55限目 原因

「愛里沙様の話聞いてもかまいませんか?」


レイラが言うと、彩香は頷いた。


「はぁーい。亜理沙様と会った話ですね。レイラ様も参加されてましたが、年度初めの桜花会と生徒会の顔合わせの時です」


レイラは、4月に会った桜花会と生徒会の初会議を思い出した。


(俺(レイラ)は1年だし自己紹介くらいで退室したな。あ〜生徒会の方は1年の初めからガッツリ仕事あんだってけなぁ。ご苦労なこった)


「レイラ様はすぐ退室されましたし、私の事なんて覚えてないですよね。それはいいです。それで、その会議後に廊下を歩いてると後ろから怒鳴り声が聞こえたですよ」


レイラは少し考えてから質問した。


「もしかして、廊下の真ん中よりを歩いていたのですか?」

「そうですね」


(別に、廊下の端を歩くルールはねぇし桜花会に道を譲れという規則もねぇが。それをする事を“敬う”だと思う連中もいるんだよなぁ)


彩花は、後ろからきた亜理沙に道の端を歩かない事、そして、常に桜花会が来ていないか確認を怠った事を怒鳴られたと説明した。


レイラは頷いて聞いていたが、夢乃と藤子は顔を青くしていた。


「それから……」


彩花は、顎を手を当てて思い出す様に話し始めた。


※ ※ ※


「私が後ろにいたのにどかないとは何事なのかしら」


突然の怒鳴り怒鳴り声がして、振り向くと亜理沙が鬼の様な顔をしていた。彩花は面倒くさそうにため息をつくと廊下の端に移動した。


「なんですのその態度は。私の着ている制服の色が見えませんの?」

「白ですね」

「そうですわ。白服とは桜花会が着る特別な制服ですわ」

「そうですか。それでは失礼します」


彩花は軽く頭を下げると、クルリと進行方向を向き歩き出した途端に背中に強い衝撃をうけそのまま前に倒れた。

彩花は、余りの予想外な出来事に自分が蹴られたのだと気づくまで時間が掛かった。


「うふふ」


亜理沙は倒れた彩香を見下ろして笑っていた。

その時パタパタと奔る音がして、女子生徒が二人亜理沙のもと近づいた。


「遅いじゃないの。会議はとっくに終わっているのですよ。早く迎えに来なさいよ」

「すいません」


亜理沙は女子生徒の二人を睨みつけると自分の鞄を投げつけた。それを慌ててポニーテールの方の女子生徒が受け取った。

彩花は、その女子生徒の二人をじっと見た。そして、立ち上がると笑顔で声を掛けた。


「片山先輩に、椎名先輩じゃないですか」


名前を呼ばれ、驚いた顔で二人振り向いた。


「あら?」

「こんにちは」


彩花はニコニコしながら、不思議そうな顔している二人に近づいた。


「こんな所でお会い出来るなんて嬉しいです。先輩たち、もしかした特待Aですか? 桜花の特待Aなんてすごいですね」

「そんな」


片山と呼ばれはポニーテールの女子生徒は驚きつつも褒められ嬉しそうに笑った。


「いえ」


片山の横にいた椎名と呼ばれた三つ編みの女子生徒は照れた顔した。


亜理沙(ありさ)は眉を寄せている。今にも怒鳴りそうな顔をしている。


「では、先輩たちが桜花会の方に勉強を教えているのですね。桜花会は成績が下がると退会になるという噂を聞いたので先輩たちの力は大切ですね」

「え? 退会?」


彩花の言葉に片山と椎名は顔を見合わせた。


「そんな訳ありませんわ」


愛里沙は彩香の言葉を強く否定した。すると、彩香はキョトンとした顔をした。


「そうなんですか? ではきっと噂なんですね。以前退会された方は違う理由でしょうかね」

「以前、退会した方って誰よ」


亜理沙は、顔を歪めてふるふると身体を震わせている。

そんな彼女の様子を横にいる片山と椎名は目を見開いて見ていた。


「確か、えーと、中村幸弘様でした」


その言葉に亜理沙だけではなく、その横にいた二人の顔が青ざめた。


「貴女、中村幸弘様を知っているのかしら?」

「ええ、親戚ですよ。先ほどの会議でも紹介しましたが、私は中村彩花と申します。そういえば、中間試験もうすぐですね」


亜理沙は、横にいる二人の方をみた。彼女たちはなんとも言えない顔をしていた。

彩花は自分の腕にある時計をみた。


「あ、もうこんな時間ですね。規定の時間がすぎたので特待のお仕事はここまでてすね。はぁ、疲れました」

「え?」


驚いた顔をする二人に彩花は首を傾げた。


「あれ? ご存知ないのですか? 特待が桜花会の方を支援のは登校時間から放課後2時間以内ですよ。マニュアルに書いてあるじゃないですか。それ破ったら桜花会といえども学園側から罰則をもらいますよ?」


ニコニコした顔で伝えると、目を大きくしていた彼女たちは亜理沙の方をギロリと睨みつけた。亜理沙は小さくなり上目遣いで二人を見ていた。


※ ※ ※


「……とまぁ、そんな感じです」


(中村幸弘の名前だしたか。あの人の退会理由は学力じゃねぇよな。確か)


「ね、特に何もないですよ」

「なにもなくないわよ。問題だらけじゃない」


レイラが発言しようとしたがその前に、夢乃が声を上げた。


「そうでしょうか?」

「そもそも、なんで亜理紗様の特待Aと知り合いなのよ」

「もう退学されたみたいですので、元ですよ。知り合いじゃなないですよ。あの日、会議の日にはじめて会話しました」


感情的になる夢乃に対して、彩花はいつもの調子でにこりして答えた。


「え? 知り合いじゃないの?」

「ええ。特待名簿に顔と名前が乗っていたので知っていました。あ、あちらもそれで私の事知っていたかもしれませんね。それなら知り合いですね」


(しらねぇんじゃねぇ? 俺(レイラ)の名前もしらないようだったしな)


ニコニコする彩香に夢乃は言葉を失った。

夢乃は何度か深呼吸をして呼吸を整えた。


「その話はもういいわ。じゃ、中村幸弘様が親戚って? それと特待の桜花会支援時間って?」


食入りいるように聞いてくる夢乃に対して「えー」っと彩花は面倒くさそうな顔をした。


彩花はため息をついて、教室内にはいると椅子にどかりと座った。

夢乃は彩花がレイラよりも先に椅子に座り苛立ちを感じたがレイラ何も言わずに座ったため静かにレイラと同じように椅子を彩花の方に向けて彼女の横に座った。

藤子は教室の扉を閉めると、夢乃の後ろに座った。


「支援時間についてはレイラ様から聞いていないのですか? 桜花会は知っていると思うのですが」


彩花がチラリとレイラの方を見ると彼女は頷いた。


「支援時間は特待説明会で説明されていないのですか?。知っているものだと思っていましたわ。悪意がありますわね」


レイラは口を押さえて目を細めた。しかし、すぐに笑顔になり夢乃と藤子の方を見た。


「申し訳ありませんわ。知っていると思っていたので話ませんでしたの」


眉を下げて謝罪するレイラに夢乃と藤子は両手をふって否定した。


「申し訳ありません。本来の支援時間、私はレイラ様の側におらずに、部活に行っておりました」

「本来に申し訳ありません」


夢乃と藤子は立ち上がり、同時頭を下げた。


「え? お二人は部活をしているのですか?」


驚きの声を上げたのは彩花であった。

しかし、夢乃と藤子にはその理由がまったく理解できずに首をかした。


「何を驚いているのかしら?」

「本当に、マニュアル読んでいないのですね。特待は基本的に部活はできません。禁止されてる訳ではないのですが、特待Sは生徒会の仕事、特待Aは桜花会の支援があります。特待Cは入学金と学費免除だけで支援金がありませんので可能ですけどね」


彩香が一気に説明した。


すると。


「でも、私達やっているわ」


ずっと黙っていた藤子がボソリと言った。彩花は面倒くさいそうに、レイラの方を見た。


(あー俺が説明しろってこと? 彩香は俺(レイラ)

を使うよな)


「単純に私が許可したからですわ。本来はその放課後二時間で勉強を教わるのですが私には必要ないのですわ。ですから、その時間を有意義に使って頂こうと思いましたのよ。入部届けを出すときに私が1枚、紙を一緒に提出するように言いましたわよね? それが許可ですわ」

「そういえば、それ出した時教師が驚いてましたわ」

「私も」


藤子と夢乃は思い出したように驚き、頷くと二人は恥ずかしくなり顔真っ赤にした。

事実なので何も言えず顔を見合わせて頭下げ分かりやすく落ち込んだ。


「別にいいですわ」


レイラはふと自分の腕にある時計を見た。


「そろそろ、良い時間ですわね」


レイラがおひらきにしようとすると夢乃が質問した。


「レイラ様はなぜここにいらしたのですか?」

「気づいてないのですか? 桜花会や生徒会の部屋がある階ではありませんか。私はいつも通り桜花会室に顔だしてその帰りでしたのよ。この教室の前の廊下はいつも通っていますわ」


夢乃が驚いて、藤子の顔を見た。藤子も気づいていなかったようで目を丸くしていた。


「あはは。よほど、私たちを追いかけるのに夢中でしたのね」


彩花の言葉に二人はビクリと身体を動かして小さくなった。そして、チラリとレイラの方を見た。


「……申し訳ございません」


同時に頭を下げて、謝罪する二人にレイラは優しく笑いかけた。


「次から気をつけてくださいまし。それに、そろそろ帰宅した方がいいのではないですか? 明日、テストの直しを確認致しますわよ」

「はい」

「それでは、失礼致します」


2人は立ち上がり頭を下げて、その場を去った。レイラはそれを手を振って見送った。


「中村さん、二人はそんなにいじめないでくださいますか」

「いじめ? 事実を告げただけですよ」


悪びれる様子が一切ない彼女にレイラはため息をついた。


「分かりました。それは、お兄様の話してもらえますか?」

「あ〜、はい。大した事ないですよ」

「大した事がなければ、桜花会は退会になりませんわよ。彩花さんの言った成績で退会になるというのは“噂”ですからね」

「あー。レイラ様にはバレちゃいますよね。でも嘘ではないですよ」


舌を出して、テヘと笑う彩花は、可愛らしいものではなく腹黒さがにじみ出ていた。


「“噂”はありますわよね。続けてください」

「はい。横暴な態度により専属の特待A及び一般生徒からの信頼低下。それにより桜花会への不満が高まり存続困難になる可能性をあると見て学校側による強制退会です。桜花会を子どもの愚行より崩壊させては問題ですからね」


レイラは、初対面の自分を押し倒した幸弘を思い出した。


「そこに生徒会が関わってますよね」

「あはは、そこまで知っているんですか」 


彩香は目を大きくてレイラをみた。


「当然ですわ。だから、中高のみ生徒会があるのですよね」


レイラの事に彩香はにこりとするだけで何も言わなかった。

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