第503話 巨大ロボの間で手荒い歓迎を受ける件



 来栖家チームは本道にいるので、この衝撃の展開から逃げようと思えば比較的に容易だったのだが。これを挑戦と受け取ったペット勢は、物凄くヤル気で迎撃態勢を取っており。

 香多奈も同じく、みんな頑張れと無差別に『応援』を振り撒いて巨大ロボを指差している。いや、実際に攻撃の意志を示しているのは巨大ロボでは無いのだが。


 一部は確実に動いていて、ロボの口が大きく開いたと思ったら。その中から出るわ出るわ、まるで洪水のように吐き出されるモンスター軍団の群れ。

 種類もまちまちで、宙を飛んでいるのは大コウモリだろうか。もう1種類、電気を放ちながら飛んでいる小柄なコウモリも半数はいる模様。


 そして地上には双頭の大蛇やら大トカゲやら、5層で出て来た地底獣人やら。その種類はバリエーションに富んでいて、見ていてちょっと愉快かも。

 いや、掃討するにはとっても大変そうではあるが。護人もええッと言う表情で、その顔色は優れない。何しろ出て来た敵の数は、どう見ても軽く40体以上で。

 その仕掛けは、まるでモンスターボックスである。


「酷いな、ただ覗いてただけなのに……何が気にさわったんだ、こんな仕打ちに及ばなくてもいいだろうに短気だな」

「叔父さんっ、ブツブツ言ってないであいつら全部やっつけるよっ……あんなのタダの、経験値の塊だよっ!

 萌も前に出なさいっ、ガンガン倒していいからねっ!」

「護人さんっ、飛んでる奴等の相手は頼んだねっ。私たちは地上の奴らをやっつけるよ……あっ、接敵前に紗良姉さんに魔法を撃ち込んで貰おうか!

 ハスキー達、巻き込まれないように注意してねっ!」


 ハスキー達ばかりか、子供達にも逃走という言葉は無い様子で。張り切りながら、モンスターの群れの撃退作戦を練っている様子。

 そして言われるままに放たれた、紗良の先制の《氷雪》スキルは見事に巨人の口元に着弾した。派手に凍って行く敵の群れだが、モンスターの流出はまだ止みそうもない。


 仕方無く、護人も“四腕”を発動して戦闘参加する事に。弓矢でコウモリたちを撃墜しながら、敵が後衛に近付かないように位置取りする。

 その隣にルルンバちゃんも出張って来て、魔銃で護人のお手伝い。


 突然出現した空間は、円形の空洞みたいでなかなかの広さ。その奥に巨大ロボの上半身が横たわっており、その口からは依然としてモンスターが排出されている。

 天井も広くて、今では大小のコウモリが覆い尽くしそうな勢い。結果、たまり兼ねた護人が大声でミケに要請を飛ばす事態に発展して。


 それでも少し遅かったかも、いや増えた分はミケの『雷槌』で順調に減って行ってくれているけど。やっぱり容赦無いその猛威に、香多奈などテンションが上がってはしゃいでいる。

 レイジーも負けじと、久々にランプから炎の狼軍団を呼び出しての総力戦。敵の数が多過ぎるので、全部をカバーしようと思ったら賢い選択には違いなく。


 ツグミも真似をして、闇の巨大獣を召喚してそれに銀郎の毛皮を被せての兵力増強。滅多に使わないのは、やはりコスパがあまり良くないからだろう。

 それでもミケがウチ洩らした敵の数は、まだゆうに50匹以上はいるだろうか。ミケの落雷は凄まじく、ロボの口元周辺を破壊して更には30匹程度は道連れにしてくれたのだが。

 上空を始め、周囲に散らばった敵はかなりの数だ。


「レイジーと茶々丸と萌は、そのまま左側の位置をキープしてくれっ。姫香とツグミとコロ助は、もっと右側に廻ってくれ。

中央は開けて貰って構わないぞ、俺とルルンバちゃんで始末するから!」

「了解、追い込み漁だねっ……コロ助、向こうの敵は通しちゃ駄目だよっ!」


 呑み込みの早い姫香は、護人の作戦に素早く反応してくれた。そして大胆な程に空いた中央ルートだが、そこを通ろうとした敵はルルンバちゃんの波動砲で射抜かれる顛末に。

 それでいて宙を舞うコウモリも、魔銃で撃ち落としているのだから本当に器用である。護人も弓矢を“四腕”で使いながら、近付いて来た敵は近接で処理しようと思っていたのだが。


 ルルンバちゃんの射撃が凄過ぎて、後衛に到達する奴は皆無という。加えてミケも手伝ってくれているので、中央ルートは真っ先に淘汰されてしまった。

 その次に敵の掃討が片付いたのは、レイジーが戦力を水増しした左翼だった。茶々丸と萌も程よく頑張った模様で、消えた敵影に飛び上がって喜んでいる。


 そして右翼の戦いも程無く終了、後は討ち洩らした天井のコウモリを倒せば全て終了である。ここまで10分近くと、大規模戦闘にしてはまずまずの殲滅速度だった。

 ドロップ品を拾い始めるツグミとルルンバちゃんだが、それらはかなり多くて広範囲に散らばっていた。魔石(小)も結構混じっていて、雑魚ばかりでなかった事を物語っている。

 そして紗良の怪我チェックと、MP 回復の休息時間に。


「しかしまぁ、酷い仕掛けもあったモノだな……とんだアトラクションだよ、何だあの巨大ロボはっ!」

「叔父さんが怒ってる、珍しい……ルルンバちゃん、巨大ロボの口の中に何か良さそうなドロップ品が落ちてなかった?

 この前の“車庫ダンジョン”の、召喚装置のコアみたいな奴とかさ」

「本当、珍しい……確かに理不尽だったけどね、この仕掛け。ミケが止めてくれなかったら、どの程度までモンスターが溢れたんだろうね。

 ミケ、お手柄だったね!」


 そう姫香に褒められたミケは、エーテルを飲み終えてニャーと鳴いて。お礼に撫でろと姫香にすり寄って、抱きかかえられて喉元をくすぐられて満足そう。

 ドロップ品の収集役の末妹は、コロ助や茶々丸に脇を固められて巨大ロボの近くまで出張っており。絶対に何か得をしてやると、スマホを片手に息巻いている所。


 その迫力に押されたルルンバちゃんが、ようやくロボの口の中からドローン形態で飛び出して来た。そのアームには、何とソフトボール大の魔石が。

 確かに大きいけど、海への遠征で海賊船を討伐した際もこのサイズは見た事がある。まぁ、売れば100万円コースなのは間違いないサイズではあるけど。


 他にもあるでしょと、香多奈の欲望は果てが無い感じ。挙句の果てには、萌も焼け焦げた巨大ロボの顔に乗っかって、口の中に何か無いかなと覗き込み始め。

 そしてやっぱり焼け焦げた、元は立派な宝箱を発見してくれた。ドローン形態のルルンバちゃんと、萌が力を合わせてそれを外へと引っ張り出して。

 それを目にして、ようやく少女も満足そうな笑み。


 それを目にした姫香も、凄いじゃんと末妹の元に寄って来た。さっきまでは、ハスキー達と一緒にエーテルを飲んで休息をしていたのだが。

 常に1人で騒いでいる香多奈は、どこにいても家族内では目立つ存在には違いなく。今回も大騒ぎしながら、何とか破損した宝箱を開ける事に成功した。


 中からは鑑定の書や薬品類、魔結晶(大)が3個に魔玉(光)が7個といきなりのフィーバー。魔結晶(大)は1個50万の価値があるので、さっきの魔石(特大)をオーバーしている。

 もっとも、薬品類を入れていた瓶は破損して、中身は全て流れ出てしまっていたけど。ミケのヤンチャにも困ったものだねと、姫香はそう言ってとがめる素振りも無し。


 他にも金の延べ棒や立派なダイヤの散りばめられた王冠、同じくダイヤで装飾された片手剣など当たりの品がチラホラ。そしてオーブ珠や強化の巻物も出て来てくれた。

 敵の落としたドロップ品にも、スキル書や石系の素材が結構混じっていて。その辺は大激闘の名残とでも言おうか、姫香と香多奈もその収穫には満足そう。



 それから休憩の後に、揃って本道の探索へと戻る一行である。なかなかに熱い戦いとドロップだったねと、香多奈も後衛ではしゃいだ声を上げている。

 そしてそれは前衛のハスキー達も同じ事、熱戦をこなしてエンジンも温まり切っている感じで。時間も既に、インして3時間以上だと言うのに疲労の色は見えず。


 そんな一行に肩透かしを食らわせるように、5分もしない内に次の層への階段が出現した。敵との遭遇は皆無で、来栖家チームは何事もなく第8層へと向かう。

 そして本道にいたモンスターを、当たり前のように蹴散らして行くハスキー軍団。今度は変な仕掛けが無いと良いけどと、後をついて行く護人は気が気ではない。


 そんな願いが通じたのか、8層は脇道もほとんど無くて20分で踏破完了してしまった。そして突き当りの階段を降りて、これで第9層へと侵入を果たす事に。

 これでまたレア種とか出て来たら笑うよねと、末妹の香多奈はサラッと怖い事を口にするけど。9層も途中まで順調で、支道に6層と同じ仕掛けがあったのみ。

 つまりは鉱石掘りミニゲームで、これはこれで大盛り上がり。


 最初にピッケルを振るった姫香は、普通の鉱石みたいで残念賞と妹にはやし立てられる始末。じゃあアンタやってみなさいよと、次の挑戦者は香多奈と言う流れに。

 そして2番手の末妹だが、何と宝石の原石を掘り当てた様子で。これは良いモノかもと、少女は勝手に盛り上がっている。ちなみに3番手の紗良は、三葉虫か何かの化石だった。


 それはそれでレアじゃんと、慰められつつ次は護人にピッケルが回って来て。あまり気乗りせずに振るった壁の土から、ポロッと出て来るナニかの小袋。

 相変わらず常識を無視している演出だが、子供達は何か出て来たと盛り上がっている。代表して中身を確認する末妹、袋の中は金の粒や宝石がゴロゴロ入っていて。

 

 これは大当たりだと大騒ぎする香多奈である、そして掘り堀りガチャもその役目を終えたようで。壁が元の感触に戻って、幾ら掘ろうが土や岩しか出て来なくなってしまった。

 これで諦めがついて、先に進み始める一行である。



 そして9層の探索も程無く終了して、洞窟の突き当りに下へと続く階段を発見。そこで待っていたハスキー達は、さぁ次の階層だとテンションを高めにキープ。

 次の層が終わったら戻るからねと、最後の念押しの護人の言葉に。香多奈は率先して、は~いと元気な返事で盛り上がっている。


 どの道、明日以降も遠征日程で色々とイベントが詰まっているのだ。初日の今日に頑張り過ぎて、支障をきたしては勿体無いとの計算である。

 先月の遠征も、そう言う意味では終盤のフェリー船での海上任務が一番盛り上がった。今回も、そんな感じの変わったお仕事があれば言う事は無しだ。


 勝手にそんな事を思いながら、今日を含めた約1週間の行程を思い切り楽しむ予定の末妹である。定位置の後衛を歩きながら、いつにも増してウキウキ模様な少女に。

 思わず紗良も、ご機嫌だねぇと語り掛ける始末。


「だって去年までは、ほとんど家族で旅行なんてイベント無かったんだもん! 探索のお仕事でもお泊り旅行が増えてくれて、凄く楽しいじゃんっ。

 紗良お姉ちゃんも、家にこもり切りよりお出掛けあった方が嬉しいでしょ?」

「それはまぁ……ずっと同じ日常を送ってると、たまに変化は欲しくなるけど。今回も難易度の高いダンジョン探索がセットみたいだし、楽しみばかりじゃいられないよね」

「10チーム以上が間引きするレイドもあるんだっけ、楽しみだなぁ。秋吉台って、サファリパークとか鍾乳洞とかあるんでしょ?

 見て回る時間が無くても、ダンジョン内で楽しめるならお得だよね!」


 そう言う考え方もあるのかと、隣を歩く護人は末妹のポジティブ脳に感心し切り。ダンジョン探索は楽しい部分もあるけど、一歩間違えば命にかかわる危険な仕事である。

 子供たちは別の視点があるのかもだが、護人からすれば家族の安全を担う重責も当然あるし。浮かれてなどいられないが、子供達が楽しむ分には別に構わない。


 むしろそれを影で支えてやるのが、自分の任務だとも思っている。今回の遠征も、そんな感じで無事にやり過ごせれば良いのだけれど。

 ペット達の献身振りに支えられて、とにかく危険な探索はやり過ごせているけれど。レイド作戦となると、複数の探索者チームが絡んで来るので予測不能である。

 とは言え、今から思い悩んでいても仕方の無い事には違いなく。





 ――危険を跳ね返す力があると信じ、チームを信じてただ突き進むのみ。






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