第365話 無事に“アビス”遠征から我が家へと戻って来れた件



 怒涛の“アビス”遠征の依頼遂行から一夜明け、来栖家はようやくいつもの平穏な日常に……戻れたら良かったのだが、生憎と問題も一緒について来たりして。

 取り敢えずレイドを組んだチームと別れ、特に仲良くなった愛媛チームの『坊ちゃんズ』とは、また会おうねと再会の約束を交わして。帰路も何事もなく、夕方過ぎには愛しの我が家へと辿り着いた。


 それからお風呂に入ったり夕食を食べたり、やっぱり我が家っていいねと寛いだ時を過ごしながら。何故か一緒について来た、三原の“聖女”の存在に何を思えば良いモノか。

 護人もこれは協会と“ダン団”の間の案件だと、いったん彼女の身柄は協会預かりになるモノだと思っていたのだが。星羅せいらはそれを嫌がって、子供達もそれは薄情だと口添えした次第のこの結果だったり。


 そんな訳で何故か行き掛かり上、来栖家でのお預かりとなった星羅である。情が厚いのは別に構わないが、これでは確実に“ダン団”からの恨みを買ってしまう。

 まぁ、それも向こうにバレたらの話だけれど。幸いにもフェリー船に乗り込む際にも、恐らくは誰にも見咎みとがめられなかったとは思う。

 それでも、やっぱり噂の拡散って人が思うより早いモノ。


「大丈夫だよ、叔父さんっ……何とか変装とかで誤魔化せば、多分誰にもバレないんじゃないかなぁ? ずっと家に閉じこもってるのも、不健康だしもう春だもんね?

 協会の人も何も言わなかったんでしょ、ならこのままかくまっちゃえばいいよ」

「いや、まぁ……追い出すつもりは無いけど、向こうの組織は狂信的だから気をつけろって、各方面から釘を刺されたからな。

 取り敢えずみんな気をつけて、特に人の目はどこにあるか分からないから」

「了解っ、一応は凛香たちとゼミ生チームにも言っておくよ。後は動画の編集でも、星羅の映ってる所は入念にカットして貰わないとね。

 護人さん、協会への報告にはいついくの?」


 今回の“アビス”遠征は協会依頼だし、報告は早い方が良いだろう。前回みたいに魔法アイテムやら何やらを溜め込んで、紗良や能見さんを怒らせるのもアレだし。

 そう言うと、それじゃあ早速仕分けしなきゃと勤勉に動き始める子供たち。そんな訳で、まずは魔法アイテムの仕分けと、スキル書やオーブ珠の相性チェックを手分けして行う事に。


 妖精ちゃんにも協力して貰って、魔法アイテムの仕分けは割とスンナリ終了した。今回の回収品には、実はそんなに含まれてはいなかったみたい。

 その代わり、自販機の交換品と“双子の宝石”から貰った品には、良品がてんこ盛りな結果に。ちょっと驚きの性能の品が多くて、子供達もビックリしている。



【心の宝珠】使用効果:使用者はスキル《竜の波動》を習得

【毒の短槍】装備効果:毒付与・小

【水の篭手】装備効果:水耐性&防御up・中

【光の指輪】装備効果:光耐性&敏捷up・小

【珊瑚の首飾り】装備効果:水耐性&筋力up・小

【牙魚の骨】使用効果:鋭刃&水耐性・骨素材

【紫雲竜の鎧】装備効果:着脱&ステup&立体機動・特大

【紫雲竜の盾】装備効果:変形&ステup&不壊・特大

【鑑定プレート(生物)】使用効果:生物専用(鑑定)・永続

【ワープ魔方陣記憶装置】使用効果:記憶した魔方陣の座標に移動・全体

【魔導の書】使用効果:魔導の極みに近付ける・小

【静謐の結界装置】設置効果:結界効果・大


その他:『強化の巻物』 (攻撃)×3、(防御)×2、『護りの玉石』×2、『巻貝の通信機』×3、『魔法の鞄』(リュック)×2、『錬金レシピ本』×1、『レア素材3点セット』×1、『魔道ゴーレム予備パーツ』少々




 取り敢えず、“双子の宝石”が萌へとくれた物は、そのまま素直に萌の所有品へ。宝珠《竜の波動》は、竜の各種特性を数段レベルアップさせてくれるらしい。

 それに加えて特大効果の付与された『紫雲竜の鎧』と『紫雲竜の盾』である。装備者の体型にピッタリ合わせてくれる機能は、ずっと欲しかったモノなので有り難い。


 同じくルルンバちゃん用の『魔道ゴーレム予備パーツ』は、どうやら多脚戦車の下部パーツが混じっている模様。移動に問題のある現状、とても有り難いプレゼントかも。

 後はほぼ、自販機から子供達が交換した魔法アイテムで占められている。とにかく良品だらけで、既に使用済みの『ワープ魔方陣記憶装置』は神級の装置には間違いない。


 何と敷地内から、記憶されたワープ魔方陣へと転移出来てしまうと言う優れモノ。来栖家の場合だと、“鼠ダンジョン”のワープ魔方陣を記憶しておけば完璧だ。

 そしたら“アビス”や“浮遊大陸”へとお邪魔して、用事が済んだら速攻で戻って来れるのだ。夢のような探索日程が可能になるので、これは協会も欲しがるかも。

 そう思って、2台目の交換に踏み切った子供たちの頭脳プレーは凄いかも。


 もっとも、既に2つの位置情報を記憶してある装置は譲るつもりは毛ほども無い。“双子の宝石”陣営に直通のワープ魔方陣は、他人には教えるつもりは無い。

 それから『巻貝の通信機』3つは、完全に“喰らうモノ”の再突入に備えての交換品だ。同じく『静謐の結界装置』も、長時間の探索が増えるかもと交換した品。


 『錬金レシピ本』と『レア素材3点セット』は、紗良の趣味と言うかリリアラへのお土産の品だ。これも、貰ったメダルとリングの数が多かったから出来た贅沢である。

 ついでにリュックタイプの『魔法の鞄』を交換したのも、換金して儲かりそうだったから。こんな欲望に走れたのも、メダル10枚で交換出来る品が企業売りでも百万以上になるからだ。

 これは主に香多奈の、我儘がまかり通った形である。


 後の2点だが、『鑑定プレート(生物)』と『魔導の書』と言う交換アイテムとなった。鑑定プレートはメダル40枚と高額で、ただし性能はピカ一で何の文句も無い交換品だ。

 何しろ今までは、使い捨ての鑑定の書(上級)を使用して個人のステータスを確認していたのだ。ところが、これを使えば何度でも何人でも鑑定が可能と言う。


 もう一方の『魔導の書』は、どうやら魔法スキルを強化してくれる使い切りの魔法アイテムらしい。試しに1枚だけメダル10枚を使って交換したけど、性能が良ければまた立ち寄って、何枚か交換しても良いかも。

 ちなみにこの品は、満場一致で紗良へと融通される事となった。《氷雪》の制御に苦労している姉を見て、何とかしてあげたいと妹達が思った結果である。


 ついでにチーム全員のレベルチェックを行ったが、この短期間でほぼ全員が30前後に上がっていた。茶々丸と萌でさえも、20を超えていて素晴らしい伸び。

 探索回数こそ増えていないけど、異世界に行ったり到達階層が伸びてたりと濃い経験をしているせいかも。何にしろ、この調子で頑張って行きたい所存。

 何しろ“喰らうモノ”攻略は、既に確定のイベントなのだから。


 その点、今回の探索で得た魔法アイテムは、チームの補強に物凄く役立ってくれた。その勢いのまま、香多奈はペット達のスキル書の相性チェックを頑張ってこなした。

 今回はオーブ珠2つにスキル書5枚で、それを全員でやるとなると時間は結構掛かってしまう。それを遠くから見守る星羅は、この子ナニやってんだと言う表情。


 我が儘を言ってこの家族チームについて来たのは、やはりこの雰囲気が信頼出来たからに他ならない。“ダン団”組織には戻りたくない彼女は、他にすがる場所を持たないのだ。

 それを愛情深く、或いは何も考えずに迎え入れてくれた来栖家には感謝の念しかない。ここはご飯も美味しいし、居心地の良さは“ダン団”の比では無い。

 何より心の芯から寛げる場所に、星羅は久々に安心感を得ていた。


 “ダン団”では大切に扱われていた“聖女”だが、それは神輿みこしとしての扱いに他ならず。重宝されていたと言う方がしっくりする感じで、彼女の意思はまるで反映されてはいなかった。

 それでもそこに所属していたのは、元のチーム員がその待遇に満足していたからだ。地位も食糧も約束されていて、働くのは星羅だけと言う妙な境遇ではあったけど。


 両親が既に他界している星羅にとって、チーム員の存在は家族そのものだった。皆が今の生活を望むならと、無理をして組織にかつがれていたのだ。

 ところが、それはまるで治療薬としての扱いをされる日々。その上に、危険な“アビス”探索の同行を言い渡され。これ以上この組織にいたら不味いと、ようやく逃亡を決意した次第である。


 それが幸運にも、来栖家チームに拾われて何だかんだで現在に至ると言う。嬉しい誤算に、自分の運も捨てたモノじゃ無いなと内心でガッツポーズの星羅である。

 しかしこの家族、やってる事が無茶苦茶なのは如何いかがなモノか。ペットにスキル書を与えるなど、常識の斜め上を行く行動である。


 しかも慣れているのか、ハスキー犬を筆頭に大人しくそれに従うペット達。可愛い肉球を順番にプニッと押し当てて、それを末妹が見事に仕切っている。

 仕舞いには、その1枚がついにハスキー犬のリーダーに反応すると言う。認証の光が周囲に溢れ出し、それを見ていた周囲の面々は喜びながらレイジーを祝福する。

 それを眺めていた星羅は、その場の温かさに思わず泣きそうに。


「やったね、おめでとうレイジー……前回はツグミとコロ助がスキル覚えて、レイジーはハブられてたもんねっ!

 どんなスキルを覚えたのかなぁ、楽しみだねっ!」

「凄いねっ、レイジー! あっと、今回から鑑定プレート(生物)で覚えたスキル名が分かるんだっけ?

 でもまぁいいや、妖精ちゃんに頼んでよ、香多奈」


 誇らしげなレイジーを、それぞれ存分に褒めそやす子供達である。護人も近寄って頭を撫でてやり、その辺は信頼の構築な余念がない感じ。

 縁側はいつものように賑やかで騒がしく、それがいつもの来栖家の日常なのだろう。驚きに目を見開いてる星羅だが、姉妹のリアクションは至って普通。


 どんな空間なのよと、思わず内心で突っ込みを入れる星羅である。それでも末妹の配慮により、一緒にスキル書の相性チェックに混ぜて貰えてホッコリしてしまった。

 結局、家族全員でのスキル相性チェックは、それ以降は誰も反応せず。残念な結果に終わってしまったが、レイジーと萌の強化は素直に嬉しい限り。


 妖精ちゃんに調べて貰った結果、レイジーが覚えたのは『針衝撃』と言う攻撃スキルみたい。針のように細い衝撃波を飛ばすスキルとの説明を聞いて、あまり強くなさそうと香多奈の感想に。

 それじゃ自分で試してみなさいよと、姉の姫香の挑発混じりの混ぜっ返しが。危ないからよしなさいとの護人の忠告を振り切って、試してみるよと香多奈はノリノリ。

 お調子者の血がそうさせるのか、体を張っての実験が行われる破目に。


 レイジーは明らかに乗り気では無かったが、末妹に催促されて使い慣れないスキルを実行してくれた。その拍子に飛び上がって、何かに刺されたと騒ぎ始める香多奈。

 いい罰だよと、姫香の口調は相変わらずの素っ気なさ。どうやらこのスキル、物質伝いに衝撃波を飛ばす類いの攻撃技のようである。


 威力の程は人相手では実験出来ないが、さすがに今度は最大ダメージでとは言えない香多奈。また今度、訓練の時にでも検証しようねと、紗良がさり気なくフォローしてくれた。

 これで魔法アイテムと相性チェックは、全て終了の運びに。



 それから来栖家は、協会に換金作業と報告に出向く事に。そしてここでも毎度のひと騒動、一緒について行きたい茶々丸が駄々をね始めたのだ。

 今回は星羅もいるし、家で護衛に残ってくれる戦力も必要だよと。そんな感じでなだめすかして、何とか茶々丸と萌とルルンバちゃんには敷地に残って貰う事に成功した。


 協会への訪問は、ハッキリ言って特に面白いイベントでも何でも無い。茶々丸はどうやら、仲間外れにされるのが大嫌いみたい。

 そんな理由での我が儘なので、家族としても強く叱る訳にも行かず。とは言え割と良いサイズの仔ヤギを、キャンピングカーに乗せて同行させるのも辛い。


 《変化》のペンダントは生憎あいにくと1つしかないし、萌との融通で何とかして貰うしか。《巨大化》のスキルの他に、小さくなれる奴もあれば良いのにねと香多奈は思い付きを口にする。

 聞き分けの良さに関しては、ハスキー達とミケをのぞけば萌が一番だろうか。と言うよりも、彼はあまり孤独が気にならない性格のように思える。


 次いでルルンバちゃんだが、彼は物凄く素直で家族の言う事は何でも従順に従うタイプ。たまにねたり落ち込んだりと、精神年齢は意外と幼いのかも知れない。

 その辺は家族も理解しているので、ルルンバちゃんの取り扱いはみんな慎重である。そして一番ヤンチャで我が儘な茶々丸は、家族の中では何故か三男坊扱いと言う。

 性格からすれば、そこはまぁ順当なのかも知れない。





 ――そんな感じで、午前中から賑やかな来栖家のリビングだった。






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