第190話 家族で出玉での勝負合戦に至る件
8層のモンスターは、他にも色々とドロップした様だ。例えば鋼の大槌とか、お福面もタヌキ獣人が落とした模様。何故かは分からないが、落としたのだから仕方が無い。
さっき騒いでいた香多奈だが、パチンコ台の隅っこに玉が満杯に入ったドル箱を発見したそう。それを自走カートに搭載して、これで今日の稼ぎは3箱半になった。
まだまだ足りないが、これを資本に幾ら増やすかがパチンコの醍醐味ではある。ところが肝心の稼働している台が、なかなか見つからず焦り始める子供たち。
もっとも紗良だけは、そんな妹達とは一線を画している様子だけど。彼女はどうやら、ギャンブルの類いは心理的に受け入れないみたいで。
まともな娘が少なくとも1人いて、何となく安心する護人である。
「さて、いよいよ9層だねっ……ここに打てる台が無かったら、たったこれだけで景品交換になっちゃうよ。
それだと依頼未達成って事になるのかな、護人叔父さん?」
「どうだろうな……15層に潜るか、日を改めてまた出直すか。企業依頼って、案外と面倒臭いな。日給貰ってるから、駄目でしたなんて言えないもんな」
「それもそうですねぇ……向こうも生活掛かってるから、信頼のある探索チームに依頼を出した訳だから。
その信頼を裏切るのは、やっぱり心苦しいですよね、護人さん」
キッチリと紗良の言う通りだ、駄目でしたテヘッとは、社会人として決して言ってはいけない台詞。そんなプレッシャーを感じつつ、9層の探索を始める。
相変わらず敵の群れは、ハスキー軍団とルルンバちゃん任せの探索振り。他の面々、つまりは護人と子供たちはひたすら打てる台を探す。
いや、光の灯ってない台でも一応玉は打てるのだけど。
フィーバータイムに突入するまで、凄く時間が掛かるハンデを背負っているだけ。つまりはやっぱり、最初からフィーバーしている台を探すのがセオリーではある。
その甲斐あってか、ようやくの事光が派手に灯っている台を発見。
しかも今度は5台もある、これは家族総出で打ってみるべきか? などと悩んでいると、ルルンバちゃんがドロップ品を拾って戻って来た。
さっきの層より速いけど、どうやら例のコインを纏めて持って来てくれたらしい。それを見て、軍資金が増えたねと素直に喜ぶ姫香である。
そして毎度の無茶振りは香多奈から、ついでにルルンバちゃんも打ちなよと。
「えっ、確かに5台分あるけど……ルルンバちゃんにハンドル回せるのかな?」
「平気だよ、《念動》の手袋をちゃんと小型ショベルにもくっ付けてるから。ルルンバちゃんはその一番端っこの台ね……ほらっ、コイン4枚分の軍資金ね!」
ここまで集まったコインは21枚で、確かに1人頭4枚で合ってはいる。1人だけ1枚多いが、協議した結果紗良と妖精ちゃんのペアが5枚スタートで始める事に。
コインを玉貸機に投入すると、どうやら勝手にフィーバータイムが始まるらしい。そして打てる時間がカウントダウンされて、その時間内しか打てない仕様みたいだ。
今回は30分だそうで、皆の顔付きは一斉に真剣になる。
香多奈だけは、隣のルルンバちゃんにルールを教えながらののんびりムードだったけど。今回は姫香がミケを抱っこして、左手で撫でながらの玉打ちである。
その隣では、護人がいかにも自信が無さそうに台と睨めっこしていて。一番左端の台では、同じく小首を傾げながらの紗良の参戦である。
但し彼女の右手には、妖精ちゃんの監修がつきっきりと言う状況。
その演技指導は割と熾烈で、もっと右寄りにしろとか、ちょっと行き過ぎたぞと
それにしても、ギャンブル好きな妖精なんて……この5台の打ち手の中で、一番熱中しているのがこの小さな淑女だと言う事実。そして早くも大フィーバーが掛かって、何故か慌てる紗良である。
そのせいでハンドル操作をミスって、また手を叩かれる破目に。
「わっ、紗良お姉ちゃんが一番初めに、画面を賑やかにしてるっ! 凄いなぁ、私たちも頑張るよ、ルルンバちゃんっ!」
「あっ、これは妖精ちゃんの仕業だからっ……!」
ギャンブル上手と思われたくない紗良は、必死の言い訳を始めるけれど。続いて姫香が、その次には何故かルルンバちゃんがフィーバーに突入して、この一帯は空前の騒々しさに。
その頃には、受け皿から出玉が溢れそうになっている紗良の前の台である。仕方なく、護人が打つ手を止めて玉の回収作業を始めていると。
こっちもお願いと、姫香が慌てた様子で懇願して来る始末。
その頃には、妖精ちゃんが狂喜乱舞して、自身の発光の仕方が既に並みじゃない程に。何か確変したって言ってると、香多奈の通訳は誰も理解には至らなかったけど。
出玉は依然と好調で、終いには香多奈の台もフィーバーに突入する破目に。これで護人を除く4台が、良く分からない騒々しさを発し始めた。
少なくとも、遠くから見つめるハスキー軍団からはそう映っていた筈である。護人は既にギブアップを宣言して、出玉をドル箱へと詰め替える作業に徹する事に。
このパチンコ台、どうもそんなに新しいモノでは無いらしい。そもそも店が潰れたのが、十年以上も前だと言う話を聞いた気もするし。
最新のパチンコ台は、もう少しシステムも整っているのかもだけど。
「どうよ、姫香お姉ちゃんっ……ミケさんがいなくても、私とルルンバちゃんはいっぱい玉を出してるよっ!? 参ったを言うなら、今の内だからねっ!」
「
完全にミケの豪運頼りの姫香は、逆に天晴な気もするけれど。香多奈とルルンバちゃんのコンビも、既に出玉は2箱目に突入で物凄い勢い。
ちなみに紗良と妖精ちゃんのコンビは、4箱目に突入してその勢いは減じる事は無い。姫香の言う10分を切った時点で、何故か本当に姫香の台も確変に突入した模様で。
ひゃっほうと奇声を上げて喜ぶ姫香、その姿を嗜める護人はちょっと力の無い感じ。やはり子供の方が一時的にも力関係が上になると、例え仲良し家族でもギクシャクしてしまう感じは否めない。
それはともかく、ミケの豪運はやはり伊達や酔狂では無かった。紗良と妖精ちゃんのペアに並びそうな勢いで、今や出玉を放出している。
完全に出玉管理の仕事人と化した、護人がそれをドル箱に回収して行き。
結局はタイムアップまで、護人の出玉は増える事も減る事も無く終了の運びに。そして一番出玉を稼いだのは、ダークホースの紗良&妖精ちゃんペアだった。
その結果に悔しがる姫香と、姉たちはともかくルルンバちゃんに負けた事を悔しがる香多奈。姉妹して悔しがっていて、何とも似た者同士だなって感じである。
そして改めて驚愕の事実、子供達で実に12箱以上の実績を叩き出していたと言う。たった30分で、最初からフィーバー状態だったとはいえ何と言う豊作振り。
カート上のドル箱は、何だかんだで合計16箱に。
その自走カートを従えて、降り立った10層のエリアだけれど。定番の雑魚掃除を無事に終えて、やって来たのは中ボスの間の扉前である。
ようやく出番だと、戦闘の準備を始める護人と姫香。香多奈などは、絶対にハムセットを交換して貰うからねと、呑気にコロ助相手に語っている始末。
緊張感は無いけど、まぁ末妹はいつもこんなモノではある。そして準備を整えて突入した中ボス部屋、今回は3メートルを超すゴーレムがお出迎え。
良く見ると、そいつの胴体にはパチンコ台が嵌め込まれており。良く分からないけど、賑やかに点灯して稼働状態なのが窺える。そしてそいつのお供に、セイウチ獣人が2体ほど。
確かにここまでの道中で、一番強そうなモンスターではあるが。
いきなりの姫香の投擲に、ゴーレム胴体のパチンコ台は完膚なきまでに破壊されてしまった。一歩も進まない内に、膝から崩れ落ちる哀れな巨体モンスター。
そして一応は、勇ましく前進し始めたセイウチ獣人2体だけど。出迎えたハスキー軍団とルルンバちゃんに、何とも簡単に捕まってしまい。
武器を2度振るう暇も無く、魔石へと変わって行く体たらく振り。
5層のボスだったのに、何とも哀れではある……もっとも、5層でもちっとも粘れなかった敵だけど。そしてその奥のボスゴーレム、倒れる直前に劇的な変化が。
何と胴体から、派手にパチンコ玉を放出し始めて。流れ出る玉に、思わず足下を
それは勿体無いと、姫香は思わずツグミに回収のお願い。
最近は、影だか闇だかを扱うのが上手になって来たツグミだけど。ご主人の要望をしっかりと聞き届けて、お得意の影での捕獲を広範囲で操作する。
その隣では、ルルンバちゃんが同じく吸い込みでパチンコ玉の捕獲に勤しんでいて。中ボスゴーレムが魔石に変わるまで、そのおかしな現象は数十秒続く事に。
恐らくだが、その出玉放出もドロップの一部だったのだろう。姫香の機転と言うか、ツグミとルルンバちゃんの頑張りで、何とかそのドロップも半分以上拾う事に成功して。
予備のドル箱に入れてみたら、2箱半程度になると言う快挙。
それを素直に喜ぶ姫香と香多奈、ちなみにその他のドロップだが魔石(中)が1個と魔石(小)が2個、それからスキル書が1枚落ちていた。
それから部屋の端に置かれていた宝箱だけど、最後に帳尻を合わせるように金色で。喜び勇んでの開封作業、そして中からいきなり顔を出すオーブ珠2個と言う。
それから鑑定の書(上級)が4枚に魔結晶(大)も4個、強化の巻物っぽいのが2枚ずつ2種類。更にはお洒落な忍び服みたいな服が、上下&頭巾セットで出て来て。
結構な豊作だが、他にも大槌が1本と大き目の緑色の旅行鞄が入っていた。その鞄を見て、来栖家の一同にアレッと驚きの波紋が広がって行く。
ひょっとして、コレって魔法の鞄では??
「えっと、護人叔父さん……持って帰る鞄の個数って、何か指定はあったっけ?」
「いや、多分だが幾らでも買い取って貰えると思うぞ。まぁ、ウチのチームでは全員分行き渡っているけど、ゼミ生チームや『ユニコーン』の分とか考えると、欲しい個数はキリが無いな。
まぁ、今回は企業案件だから全部売ってしまおうか」
「そうですね、それじゃあ交換作業かな……確か、あの機械に持ってる玉を入れると、自動で個数を自動で数えてくれるんだったかな?」
「そっか、それで交換可能な品を、あっちのパネル操作で選んで行くんだ……コロ助っ、絶対に高級ハムセットをゲットするからねっ!」
香多奈のおねだりは、僅か出玉1千個で呆気無く叶ってしまって終了の運びに。それからブランド鞄を2つ、2万玉近くを利用して交換に至って。
残りの玉数は9千個程度で、スキル書の交換にはちょっと足りない。どの道そんなに欲しくは無いと、子供たちは残りの交換は適当に欲望任せで行う事に。
結果、景品置き場のガラスケースを10分近く眺めて決定したのは。コーヒー豆セットとか昔の音楽CDとか、叔父さん想いの姫香が護人の好みに寄せた品々をまずゲット。
それからキッズ達のお土産にと、安い縫いぐるみとか服とか帽子とか。お菓子とか昔のゲーム機&カセットも、何故か玉数制限以内に収まって交換出来てしまった。
これは主に香多奈のリクエスト、護人もちょっぴり興味があったけど。
割とお高い化粧品や香水なんかの類は、お年頃の紗良も姫香も見向きもせずな結果に。どうせタダだし交換したらとの護人の言葉は、彼女たちの心には響かず。
まぁ、こんな時代だし田舎住まいだしで、お化粧の出番など無いのも確かだが。その位なら高級缶詰セットを選ぶよと、花より団子の発言はある意味立派かも。
香多奈は色々と見廻っている中で、高性能戦闘服ってのがあるよと皆に知らせて来た。ただしそれの交換レートは、何と宝珠より高い出玉50万個と言う。
格好良い戦闘スーツみたいな嵩張らない衣装なのだが、相当に性能が良いのだろう。他にもお高い魔法アイテムは結構あったけど、こちらの玉数はもう残り僅か。
結局はお魚の缶詰を多めに交換し、残った端数は一口チョコと飴玉に換算して。帰りのワープ魔方陣は、出玉10個で発動が可能らしい。
何とか全ての出玉を景品と交換して、やり切った感を漂わせる子供たち。無事に企業案件も目処が立ったし、怪我人も出なかったしで良い事づくめである。
最後に香多奈の、この自走AIカートを連れて帰りたいとの我が儘が発動したのだが。確かに一緒にワープ魔方陣に乗ったその機体は、残念ながら一緒に地上には出てくれなかった模様。
せっかく新たな仲間と思ってたのにと、ションボリする末妹だったけど。これ以上家族が賑やかになるのは、ちょっと手に負えないよと護人は内心でホッと安堵のため息。
そんなこんなで、今回の探索も無事に戻って来れた。
――その事実に感謝しつつ、その場を後にする来栖家チームであった。
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