馬の手がほんのりと赤くなった。

「触らないで。なんでここにいるのよ」

　相馬は彩花に叩かれた手をさすりながら、困った表情を浮かべた。

「それは、あやちゃんの事だもん。わかるよ」

「はぁ？」

　不愉快であることを顔全面で表した。すると、彼は微笑み、手のひらを上にして彩花の方に差し出した。

「さぁ、一緒に学校へ行こう」

「いつも言ってるけど、行くわけない。私よりも馬鹿な人間と歩きたくないの」

　彩花は差し出されたを払いのけた。その瞬間は目を大きくして、悲しい表情を浮かべた。その表情が愉快で更に彼を罵倒しようしたが、やめた。レイラに“プレイ”と言われた事を思い出した。

「私はあなたを恨んでいる。小学校の時の事は忘れてなんかいないわ」

　低い声で冷静にそう告げると、相馬はいきなり路上に膝と頭をつけた。土下座だ。

　自分のより身長が大きく体格の良い相馬が小さくなり頭を下げる姿は滑稽だった。以前は、コレをされた思わず逃げてしまったが今回は去らずに彩花は相馬を見つめていた。

「ごめんなさい。あの事は本当に後悔しているんだ」

「あなたのせいで他の人間も私をいじめたのよ」

「ごめん。いじめとか……、そんなつもりじゃなかった」

　相馬は頭をあげて泣きそうな顔で彩花を見つめた。

　自分をいじめていた男が情けない顔して言い訳をする姿を見て彩花は気分が良かった。

「じゃ、どんなつもりよ」

「あ……、その」

　真っ赤な顔をして吃る相馬が面白くなり、彩花は彼の近くに来るとしゃがみこみ頬に触れた。

「はっきり言いなさいよ」

「その、あやちゃんに見てもらいたかったんだ。小学校の入学式であやちゃんを見つけた時、すごく可愛いと思って近づきたかった」

　真っ直ぐに見るその瞳に、彩花は言葉を返す事ができなかった。相馬は、そのまま続けた。

「それで、話しかけたけど相手にして貰えなくて鉛筆を盗ったんだ。すると、すごい怒ったからそれが嬉しくて更に色々して……。ごめん」

「……」

「本当にごめん。あの後、あやちゃんの家庭状況を知って鉛筆がどんなに大切だったか理解した。だから、謝りたくて……」

　自分の家庭状況を知っていると言った相馬にため息を吐いた。祖母の家に預けられた彩花は文房具どころか食事もほとんどもらえない生活をしていた。暴力を振るわれる事はなかったが今だに祖母と会話をしたことがない。

　生活をしていた家で彩花は透明人間だった。

「謝るために桜華に来たの？」

「そうだけど、そうじゃない」

「はぁ？」

　意味のわからないことを言う相馬の頬を叩いた。すると、相馬は顔をしかめて叩いたその場所が赤くなった。

「いや、その。好きだから。側にいたくて」

「好き……？」

　想いもよらないその言葉に彩花は顔を赤くした。その反応を見て相馬は更に言葉を続けた。

「好き、愛している。大好きなんだ」

「な、何を……」

　連呼される愛の言葉に、彩花は恥ずかしくなり相馬の頬を先程の倍以上の力で叩いた。

「うぅ……」

　その衝撃に相馬は顔を歪めて唸った。そのため、彼の愛の言葉は止んだ。

「なんなのよ。そんなの今更言われても知らないわ」

　生まれてから一度も好きと言われたことのない彩花はどう反応していいかわからなかった。

　動揺して、「好き」だと言う彼の頬を更に叩いた。

「今までやった事を考えれば、俺の事いくら叩いても構わないよ。あやちゃんが、そばにいてくれるならなんでもするから」

「なんでも……？」

「うん。犬だと思っていいよ」

　その言葉に彩花は動きを止めて、彼の瞳をじっと見た。相馬はそんな彩花を真っ直ぐに見返した。

　彼女は面白いと感じた。

「いいわ。けど、以前のようにレイラ様との仲を否定したり彼女を罵倒したら許さないわよ」

　相馬は心底嬉しそうな表情をして、地面に頭を擦りつけた。

「その、あの時は申し訳なかった。あやちゃんがレイラ様を慕っているなら俺も慕う」

「わかったわ。犬行くわよ」

「え……？」

　相馬は状況が飲み込めずにキョトンとしていると、彩花はため息をついた。

「犬なんでしょ。ついてきなさい」

「一緒に学校に行っていいの？」

　嬉しそうに立ち上がると、彼は膝の砂を叩いた。

「違うわよ。犬でしょ。ついてくるの。一緒に行くなんて私と対等のような言葉を使わないで」

「あ、そっか。ごめん。お供させてください」

　彩花は相馬のその言葉が気に入ったようでニヤリと笑うと、駅向かった足を進めた。その後ろに彩花よりも遥かに身長の高い相馬がニコニコとしながらついて行った。