第504話 10層の中ボスを撃破して無事に地上へと戻って来る件



 中ボスの間のある筈の10層も、他の層と変わらずジメッとした洞窟エリアが続く模様。先行しているハスキー軍団と茶々丸は、少し先で既に戦闘に入っているようだ。

 戦闘音に混じって、コウモリの鳴き声も響いて来ている。それからくぐもった呻き声は、獣人か何かの発したものか。10層も相変わらず、雑魚モンスターの熱烈な歓迎ぶり。


 姫香と萌も、その討伐隊に加わろうとに元気に駆けて行った。後衛も用心して進み始めて、その辺はいつもと同じフォーメーションである。

 ところが通路の天井に、やけに暗い闇溜まりをミケが発見。ミャアと警告を発してくれて、それで全員がその存在を知る事となって。


 前の層にもいた闇ホタルかなぁと、紗良が推測を口にするけれど。それだけならまだ良いけど、何と一緒に電波コウモリも数体一緒に隠れていたようで。

 頭上から不意打ちを喰らわずに本当に良かった、今回もミケのお手柄である。奇襲を見破られて突っ込んで来る闇ホタルと電波コウモリの群れを、護人とルルンバちゃんで打ち破って。

 再び前衛陣に続いて、薄暗い洞窟内を進む後衛陣である。


「あんな風に隠れていたら、討ち洩らしもあるかも知れないな。帰り道も、気をつけて戻らないと不意打ちを喰らう可能性がありそうだ。

 ミケはお手柄だったな、さすが頼りになるよ」

「ウチのエースだもんね、ミケさんは! でもこの後の中ボス戦は、きっとレイジー達が張り切ってくれるから出番は無いかもね。

 ちゃんと手柄を譲ってあげるのも、ミケさんらしいよね!」


 ただの怠惰かも知れないけど、まぁそこは敢えてスルーして褒めるのが上策だろうと。末妹も、ちゃんとミケのご機嫌取りを考えているのは凄いかも。

 そんな張り切り前衛陣は、ほぼ真っ直ぐな洞窟の突き当りにようやく中ボスの間を発見した。洞窟を区切るように出現した扉は、重そうな石造りで雰囲気はそれなり。


 5層の造りと似ているし、ここの中ボスも地底獣人かなぁと香多奈の発言に。じっとりとした視線を送る姫香は、間接的に末妹の招く発言を批難しているとも。

 良い方の予言なら別に構わないけど、たまに悪い予言をバッチリ当てられると。香多奈の言葉が招いたようで、とっても腹が立って仕方が無いのだ。


 まぁ、それで怒られる香多奈もちょっと可哀想ではあるけれど。とにかくそれぞれ武器を口に咥えてヤル気充分のハスキー軍団、姫香に扉を開けてと視線で訴えて。

 その姫香は後ろの護人に行くよと合図を送り、今日の探索の最後の戦いへと臨む構え。可能なら速攻お願いと、紗良と簡単に作戦の打ち合わせをしての中ボス戦の開始に。

 開かれた石扉は、重い響きで戦闘開始の合図を知らせる。


「あっ、誰かさんの予想通りに地底獣人の群れだね、結構いっぱい固まってる……紗良姉さん、お願いっ!」

「了解、奥の固まってる群れに魔法を飛ばすね! 少しだけ時間を頂戴、姫香ちゃんっ」

「頑張れ、みんなっ……レイジーにコロ助、手前の向かって来る敵にスキル撃っちゃっていいからねっ!」


 今回の中ボスの間は、前より随分広くて配置されていた地底獣人の数も倍に膨れ上がっていた。しかも魔法タイプや弓持ちの数も増え、前衛たちはなかなかの充実装備で。

 下手に遠慮していては、あっという間に攻め込まれてしまいそう。そんな訳で、護人とルルンバちゃんも遠慮せずに遠隔攻撃でのお手伝いなど。


 前衛のレイジーも、炎のブレスで敵の接近をいい感じに躊躇ためらわせて時間を稼いでくれた。茶々丸は成長の片鱗か、独断で突っ込むのを我慢している。

 そしてようやく放たれた紗良の《氷雪》が、広範囲に吹き荒れて敵の動きを鈍らせてくれた。ダメージもかなり入っているようで、体力自慢の地底獣人もかなり与太っている模様。


 これを好機と攻め入る姫香とツグミのペア、ツグミはセオリー通りに敵の厄介な魔法使いから倒すつもりっぽい。レイジーと茶々丸は、前衛に出張って来た兵士を相手取り、壁役を担ってくれている。

 コロ助も同じく、萌と一緒にレイジー達とは逆サイドにポジショニング。5層の中ボスの間よりハードな場面ながら、一行に焦りの感情は全く無さげ。


 各々が与えられたポジションで、普段通りの作業をこなしている感じで。安定した戦闘行程を紡ぐ事で、自然と勝利が転がり込むと全員が信じて疑っていない。

 ハスキー達などモロにその典型で、自分達が負けるなどとは一瞬だって思っていない。そして今回の中ボス戦も、まさにそんな感じでのパワー押しとなって。

 結局は、力押しで勝利をもぎ取る流れに。



「よっし、何か普通に勝てたね……私の言った通りに、ミケさんの出番も無かったよね! それじゃあドロップ品を拾って回るよ、ルルンバちゃん。

 宝箱は、今回のは銀色かぁ……やたら大きいけど、中身はあんまり期待出来ないかも」

「また鉱石とか、石系のがゴロゴロ入ってるパターンかもね。みんなご苦労さま、茶々丸と萌は怪我とかしてない?

 紗良姉さんに、ちゃんと見て貰いなさいね」

「そうだね、ハスキー達も一緒に怪我チェックするからこっちに来て。後は帰るだけだけど、一応はMP回復ポーションも飲んでおこうか?」

「そうだな、帰り道に何があるか分からないしな」


 護人のその言葉と共に、テキパキと戦後の処理を始める子供たち。中ボスの地底獣人たちのドロップは、魔石の他にも武器や防具が混じっていて割と豊富だった。

 スキル書も2枚ほど混じっていて、香多奈もルルンバちゃんと一緒に大喜びしている。そう言う意味では、割と太っ腹なB級の元レジャー施設のダンジョンではある。


 そして姫香が開封した宝箱の中からは、定番の鑑定の書やポーション類がまずは一定数出て来て。それから魔結晶(中)が5個に属性石が少々に、オーブ珠が1個。

 やたら大きかった箱の大半には、石炭やら石素材が占めていてその点では外れだったけど。ちゃんと指輪や宝石の原石、銀の延べ棒なども出て来てまずは一安心。


 今回は10層のみの探索にしては、まずまず魔石やドロップ品も回収出来た。それも途中のモンスターハウスの罠のお陰なのだが、戻る途中に覗いてみたら綺麗に壁は元通りになっていた。

 どうなってるのと、しつこく確認しようとする末妹を無理やりその場から引きがして。同じ仕掛けを2度も喰らうなんて、間抜けにもほどがあると一行は足早にダンジョンを通り抜ける。


 そして何とか1時間とちょっとの帰路で、地上へと戻って来れる事が出来た来栖家チームだった。無事な帰還を待っていた岩国チームの面々に称えられ、何となくこそばゆい面持ちの一同である。

 その頃には、すっかり日も沈みかけてそろそろ夕食の時間となっていて。探索終わりの気怠さに、ゆったりしたい所だけど岩国チームは食事処に案内する気満々で。


「せっかく遠征に参加してくれたんだ、地元でお持て成ししなきゃチームがすたるってもんだ。地元の美味しい店を予約してあるんだ、ぜひとも奢らせてくれ。

 あっ、ちゃんとワンちゃん達用のお肉も用意してるから!」

「お酒は……護人さんはあまり飲めないんだっけ、そいつは残念だな。とにかく夕食を食べながら、親交を深めつつ今日の来栖家チームの探索動画でも観ようじゃ無いか。

 今夜泊まる場所も押さえてあるし、たっぷり食べて休んでくれ!」

「護人さんも疲れてるなら、運転手をこっちから出そうか。市内まで1時間も掛からないから、店につくまで休んでてくれていいよ」


 そんなこんなで、岩国チームの接待モードに見事乗っけられた来栖家チームの面々。“美川ムーダンジョン”を後にして、キャンピングカーと岩国チームの装甲車は市内へと戻る道をひた走る。

 護人も素直に愛車の運転席を三笠に任せて、助手席で休憩モードに。膝の上のミケを撫でながら、隣の若者と待っていた間に何をしていたとかのトークで盛り上がって。


 どうやら岩国の3チーム、大の野球好きが結構混じっているらしく。呑気に駐車場で、キャッチボールなどして時間を潰していたらしい。

 ソフトボールなら、私も姫香お姉ちゃんも学校でやってたよと割って入る香多奈に。岩国には、広島カープの2軍練習場があるんだよと三笠も地元トークに熱が入る。


 それは明日の休みに寄ってみたいねと、1日の休息日程に変な予定をこじ入れようとする末妹。錦帯橋きんたいきょうを巡るコースじゃ無いのと、戸惑う三笠になどお構いなしで。

 そんなのハスキー達が楽しめないよねと、球場を走り回る気満々である。探索の疲れなどどこ吹く風で、若いって凄いなと聞いてる護人も眩暈めまいを起こしそう。

 とは言え、観光とは行きたい所を巡るのが常識ではあるし。


 姫香もハスキー達が楽しめるなら、広い場所とかいいかもねと乗り気だし。去年の夏の研修旅行でも、マツダスタジアムに行けたと喜んでいたし。

 そんな訳で、明日の日程は一部強引に書き換えられそうな雰囲気である。護人も観念しながら、その程度の被害なら甘んじて受け入れる心積もり。


 そもそも錦帯橋と言っても、釘を一切使っていない木の橋ってだけで2分も鑑賞すれば飽きてしまう。後は岩国城に上ってみるか、付近の川辺を散策するか。

 近くの桜並木は、春は名所と呼ぶに相応しい場所には違いないけれど。この時期だと青葉を眺めるだけで、明らかに季節外れとなってしまっている。


 それならば、野球場でハスキー達とたわむれるのが上策なのかも知れない。今は使う者もいなくて、錆びれる一方の球場でも走り回るのに不便は無いだろうし。

 それよりも、お腹空いたねとか今日のダンジョンは凄かったねとか、子供達の雑談は相変わらずかしましいレベル。運転手の三笠も、調子を合わせるのに大変そう。


 護人に関しては、適当に話を合わせながら廻って来たスキル書やオーブ珠との相性チェックなどをこなして。いつもの調子なので、別にこの空間は嫌では無いのだが。

 初めて見る人は、疲れるだろうなとちょっと同情してしまう。


「これで相性チェックは終わりかな、ミケの分も終わったよ……残念ながら、俺もミケも全部反応ナシだったかな。今日は果実の類いは全く出なかったね、ちょっと珍しいな。

 それとも、“美川ムーダンジョン”じゃあ当たり前なのかな?」

「あそこは洞窟型ダンジョンなので、元から極端に木の実系のドロップは低いですね。逆に鉱石や宝石や貴金属系が多くて、それ目的の探索者が昔は多かったみたいですよ。

 今やB級ランクで、難易度のせいで廃れてしまいましたけど」

「そうなんだ……でもウチの地元じゃ、洞窟ダンジョンでも平気で木の実はドロップするよね? 単純にダンジョンの好みなのかな、まぁ木の実よりは宝石が出た方が嬉しいけど」


 現金な奴だねと姉に白い目で見られる香多奈だが、姫香も似たような感想なのは確か。虹色の果実とか、実用的な品なら話は別だが、木の実の販売価格は知れているし。

 来栖家では紗良が全て果汁ポーションにして、ギルドで使用する事になっている。凛香チームや星羅チームでも好評で、協会の江川など市内での販売を目論んでいるほどで。


 劣化防止魔方陣の瓶と一緒に、将来的には探索者の間で広まるかも知れないけれど。そうなると、紗良に関してはパテント料で食べて行けるようになるかも。

 それはそれで凄い事だと、護人も影ながら応援しているのが現状である。どっちにしても、木の実は温室でも栽培出来るようになっているので家では余り気味。


 そうなると、やっぱり木の実よりは宝石のドロップの方が嬉しいのは良く分かる。そんな事を姉妹で言い合いながら、結局はスキル書とオーブ珠の相性チェックは全滅のようで。

 続いて、魔法アイテムの仕分けを妖精ちゃんに頼む末妹である。この辺の流れは、毎回やっているだけあって淀みがない。そして鉱石の多さに辟易へきえきする子供たち、石炭を置いて来たと言うのに相当な量がある。

 もちろん、そんな中に魔法アイテムが眠っている訳もなく。


 今回は10層で戻って来ただけあって、その量も程々であった模様。それでも満足そうな香多奈は、萌を抱っこしながら今日もみんな頑張ったと良い笑顔。

 それが全てだと、護人も全く同じ思い。





 ――この後は充分に食って寝て、家族で次の探索に備えるだけ。






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