第194話 今年最後の青空市が波乱を呼ぶ件
先月探索したダンジョンは3つだが、1つは11月の青空市と被ってしまい。そちらに回収アイテムを出品したので、今回の出品アイテムは実質2回分の探索回収品である。
それはそれで良いのだが、目玉商品的にはちょっと弱いかも。前の売れ残りのミスリルの剣や兜、日本刀なども一応はまだあるけれど。
探索者の来訪が増えてくれなければ、その売れ行きも伸びてくれない気もする。吉和の“もみのき森林公園ダンジョン”は、未だに収束の兆しを見せないそうだし。
そちらは期待薄かも、ただし広島市の治安は先月よりはかなり回復しているそうだ。協会の仁志支部長の情報なので、その辺は正確だと思われる。
ラインの通知によれば、今回も怜央奈は遊びに来るそうだし。
今年最後の青空市、ぱあっと売り上げを伸ばして締め括りたいと紗良と姫香は張り切る次第。とは言え、先月のお祭り開催程の来客は、恐らくは見込めないだろう。
事前の確認では、しかし来栖家の借り受けた販売用ブースは先月と一緒でグランドを追い出された場所になっていた。そこはキャンピングカーの配置も楽なので、別に構いやしないのだが。
峰岸自治会長の話では、先月の売り上げに味を占めた企業や個人が、今月もブースを借りたいとの申し込みが多く。それに対応していたら、こんな配置に落ち着いたとの事。
そして始まった12月の青空市、やっぱり先月に負けない程に来客数は多い気配が。そして販売ブースの数も同じく、どこかで祭りでもやってるのかなって気さえする程。
そして来栖家のブースは、野菜と漬け物の売り上げで超多忙の有り様。
「うわあっ、どうなってんの……今月はお祭りも無いし、2日連続の開催でも無いのに。凄い人波だよっ、駐車場とか完全にパンクしてるんじゃないかなっ!?」
「そうだねぇ……やっぱり噂が人を呼んで、その結果がこんな感じになっちゃったのかな? どっちにしても、都会は相変わらず食糧難らしいからねぇ。
田舎に買い出しのついでにって人も、割と多いんじゃない?」
忙しく客を
そして収穫したばかりの、大根や白菜やキャベツ達はあっという間に無くなって行く。恒例の事ではあるけど、その凄まじさは息を継ぐ事すら困難なレベル。
ただし売るモノが無くなってしまえば、その忙しさも波が引くように穏やかになって行くのもいつもの事。そして実際に、1時間と経たずしてそうなってしまった来栖家のブースである。
茫然と椅子に腰かけたままの姉妹を尻目に、毎度の香多奈はそれじゃあ遊びに行ってきますと言い残し。ちゃっかり護人にお小遣いを貰って、コロ助を引き連れて駆けて行く。
今回の屋台も、どこも楽しそうなのは遠目からも窺えて。
「ああっ、今回も色んな屋台出てるねぇ、紗良姉さん……前回は変なダンジョンが生えたせいで、何かせかせかしちゃってたよねぇ」
「そうかもね、姫香ちゃん……今回は午後の暇な時間、交替で休憩取ろうか?」
それも良いかもねと、2人で示し合わせる姉妹である。考えてみれば、今まで参加していた青空市ではそんな自由時間は無かった気が。香多奈ばかりが遊び回って、本当にちゃっかりさんだと姫香は内心で憤慨しつつ。
今回も凛香チームの誰かに応援を頼んで、店番をして貰えば全然平気だろう。などと思いつつ、2人してブースの机の上の商品の並べ替え作業など。
目玉商品は、やっぱりミスリルの剣や兜だろうか。それからスキル書やオーブ珠も、今回は溢れる程に揃っている。エーテル5ℓが、まぁアクセントになるかなって感じ。
他にも日用品や昔の玩具、神社で入手したお酒とかもあったりして。これは贅沢品だし、少々高く出品しても良いかなと紗良と姫香の作戦は決まって行き。
そしたら並べた途端に、おっちゃん連中が集まり始める始末。
そして速攻で売れる、煙草1カートンやらお洒落な灰皿やら。ライターも5個あったのが、あっという間に無くなって。パチンコ店ダンジョンのドロップは、物凄くはけが良い。
制汗剤もおっちゃんが、それから神社ダンジョンの酒瓶はおっちゃんとおばちゃんが半々ずつ買って行った。どちらにしても、少々高めなのに交渉もせず速攻で消えて行くとは。
どっちにしろ、再びブース前にお客が溢れて来たのは良い兆候である。姫香はさり気なく、地元の大蔵神社のドロップですよと縁起の良さ(?)をアピールして。
その言葉に釣られて、恐らく地元のおっちゃん達が金の盃や朱塗りの盃を購入に至ってくれて。おばちゃん達も、文鎮や筆や半紙の書道用具を買って行った。
その購入の勢いで、ブース前の人混みは未だ衰えず。
そして流れに乗って、恐らく遠方から来たっぽい若い兄ちゃん3人組が、石のナイフと錫杖を購入。格好良いと思ったのか、自衛用の武器が欲しいと思ったのかは謎だけど。
続いて高齢のお婆さんが、おはじきとお手玉を買って行ってくれて。ついでにお菓子の差し入れもくれたので、地元のお婆さんなのだろう。
日用品では無いけど、魔除けの札や羽子板も珍しさからか売れて行って。年末の縁起物と思われたのか、ひょうたんやら白い徳利も順調にはけて行って。
そしてとうとう、魔法のアイテムの『漆黒の硯』も買い手がついてくれて2万円の収入に。これは魔石のセットで墨汁が勝手に出て来てくれると言う優れたアイテム。
買って行った人は、恐らくは書道関係の人なのだろう。
「今日はなんだか調子が良いね、紗良姉さん……探索者のお客は来てないけど、日用品関係のアイテムがほぼ売れて行ったよ!」
「そうだねぇ、後は本当にスキル書が1枚でも売れてくれれば万々歳なんだけど」
何せスキル書は、2度のダンジョン攻略で7枚もあるのだ。オーブ珠も1個あって、これも探索者稼業のお客が多く来てくれないと売れ残ってしまいそう。
凛香チームが、今回から協会のお手伝いに運営役で駆り出されているのが少々痛い。お陰でこのブースは、朝から来栖家チームのみで回しててんてこ舞いの有り様だ。
それでも嵐は何とか耐え切ったので、あとはお昼を挟みつつのんびり探索用品が売れるのを待つ感じだ。売り子の2人は、早めにお昼を取っても良いかもねと話し合っている。
そこにやって来たのが、早めの休憩に入った凛香チームだった。手にはそれぞれ、焼きそばやらお好み焼きやらを大量に持っている。その後ろからは、香多奈と最年少の子供達も。
お昼は家族で、殊勲なのかちゃっかりなのかは評価の分れる所。
「断りもなく済まない、勝手にそちらのお昼も買って来てしまった。そちらの香多奈が、どうせ一緒だからと……追加で欲しいモノがあれば、買い足しに行くけど」
「あっ、ありがとう凛香ちゃん……お握りも家で用意して来たから、その位で足りると思うな。護人さんのテーブルで、一緒に食べようっ!」
そこからは騒がしく、2チームでの野外のランチタイムに突入。テーブルを余分に用意しても足りないので、香多奈と和香と穂積は更に予備の小テーブルである。
それでも楽しそうに、食事に取り掛かる子供たちである。ただし、テーブルの低さにハスキー軍団に完全にロックオンされて、何度も襲撃に遭うのは仕方の無い事か。
お陰で昼食の大半は、食いしん坊のコロ助たちの腹の中へ。それでも楽しそうなのは、それを見た家族が自分の食べ物を分けてくれるから。
食糧事情の良いこの地に引っ越したのは、本当に良い判断だったと今更ながら思う凛香である。年少組の笑顔が増えたのが、何より有り難い。
所帯じみた思考のまま、自分のお好み焼きを穂積に差し出す凛香。
それを見ていた紗良が、笑顔で凛香のお皿にお握りを乗せてくれる。自分とそんなに年齢は違わないのに、その所作はまさに母親である。
隣に座る隼人は、そんな感動に水を差すように食欲旺盛でゲンナリするけど。そんな隼人の“変質”処置すら、中級エリクサーを常に持ち歩くと言う荒業で解決されてしまった。
本当に凄いと凛香は思う……大人が凄いと言うよりは、この来栖家の常識が一般とはかけ離れているのだ。その位は分かる、一般常識などこの家族には通用しない。
今足元を通った、飼い猫のミケもその良い例だ。姫香がすかさず反応して抱き上げているが、この猫は恐らく自分や隼人より強いパワーを有している。
それは子供達に食い物を強請ってる、ハスキー軍団も同じく。
そんな騒がしいランチが終わって、店番について子供たちが話し始めた頃。販売ブースと来栖家に、同時に来客が。それに騒がしく応対し始める子供達と護人。
ブースに来たのは、すっかりお馴染みになったチーム『ジャミラ』の佐久間達だった。今回はエーテルの販売が多いと知って、どれだけ買おうかと盛り上がっている。
そして護人の方には、10月の遠征で顔見知りになった、ギルド『羅漢』の雨宮の来訪が。地元が大変な中訪れたのは、どうやら訳ありな模様で。
それならと、護人はキャンピングカーの中へと招き入れる仕草。周囲に人目があると、彼も体裁が悪いのかもと
何と言うか、話はもう少し大きかった模様で。
「あれっ、こっちの方が早く着いちゃったみたいですね……A級ランカーの甲斐谷さんが、今回の遠征の音頭を取るって窺っていたんですけど。
ギルマスの森末さんから、くれぐれも宜しくって頭を下げて来いと言われまして。10月の遠征で顔見知りの自分が、こうやって遣わされた次第であります。
あっ、これ……つまらない物ですが、子供様やお犬様にドウゾ!」
子供はともかく、犬に様付けはどうかと護人は思うのだが。ハスキー軍団の実力を知れば、それも無理からぬ事ではあるのかも知れない。
中身を見ると、今ではすっかり珍しいドックフードともみじ饅頭が大量に入っていた。それから雨宮の言葉の真意だが、甲斐谷から聞いて欲しいとの事で。
護人もお茶を振る舞おうとしたのだが、雨宮は用件を済ませるとその場を速攻で去って行ってしまった。寄って来たのは、美味しそうな気配に気づいた妖精ちゃんのみ。
偏食の妖精ちゃんは、基本お昼は食べないのだが。スイーツとなると話は別で、早速袋を開けろと護人をせっついて来る。言葉は通じないが、その動作で欲しいのを察した護人が給仕に勤しんでいると。
急にキャンピングカーの、扉をノックする音が。
青空市の際には、町の外からのお客が多いのは体験上知ってはいた護人だが。連続での来訪に、驚いて扉を開けて2度ビックリする破目に。
先ほど雨宮も話題に上げていた、A級ランカーの甲斐谷がそこに立っていて。そして知らない内に、外では雪が降り始めている模様。
姫香の膝上のミケが、キャンピングカーの扉が開いたのを知って、大人たちの足元をすり抜けて車内へと戻って行った。確かに外の寒さは、昼過ぎとは思えないレベル。
妖精ちゃんが、天敵の侵入に慌てて饅頭を手に天井へと避難している。それより先月に続いての大物の来訪に、護人も戸惑いを隠し切れない表情である。
逆に向こうは落ち着いた様子で、今回はビジネスの話て来たそうな。
「いや、前回の鎧の融通は本当に助かったよ……お陰で市内の野良騒ぎも、ようやく落ち着いて来てね。それですっぽかす形になった、10月の大規模レイドの贖罪をしようと。
ウチの巫女姫も予言をした、“もみのき森林公園ダンジョン”と“三段峡ダンジョン”のはしごを12月に行おうって話になったんだけど。
何しろ雪深い山間の冬だし、協会は良い顔しないのよ」
「そりゃまぁ、ここより北はスキー場がバンバンあるような土地ばっかりだし。移動も大変だってのは、理屈としては分かりますが……」
「確かにおっしゃる通りです、来栖さん……でもオーバーフロー騒動が起きてから慌てても、遅いのは吉和の件を見てもお分かりの通りかと思います。
今はあの悲劇を、一刻も速く沈静化させるのに手を貸していただければと」
アレっという顔で、“巫女姫” 八神の言葉に違和感を感じる護人である。ビジネスの話と前置きして入って来た、彼ら『反逆同盟』の真意は何だろう?
ってか、地元が大変な筈の雨宮がここに来た時点で、ある種の計画が進行中なのは何となく察してしまった護人。つまりはその真冬のダンジョンの“はしご”に、来栖家チームも同行して欲しいと。
甲斐谷と一緒に入って来たのは、先月と同じくチーム員2人だった。“巫女姫”八神と盾役の椎名、どちらも20代と若々しく探索者に相応しい覇気を備えている。
対するこちらは、30代のおっさんに子供にペット達。頼むならもっと良い条件のチームがあるだろうと、護人は内心で苦情の嵐。
心情では、真冬に山道を移動などしたくないのが本音である。
「今回はウチのチームと翔馬の『ヘリオン』のメインチーム、それから岩国の『ヘブンズドア』も参加してくれるそうだ。ギルド『羅漢』からも2チーム参加するし、トップチームばかりだから成功率も安全度もかなり高いぜ?
八神に天気情報を占わせて、積雪の無い日を移動日に当てる予定だし。協会本部をせっついて、軍資金も結構出して貰える筈だ。
そちらのチームも今やB級2人だろ、協会本部も当てにしてるって話だし」
「そうそう、西広島の平和を取り戻して1週間ほど温泉に浸かって帰る簡単なお仕事だよ? 子供達も喜ぶと思うなぁ、まぁどっちのダンジョンも高ランクだけど」
いやいや、いやいやいや……こちらに平和を守るなんて殊勲な考えは無いし、本部からの期待なんて関係のない話である。下手なお世辞もいらないし、A級ダンジョンなんて潜った事も無い。
ただ、子供たちが喜ぶかも知れないのは、否定できないのが何とも。そして吉和の町だが、この町ともそれ程距離的に離れている訳では無い。
大規模なオーバーフローが起きれば、この町だって危ういのだ。
――さて、この唐突な依頼だが受けるべき?
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*誠に済みませんが、1~2ヶ月ほど投稿がストップする事となりました。実はウチの立地が、この主人公家族と似たようなド田舎でして。
今回の『ADSL回線』の撤退で大慌て……我が家は、光通信サービスの範囲からも外れているとの立地条件で。慌てて別のサービスを探したところ、その工事申請にその位掛かるとのお話でして。
そんな訳で、しばらくお待ち頂けたらと。出来れは他の作品『マイナスからの成り上がり~異世界バトルロイヤル』や『ミックスブラッド』や『竜と聖魔とバツ2亭主』などを読みながら、待って頂ければ幸いです。
ストック増やしておきますので、再開までしばらくお待ちを!!
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