第139話 山間ダンジョンの6層以降に挑戦する件
驚いた事に、休憩後に足を踏み入れた“山間ダンジョン”の6層は、いきなりフィールド型に変化していた。山深い場所の沢のような景色が広がり、どこかから水のせせらぎの音が響いて来ている。
木々の密集具合は割と普通で、温かな陽光が地面にまで届いているけど。ここはダンジョン内なので、その光は飽くまで疑似的なモノに過ぎない。
そして肝心の敵の気配だが、川辺や森の茂みに何匹か隠れている様子が窺えて。ハスキー軍団が、早くも山の茂みや沢の方に反応している。
その変貌振りに戸惑っていた一行だが、やる事は同じだと気が付いて。まずは山にいる敵を見定めようと、そちらに足を向ける事に。
出現したのは、サル型のモンスターが数匹。
茂みからもそうだが、木の上から石を投げて来る凶悪な奴も数匹いて厄介だ。護人が『射撃』スキルで、弓矢を使って次々と撃ち落として行く中で。
地上で待ち構えていた奴らは、ハスキー軍団が次々と処理して行く敏腕さ。その迅速さは、ある意味弓から放たれる矢弾よりも凄いかも知れない。
姫香も前へと出たけど、振るうべき敵は既に見当たらず。代わりに周囲を見渡すが、特に目立った動きは山の中には見当たらない。
そう報告した途端、後衛の香多奈からも敵を発見したよとの元気な合図が。どうやら沢の方向で、水の中から巨大な蟹が出て来たのが見えたらしい。
それを聞いて、メンバー全員が反転して沢へと向かう。
「あっ、見えなくなった……叔父さんの部屋のコタツくらい大きかったよ! 挟まれないように気を付けてね、
「それじゃあ俺が前に立とうか……後ろからついて来てくれ、姫香」
「はいっ、護人叔父さんっ!」
慎重に水辺へと近付いて行く護人と、その後ろに従う姫香。ハスキー軍団も左右に護衛につくが、先走って前に出たりはしない。
そして到達した水辺には、思いの外にたくさんのモンスターがいた事が判明した。大アメンボや大トンボ、それから香多奈が発見した大蟹も姿を現して。
大アメンボは前にも戦った事はあるが、コイツも魔法の水弾を飛ばして来て細身の癖に厄介だ。コロ助が急旋回して、『牙突』の攻撃で退治へと向かっている。
大トンボもどうやら風の魔法を飛ばして来て、さすがに6層の敵は一筋縄ではいかない感じ。これにはルルンバちゃんが対処して、体当たりから低空へとおびき寄せ。
ツグミが『影縛』で、見事に捉えて止めを刺して行く。
大蟹もたった1匹とは言え、その甲羅の硬さと鋭い鋏は決して侮れない相手である。慎重に近づいた護人に、意外に素早い動きで接近して来る大蟹モンスター。
それから鋏の連弾で、敵を屠り去ろうとアタックを仕掛けて来る。それを『硬化』スキル込みで、冷静に捌いて行く護人。決して焦らず、初対面の敵を観察している。
その後ろで好機を窺っていた姫香だが、その形状は一般的な沢蟹に他ならない。それなら飛び出た目玉が弱点だろうと、向こうが鋏を弾かれた瞬間に勢い良く前に飛び込んで行って。
右目へと思い切り鍬を振り下ろすが、思ったよりパワーを込めてしまったようで。右目どころか背中の甲羅を、鍬の先が見事に貫通する事態に。
泡を吹いて活動停止した大蟹は、数秒後には魔石に変化。
「おっと、意外と結構な数がいたな……この層は見通しが悪いから、近付くまで敵が潜んでいるかどうかが分かり難いよな。
広さと敵の密度はどうかな、慎重に捜査しないとな」
「そうだね、いきなり魔法使う敵も増えて来たし……階段はどっちの方向だろう、レイジーは分かる?」
出来たら宝箱も見付けてと、無茶振りの香多奈の発言はともかくとして。ハスキー軍団は律儀に偵察へと散らばって行き、残った連中も周囲の探索に力を注ぐ。
途中に大きな穴が開いて筒状になった倒木とか、面白いオブジェは発見したものの。巨大アナグマが棲んでいただけで、戦闘に巻き込まれて発見損と言うオチに。
そうこうしている内に、ハスキー軍団が順次戻って来てツグミがついて来てのサイン。どうやら川沿いに上流に向かって進む様で、一行は素直に先導に付き従って進んで行く。
途中に2度目の大蟹との戦闘をこなしたり、大アメンボと遭遇したりしたものの。ツグミの発見した7層への階段へと、何とか無事に辿り着く事に成功した。
戦闘時間込みで15分程度と、思ったよりもこのフィールドは広くは無いのかも知れない。間引きも程々に出来ているので、まぁ進むのに問題は無い。
ただし、香多奈はドロップ運にやや不満そう。
「アンタ、もう既にスキル書だけで3枚も出てるんだよ? あんまり贅沢言うと、変な所でしっぺ返しが来るんだからねっ!?」
「だってお姉ちゃん、ここって絶対私達が最初の入場者じゃんかっ! もうちょっと凄いサービスがあっても、全然良いって思うんだけどなっ!」
入場者と言う方はアレだが、確かにスキル書以外の回収品は割とショボいかも。木彫りの熊とか、今時玄関に置く家庭も無いだろうし。
妖精ちゃんの反応からして、魔法のアイテムも特に混じってない様子。まぁ、宝箱の中にあった腐葉土が、魔法の品扱いだったりしても困るけど。
アレはアレで、異界の苗の育成に役立つかも。
などといつもの姉妹喧嘩を聞き流しつつ、7層の探索を開始する一行。ここも景色は同じで、高低差のある深い山間と、沢からの水の流れる音が聞こえて来る。
敵の種類も全く同じだが、木立を縫って雄シカに詰め寄られた時はさすがに驚いた。しかもその角は超鋭くて、魔法の雷を帯びている仕様らしく。
盾で押し留めた護人が、うっかり痺れる場面も。
慌てて斬り掛かる姫香と、奇襲を許して腹を立てるハスキー軍団。いつの間にやらサル型のモンスターにも接近を許し、どうやら気配を消す術をコイツ等は持っている様子。
サル達はともかく、雄シカはその場に結構踏ん張っての大暴れ。最後はミケの魔法まで加勢して、ようやく雄シカ型モンスターはその活動を停止した。
そして碁石の大きさの魔石と、鹿肉&鹿の角をドロップ。
それに歓喜する香多奈だが、鹿の角はハスキー軍団のオモチャには丁度良いかも。護人もその収穫を喜びながら、ルルンバちゃんの魔石拾いを手伝って。
猿は合計8匹程度いて、護人が雄シカに掛かり切りだったので、木の上の奴を倒すのに手間取ってしまった。最終的にはレイジーが『歩脚術』で接近して倒したが、もう少し遠隔攻撃の使い手は欲しいかも。
かと言って、香多奈に積極的な戦闘参加を促すのも気が進まない家長である。紗良にはそもそも、戦闘意欲と言うか戦闘センス的なモノが無いし、そこはキッパリ諦めている護人。
結局は、ハスキー軍団頼りになるのは否めないが、甘え過ぎも余りよろしくは無い。ルルンバちゃんの飛行ドローン形態だと、パワーが足りなくて過剰な追加装備は不可能だし。
考えるべき事は多く、せめて良い魔法装備が出てくれればとつい欲が出てしまう。
そんな反省は後回しで、一同は小休憩を挟んで沢へと向かって行く。そこから上流へ進むルートが、どうやらこのエリアでは正解らしいので。
ただし、川に棲み付く敵の数は相変わらず多いみたいで。今回は沢蟹が2匹同時に出現して、あわや姫香が足首をちょん切られそうに!
敵のパワーがどの程度かは分からないが、それを知るために危ない橋は渡りたくはない。レイジーが怒りの本気モードで、たちまち片方の沢蟹は丸焦げに。
ただし、コロ助の『牙突』は敵の甲殻を上手に貫けなかった様子。やはり甲殻はそれなりに硬いようで、姫香の規格外の力があっての最初のクリティカルだった模様。
それと同じような鍬の軌道で、2匹目も粉砕する姫香。
「ふむっ、その武器がダメなら白木のハンマーを出そうと思ってたんだが……姫香の一撃は、段々と必殺技染みて来た気がするかな?
後衛から見て、2人ともどう思う?」
「姫香お姉ちゃんは、特訓とかはいつも真面目だからねぇ。その成果が出てるんじゃないかな?」
「それと、武器を3段階に進化させたせいもあるのかも? 妖精ちゃんの隠れたファインプレーもあるのかもね、香多奈ちゃん」
それを聞いて、香多奈の肩の上で大威張りの妖精ちゃんである。たまに宙に飛び立つのは、末妹がミケを肩に乗せた紗良に、近付き過ぎた時くらいのモノで。
紗良の普段の探索スタイルは、軽パイプの背負子を改造したのを担いでいて。そこにリュックと、ミケがそこで寛げるように簡易台座を設けてあるのだ。
ミケは既に大人のネコだが、小柄で皆の歩幅について行くのは割と大変である。だからと言って、毎回紗良が抱えて歩くのも大変なので。
今の形に落ち着いて、興が乗ると紗良の肩越しに戦闘参加してくれるのだ。そんなミケも、子供の成長には満足げで、よく頑張ったと暖かい視線を姫香に注いでいる。
基本的にミケは、物凄く子煩悩なのである。
護人に褒められた姫香は、傍目から分かる程の上機嫌に。この先の敵も、全部私が倒しちゃうよとテンションも高く歩き出し。仕事を取られまいと、ハスキー軍団も後に続く。
そして水辺の敵も駆逐しながら、一行は上流にある小さな滝の麓へと到着。3メートル程の落差の可愛い滝のすぐ側に、ぽっかりと穴が開いて下層へと皆を誘っている。
それを下って、これで8層に到達である。一応は順調だが、くどい程に護人は子供たちに慎重にと呼び掛けるのを忘れない。
それに応えて、ルルンバちゃんの偵察と紗良の遠見の魔法からまずはスタート。遠見の指輪は、こんなフィールド型だと使う方向が難しいのだけど。
今回は運が良かったようで、潜んでいる敵を見事に発見!
「護人さんっ、そこの茂みに大きなモフモフが潜んでいます、気を付けてっ!」
「えっ、モフモフってナニ、紗良お姉ちゃん?」
香多奈が不思議がるのも無理も無いが、慎重に茂みに近付いた護人に襲い掛かって来たのは、まさしくモフモフの塊だった。それはハスキー達より一回りは大きな、長い角を持つ大兎で。
掲げた盾に衝突して、鈍い音を立てる角の威力は凄いのかも。いや、その巨体の突進力あっての一撃かも知れない。つまり脚力も凄そう、とか思ってたら勇ましいハスキー軍団の襲撃が。
彼女達にもプライドがあるのだろう、たかが巨大な兎に負けてなるモノかと。その騒ぎを聞きつけたのか、再びの雄シカとサル型モンスター達の襲撃が。
蹄の音も無く近付く雄シカは、まるで雄々しい角を有する暗殺者のよう。雑魚として登場するには、結構な難敵の気もするけれど。
ダンジョンに文句も言ってられず、大人しく対処に向かう護人。
今回は素早く木の上に登って、猿に対して優位な位置取りをするレイジー。ツグミも『影縛』でサポートをして、猿たちの対処は割と万全に進んでいる。
さすがに同じパターンを2度目ともなると、そこまで慌てる者も存在せず。次々と減って行く猿達と、雄シカの猛攻を冷静に捌いて行く護人。
そして盾でのカチ上げから出来た隙に、姫香が果敢に躍り出ての一撃。このパターンも随分とこなれて来て、今回も何とこの一撃で雄シカの首は半分以上切り裂かれてしまっていた。
活動を停止させるには充分な傷を与え、あれだけ
ドロップに、今回は兎肉&兎の角を獲得。
段々とドロップ率も良くなって来たと、香多奈の機嫌も上昇を見せ。そして幸運は続くもの、沢の傍らの小道を塞ぐ倒木の
大喜びでそれらを掲げる末妹と、それを鞄に仕舞い込んで行く紗良。今回はなんか凄そうだと、妖精ちゃんもちょっと興奮気味だったり。
まずは鑑定の書が4枚と魔石(小)が4個、若葉を
妖精ちゃんの説明によると、指輪と小枝とマントが魔法のアイテムらしい。薔薇のマントが暴走して、新入りのマントを破こうとしたのを何とか護人が押し留めて。
一通り回収完了、そして紗良が浄化ポーションについて言及する。
「ひょっとして、ここでもそっち系の敵が出現するんですかね? 用意しておいた方が良いのかな、ゴーストとか腐肉のゾンビとかに……?」
「不意を突かれて出て来られたら、確かに厄介かもね? 取り敢えずは準備して貰えたら嬉しいかも、いざと言う時用に」
アイテムのドロップで先読みは、ゲームとかではよくある話だけれど。ここのダンジョンは、果たして正統派なのか奇をてらうひねくれ型なのかは謎である。
そんな会話を挟みながらも、何とか水辺の敵を全て倒して滝の麓まで辿り着く一行。これにて8層は終了、新造ダンジョンと思っていた割には随分と深い気がする。
そろそろ終点に、辿り着いても不思議では無いのだが。
――そろそろ突入して2時間半、帰りも気にすべき頃合いかも?
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