第154話 層の広さと敵の多さと回収利益の凄さに慄く件
皆で休憩を取って、約束の時間の到来と共にワープを果たしての第2層である。ここまで遭遇した敵は、大トンボにサハギン+リザードマン程度ではあるけれども。
その遭遇した数で言えば、どのダンジョンの最大数より多い気もする。さすが広域ダンジョンといった所か、ただ単に間引きを延長していたツケかも知れないけど。
とにかく気を引き締めて、集団戦は取り組もうとのリーダーの護人の言葉に。は~いと元気な返事、ってか香多奈が呑気なのは如何なモノか。
何しろ一番気を付けないといけないのは、前線が捌き切れない敵の一団が、後衛へと到達する事態なのだ。一応はミケとルルンバちゃんが護衛にいるけど、やっぱり心配ではある。
とか思いつつ、一行は雨宮チームと合流を果たして。
どうやら後続の高島チームは待たずに、このまま2チームで探索を続けるみたいだ。まぁ、いつまでも複数チームで固まっていても、間引きの効率は良くならないのは確かだし。
そんな訳で、再び湿原地帯と化したダム底のエリアを進み始める2チームである。途中に遭遇する大トンビやサハギン、リザードマンをハスキー軍団と雨宮チームとで駆逐して行き。
今度はたった5分で、崖に貼り付くように存在するサハギンの集落へと辿り着く事に成功。雨宮チームと話し合った結果、ここは来栖家チームに譲って貰えるそうだ。
彼らは殲滅戦に手を貸した後、別の集落かワープ魔方陣を探しに向かうそうで。つまりは3層からは、完全に来栖家チームは単独行動となる予定である。
それを含めて、サハギンの集落へと襲い掛かる2組合同チーム。
気分はすっかり悪役だが、敵の集落にはサハギンの女子供などそもそも存在していない。生活感すら連中は希薄で、そう言う点では罪悪感は薄いかも。
しかも今回は、用心棒のように集落の中から巨大龍モドキが出現! 鯉が昇華すれば龍になるとも言われるが、コイツは全長15m程度の暴れん坊だった。
集落の建物すら破壊して、それどころか仲間の筈のサハギンの存在すら無視して暴れ回る龍モドキ。水蛇に見えなくもないそいつは、今は護人とルルンバちゃん相手に奮闘中。
この強力タッグ2人に、何とか抗おうとビタンビタンと動き回る相手だけど。首根っこをルルンバちゃんのアームと護人の四腕で強引に抑え込まれ、やがてその抵抗も弱々しくなって行く。
そして姫香の鍬が、その太っとい首を切断に成功。
「やった、お姉ちゃんが止めを刺したよっ……凄いっ、格好良いっ!」
「ふうっ、これで大物は片付いたみたいだねっ。みんな無事かな……レイジーちゃんは向こうにいるけど、ツグミちゃんはどこだろう?」
とにかく興奮して姉を絶賛する香多奈と、皆の無事を心配する紗良と言う構図。レイジーは敵の残りの討伐目的で、集落へと飛び込んで行き。
ツグミは『隠密』で気配を消していたようで、ガッツポーズをしている姫香の側に出現。雨宮チームの面々にも、どうやら怪我人は無い様子である。
この時点で、どうやらサハギンの集落は陥落した模様。後衛の2人は、安心して護人達へと合流して行く。そして姫香と香多奈でハイタッチ、基本は仲良しの姉妹である。
そんな事をしている間に、雨宮チームは挨拶をして去って行った。向こうは紗良お姉ちゃんみたいな回復役いないから大変だねぇと、香多奈の呑気な言葉。
どうやらこの短期間で、相手のチーム事情をかなり把握していたみたい。
「向こうのチームはね、前衛が3人で氷の魔法使いが1人……この魔法使いが、多分向こうのメインアタッカーかな? それから荷物持ち兼の後衛さんが2人、武器はボウガン使ってた。
前衛さんもまあまあ強かったけど、叔父さんとお姉ちゃんの方が強いよ!」
「アンタってそう言うの割と目敏いよね、でも経験値は向こうの方が多いと思うし。このダンジョンも3度目だって言ってたから、心配は無用じゃ無いかな?
むしろ私達の方が、この先気を引き締めて行かなきゃ」
「そうだな、ウチは半日掛けての探索なんて初めてだからな。ペース配分だけは間違えず、休憩を挟みながら進んで行こうか」
了解と、長丁場なのを思い出した姫香の元気な返事。それから集落内の探索に赴いていた、ハスキー軍団が相次いで一行を誘いに戻って来て。
それに大人しくついて行く面々、そして壊れた泥壁の建物の1つから妙な袋を掘り起こす事に成功。それは元は寝袋だったようで、泥まみれだが中は綺麗で使えそう。
ただし今回は、その寝袋は使い回しの容器の役割だったようで。中から金貨が数枚に銀貨が数十枚、青銅の魚の彫像と銀のナイフが出て来た。
銀のナイフは綺麗な鞘付きで、実用性こそ乏しいが高値にはなりそう。後は魔法の巻物が1つと、魔玉とも違う割と大粒の透明な石が幾つか。
魔石とも違うし、これは何だろうと顔を寄せ合わせて議論する来栖家の面々。
結局は香多奈が妖精ちゃんに訊き出して、それは水と土の属性石じゃないかと判明した。簡単な説明によると、魔素をもっと取り込めば魔玉にもなるし魔石にも育つらしい。
要するに、魔石や魔玉の前段階の石であるそうな。恐らく協会に売りに出しても、安値にしかならなそう。それでも錬金の素材にはなりそうと、紗良の言葉で持って帰る事に決定。
そしてワープ魔方陣は、例の龍モドキを倒した場所に湧いていた。一緒に魔石(中)も落ちてたので、龍モドキもそれなりの大物だったのかも。
ただし、他のドロップは無かったので、少しションボリな末妹である。取り敢えずは全員集合でワープ移動、これで1時間ちょっとで3層へと到達してしまった。
意外とハイペースに、少し戸惑う護人である。
「……あれっ、今度はさすがに近場に集落は無いみたいだね、護人叔父さん。歩いて探さなきゃだけど、どっちに進もうか?」
「まぁ慌てるな、姫香……10層までの地図を貰った筈だから、それを見て進む方向を決めよう。確か、紗良が持ってたんだったかな?」
「はいっ、今出しますね、護人さん」
そんな訳で、ようやくの事役に立ちそうな雰囲気の攻略用マップである。この“弥栄ダムダンジョン”だが、広いのは何度も述べたけど独特な形をしていて。
元は
Yの尻尾は行き止まりで、左の角は弥栄湖に通じていて。そこから更にY字に伸びていて、そのYの首の部分に弥栄大橋が架かっている。
これが広島と山口の県境に架かっていて、大橋の名に違わぬ長い橋でもある。その威容はダンジョン内にも見受けられ、そこに掛かっている巨大看板で、階層数が分かるとの事。
ただし現在の来栖家チーム、入り口近くなのでそんな構造物は見られない。
ルルンバちゃんの座席に地図を広げて、3層以降の攻略ルートを模索する一行。子供達からは、せめて中央付近の弥栄湖には出た方が良いんじゃとの意見が。
そうすれば、断然に集落との遭遇率もアップする筈で。階層更新も、多少は楽になろうと言うモノ。そんな感じで、チーム内の意見は纏まって。
地図と周りの景色を頼りに、ダムの底を歩き始めるチーム『日馬割』である。ここは本来は小瀬川らしいのだが、この3層も水の気配はほぼ無い感じ。
ただし、河原に良く生えている背の高い草と、地面の高低差のお陰で視界はそれ程にひらけていない。地面の低い場所は決まって沼地で、近付くとトカゲやマッドマンが高確率で襲って来る始末。
それを片付けながら、着々と道のりを稼ぐ来栖家チーム。
5層までの間引きは、D級チームが担ってくれると言う話なので。そこまで真面目に戦闘はしなくて良いのだが、何しろハスキー軍団は安定の“売られた喧嘩は買う”主義である。
戦闘をそこそここなしながら、ようやくの事集落を1つ発見……の前に、通って来た道の端に、真っ赤な工事用のコーンが見事に逆さまに地面に突き刺さっていた。
それにコロ助が反応、思い切り押し倒して中のモノを放り出す蛮行に及んで。ってか、中からは鑑定の書と魔玉が幾つか、それから薬品入りのペットボトルが2本出て来て。
それを見て香多奈が興奮して飛び跳ねる始末、マップが広いだけに回収品も馬鹿みたいに多い。コロ助も今日は護衛ばかりで、見せ場を作れてとっても嬉しそう。
そんなテンションで、いざ何度目かの集落の襲撃を敢行。
今度の集落は、どうやらリザードマンが住処にしていた様子。これまた結構な数の敵の群れが、戦闘音に気付いて奥から次々と湧いて来る。
それを上手に蓋をする、前衛を任されたルルンバちゃんである。遊撃に回ったハスキー軍団は、敵の虚を突く形で見事に数減らしに貢献してくれている。
護人と姫香も、余り突っ込まずに待ち構えての数減らし戦法。リザードマンは槍持ちが多くて、鎧を着込んだ奴が混じってると少々厄介だけれど。
何度目かの戦闘で、連中のパターンは既に慣れて来ているメンバーたちである。それ程の苦労も無く、約10分後には集落内の敵の数は数える程に減って行った。
ここまで来たら、油断しなければ負けは無いに等しく。
残った敵の掃討にと、張り切って集落を駆け回るハスキー軍団である。護人と姫香も、それに参加しつつワープ魔方陣と宝箱の位置チェックなど。
そして期待を裏切らず、粗末なテントの1つから発見される宝箱……では無く、今度はダムに廃棄されたのか、小型の金庫が宝箱代わりに置かれていた。
有り難い事に、鍵は掛かっていなくて中も綺麗である。小型と言っても抱えるには大き過ぎる大きさ、よくダムに捨てられたモノだと妙な所で感心している姫香。
それより中身だよと、香多奈はそんな環境問題には無頓着な模様。そんな中身だが、まずは魔石(小)が12個と属性石が8個、スキル書が1枚に綺麗な鱗が数枚。
それから妙に濁った薬品が、ペットボトルに入って出て来た。
香多奈が妖精ちゃんに見せると、多分毒薬だろうとの返事。取扱いに気を付けながら、それらを紗良が魔法の鞄へと回収して行く。
数こそ少ないが、当たりのスキル書が入っていた事に上機嫌の香多奈である。広域ダンジョンって凄い儲かるねと、変な刷り込みは果たして少女の教育に良いのか否かは謎のまま。
何しろ小粒の魔石の数も、既に100個以上で10万円超と言う。
「ルルンバちゃんがこの小型ショベル形態でも、しっかり吸い取り機能が使えるのが大きいよねっ! 草刈り機モードも使えるし、本当に動く要塞だよっ!
レイジーもいつの間にか、子分召喚モードが使えるようになったし、ウチのチーム最強かもっ!?」
「確かにアレにはビックリしたよね、護人叔父さんは知ってたの?」
「いや、全く……多分レイジーも、最近使えるようになったんじゃないのかな? 恐らく《狼帝》の特殊スキルだろうが、魔力消費は激しそうだよな。
そんな立て続けには、使えない感じの奥の手スキルだろうね」
なるほどと納得の子供たち、香多奈も未だにMP量は少なくて、せっかくの『応援』もいざと言う時用に取ってある。特訓の成果もあって、その回数と効果は上がって来ている気はするけど。
それでもやっぱり、毎回の戦闘に使える程では無いのが悲しい所。それから相性も多少あって、一番効果が表れるのがコロ助とミケだったりする。
他の家族とは、大体同じくらいの相性だろうか。
そんな事を話し合いながら、休憩を挟んで次の層へ。ここまで2時間足らずだが、既に周囲には一緒に突入したチームの姿は見当たらない。
結構ばらけた場所にいるのか、来栖家チームが突出して速いのか、もしくは遅いのか。とは言え広域ダンジョンの意味を、ようやく飲み込めた感じの護人だったり。
これは確かに、10チームが倍の20になっても、3~4時間では間引きの意味が余り無いかも? 移動だけでも半分は時間を取られるし、集落に詰めている敵の数も半端ではない。
幸いチームに怪我人は出ていないし、気力もまだまだ充実している。お昼までは問題無い筈だが、それ以降の4時間過ぎはチームにとっては未知数な探索時間である。
果たして集中力が、お昼以降の探索で維持出来るかは微妙な所。
休憩を多めに取りつつ進もうとは思っているが、ちょっとしたミスで大怪我するのがダンジョン探索である。護人がいつも以上に気を配って、チームの舵を慎重に取らなければ。
特に香多奈など、探索では
ハスキー達はどうだろう、不安は尽きない護人である。
――そんな一行の目の前に、すっかり見慣れたダム底の景色が拡がっていた。
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