第138話 辺鄙な山間に生えてるダンジョンに突入する件



 まかりなりにも護人はC級探索者と言う事もあって、こんな時には周囲に頼られるのは必定と言うか。そんな訳で、ここまで探索着を着て来た甲斐はあった。

 子供たちも当然潜る気満々で、その点は助かるのだが。ハスキー軍団に至っては、ようやく本番かって感じで貫録すら見せている次第である。


 探索に入る前に、地上メンバーと色々と相談に時間を費やして。結局はお昼過ぎから潜り始めて、地上メンバーは野良となったモンスターを捜索して回るそうだ。

 この地を起点として四方に散らばる形で捜索して、夕方前にここに再び集合する形を取って。来栖家チーム『日馬割』も、それに時間を合わせて地上に戻って来て欲しいとの事。

 それに了承を返して、準備を始める面々である。


 そして昼食休憩を挟んだ後に、満を持しての探索開始となった。入り口の情報から察するに、魔素の濃度もそこそこ高くて恐らく半年かそこらの新造ダンジョンでは無いかとの事。

 自警団チームの推測だが、入り口もそんなに大きくないし、大型のモンスターも潜んで無さそう。そして中の情報を追加、割とスタンダードな洞窟タイプっぽい。


「ここは灯りが必要なタイプだね、護人叔父さん。光の魔玉も使おうか、結構ストックあるから。うわっ、分岐もあるみたい……厄介かもねぇ」

「そうだな、新造ダンジョンなら5層の可能性もあるんだけどな。この育ち具合からすると、もう少し深いかも知れないなぁ。

 とにかく、時間を区切りながら頑張って潜ろうか」


 はーいと元気に返事をする香多奈と、敵の気配を見届けに散っていくハスキー軍団。ダンジョン内が多少暗くても、彼女たちは関係ない様子で頼もしい限り。

 仮称“山間ダンジョン”の深さは謎だが、姫香の言う通りに洞窟の分岐は結構存在した。右側の通路からはレイジーが大コウモリを釣って来て、左からはコロ助がゴブリンの群れに追われて戻って来る。


 それを相手取りながら、このダンジョンの難易度を脳内で計算する護人。ルルンバちゃんは大コウモリと狭い空間で空中戦を繰り広げ、ご機嫌に追撃数を稼いでいる。

 地上では、半ダースのゴブリン集団を蹴散らして行く護人と姫香。この程度の敵には、既に慣れっこで手古摺る様子も全く無い。

 そこに追加で、ツグミが大ネズミを半ダース連れて来た。


 それに反応したミケが、狩猟本能を刺激された様で乱戦に突入。容赦の無いハスキー軍団の敵の誘い込みだが、実力をつけたチームには丁度良い具合だったようで。

 数分後には、既に動いている敵影は皆無となっていた。そして、嬉々として魔石を拾う香多奈とルルンバちゃん。大コウモリからは、被膜のドロップ品もあった模様。


 ここを発見した探索者連中の意見では、ここに今まで入った探索者チームはいない筈との事で。恐らくだが、ドロップもかなり良いのではとの発言が。

 それを信じて、かなりウキウキな末妹の香多奈である。それにしても敵の種類が多いねと、姫香などは警戒を怠ってはいないけれど。

 そして追加のゴブリン集団を、レイジーが再び連れて来て。


 確かに敵の種類も密度も高いかも、強さはそんなでも無いのだけれど。今度の戦闘はハスキー軍団も全員参加、お陰で討伐も凄い速度で終わってしまった。

 そして今度は、案内するよと言った感じのハスキー犬達の動きに。大まかな掃討は済んだのかなと、一行はダンジョンを進み始める事に。


 ここまで約15分程度、戦闘ばかりで探索はちっとも進んでいない状況だけれど。今度は敵を最初に間引いたせいで、洞窟奥の小部屋には出迎える敵の姿は皆無。

 お陰で探索は物凄く捗って、一行はハスキー軍団の能力頼りで1層を完全網羅する。紗良は念の為にと、持参のメモ帳に簡略的な地図を書き出している。


 突き当りの小部屋には、泥人形のモンスターやスライムがたむろっていたけれど。マッドマンは護人がシャベルで、スライムは紗良と香多奈がスコップでいそいそと退治して行くいつもの流れ。

 そして何事もなく、1層全て制覇して階段も発見に成功。


「ちょっと時間掛かったねぇ、でも地図はほぼ完ぺきに書き上がりました。今度また入るチームがあれば、役に立ったりするのかなぁ?」

「あぁ、後で協会に提出すれば、迷宮型のダンジョンは攻略は楽になるかもね? でもダンジョンはたまに勝手に変化するから、ひょっとしたら道も数か月で変わっちゃうかも?」


 ああそっかぁと、紗良はちょっと残念そうな素振り。実際に成長した裏庭ダンジョンを目撃してるので、その推測は何となく当て嵌まりそうな雰囲気。

 ただ、その裏庭ダンジョンで洞窟の迷宮タイプを経験しているのもあって。初見のこの“山間ダンジョン”にも、特段に戸惑いも無い感じの一行である。


 そんな訳で小休憩を挟んで第2層へ、ここもハスキー軍団の釣りからの待ち構え戦法で、敵の数を減らして行く。特に慌てる場面も無く、順調に小規模な戦いを何度か進めて行って。

 ここも出て来る敵は同じで、ゴブリンと大コウモリと大ネズミがメインみたい。それが収まるとハスキー軍団を先頭に移動、分岐の小部屋で泥人形とスライムに遭遇するパターン。

 2層でちょっと違うのは、そこにワームが混じっている事くらい。


 実はこのワームが一番の曲者で、時折だが溶解性の酸を吐いて来る事が判明して。なるべく早く倒すのが吉みたいだが、一番奥の部屋で何故かとんでもない大物に遭遇する破目に。

 大物と呼んだけど、まさにその通りの胴回り……普通の奴が人間の子供の胴周りだとしたら、コイツは乗用車のタイヤサイズと言う。


 バカっと先端に開いた空洞のような口も、大人の人間さえ呑み込みそうな巨大さ。噛み付かれるならともかく、呑み込まれたり酸を吐かれたら溜まったモノでは無い。

 一行は大慌てで、巨大ワームの大口を塞ぎに掛かる。


 護人はこの探索から、盾を『恐竜の大盾』へと変更している。以前まで使っていたミスリルの盾より、サイズが大きくて牙が表面に生えていて凶悪仕様なのが気に入ったのだが。

 それを前面にゴリ押しして、更に四腕での強引な抑え込み。その隙に姫香が『身体強化』での打撃を、何度も同じ個所へと加えて行って。


 そんなこんなで、最後はミケの《刹刃》が決定打に。相変わらず凶悪な効果で、ズタボロになった巨大ワームが魔石(小)へと変わって行く。

 それを見て、やっぱり強敵だったんだねぇと呆れた口調の姫香である。2層に出るとか酷いよねと、それでも追加ドロップのスキル書を拾いながら嬉しそうな香多奈だったり。

 ここのダンジョンは儲かりそうと、ウキウキ模様の末妹。


「やっぱり新造ダンジョンの特性が残ってるのかな、いきなりスキル書を落としてくれてるよ」

「それなら頑張って、最下層を目指すのもアリかもね、叔父さんっ! コアを破壊して、休止状態にした方が管理もしやすいもんね?」


 確かに香多奈の言う通りだが、少女の目的は豊富なドロップ品じゃないかと邪推してしまう護人。そんな言い合いを挟みつつ、一行は第3層へと降り立つ。

 ここもいきなりの分岐だが、気にしないハスキー軍団は勤勉に敵を本隊前へと誘い込む。何とも慣れたその動きは、既に職人の域に到達している気も。

 負けてはいられない護人達は、出て来る敵をきっちりと駆逐して行く。


 この層はゴブリンに弓矢使いが混じって来たけど、ツグミが『隠密』スキルからの急襲で事無きを得て。この辺の信頼関係はバッチリの来栖家チーム、慌てる事も無い戦い振り。

 そしてそんな弓矢持ちゴブリンが、たまに矢束を落とすのだが。質は悪くて真っ直ぐ飛ばなさそうな矢弾を見て、顔をしかめる護人であった。


 それから突き当りの小部屋で、穴に入った初の宝物を発見。ワーム穴かと無視していたら、ツグミが凄く反応するので。あらためて見たら、薬品や鑑定の書や石製の武器が入っていた。

 喜ぶ香多奈だが、その内容は大当たりでは無い様子。それでも気前の良い回収品に、コロ助に抱き着いて喜んでいる姿は無邪気ではある。

 妖精ちゃんは無慈悲に、魔法のアイテムは混ざって無いよと口にしているけど。



 ここまで巨大ワーム以外に苦戦はしてないけど、一応は念入りに休憩を挟んで。いざ4層へと降り立って、同じような作戦を決行する。

 相変わらず騒がしくやって来るゴブリンの集団やら、地を這う大ネズミの数は少しずつ増えて来ていて。それに混じって、2メートル級のゴーレムがこの層は出現。


 まさに地響きを立てながらの行進に、今更慌てる味方はいないけれど。ガッツリと歩みを食い止める護人へと、姫香が声を掛けて真後ろに位置取って。

 そして赤いマントからぽろっと落ちた巨大なハンマーをキャッチ、そして振りかぶるまでの速さと来たら。まさに阿吽あうんの呼吸で、硬くて厄介な敵を秒殺へと追い込んで行く。

 このコンビプレー、来栖家チームの真骨頂である。


 この4層は、他に手強い系の敵の配置は無かった模様で。スカスカになった後の移動で、勇んで宝箱の気配を探す子供達である。

 今度も、突き当りのマッドマンとワームを倒し終えた後の探索で。運が向いて来たのか、白い発泡スチロールの箱を穴の中に発見して。


 開封してみたら、中からMP回復ポーションが500mlに解毒ポーション600ml、スキル書が1枚と黒い色合いの魔玉が2個。それから、骨の牙の矢尻製の矢束30本が出て来た。

 発泡スチロールは、ありふれた蓋付きの四角い密封タイプである。これも宅配やら、魚屋さんなんかでよく見るし、山に捨てられていても不思議ではない。

 何にしても、リサイクル精神のダンジョンには頭が下がる思い。


「次はいよいよ5層だね、ダンジョンコア置いてあるかなぁ?」

「どうだろうな、それだったら楽なんだけどな。そしたら俺達だけさっさと外に出て、皆の集合待ちになっちゃうな」

「それはそれで退屈だねぇ……時間あるんならもうちょっと探索したいよねぇ、コロ助?」


 ご主人の少女に訊ねられたコロ助は、愛想良く尻尾を振り返しているけど。いざ5層を進み始めると、忙しくてそれ所では無くなってしまう状況に。

 特にゴブリンの集団は、魔法使いも群れに参加してより強敵に。それでも回答を知っているテストを受けている状況に、慌てず対処して駆逐して行く来栖家チーム。


 敵の数は4層より少なくて、じきにハスキー軍団は前進を提言して来た。どうやらダンジョン構造的に、ボスの部屋が奥に大きく構えられている感じである。

 期待通りなのかどうかは置いといて、確かにそこに扉はあった。これは中ボスのパターンかなと、護人はチームにボス討伐の作戦パターンの提言を行う。

 つまりはいつも通りの速攻だ、相手が勢い付く前に瞬殺が一番確実。


 そんな訳で、扉を開けての姫香の速攻投擲がいきなり炸裂する。中ボスは大熊みたいで、そのお供にマッドマンが3体いるけど。

 これもまぁ、見慣れた定番パターンで、一同に大きな驚きはない。シャベルが熊の胸元を抉り、大きな敵の叫び声が室内に響く。

 同時に香多奈の爆破石と、ミケの『雷槌』が炸裂して。


 ボス部屋仕様で、割と大柄な体型だったマッドマンも、数歩も進まない内に半壊の憂き目に。それにサクッと止めを刺して行く護人とハスキー軍団、咥えてコロ助の頭突きはかなりの威力。

 そして肝心の中ボスは、2撃目のシャベルにも撃ち抜かれて既に瀕死の様子。嵌まればこれ程に凶悪な手段は無い、姫香の『身体強化』込みの遠隔攻撃である。

 お陰で熊との接近戦をこなす事無く、中ボス部屋をクリア。


 最後の止めも、護人の弓矢攻撃でこなしてしまったけど。パワー勝負になど持ち込まれたくは無いので、これも立派な正解には間違いは無い。

 多少後ろめたくても、安全には替えられない。そんな訳で、5層の中ボス部屋の掃討は無事に終了。香多奈とルルンバちゃんが、元気にドロップ品を漁り始める。


 ボス大熊のドロップは、魔石(中)とスキル書が1枚の2つだった。そして肝心の宝箱は銅色で、残念ながら大当たりとは行かなかった様子。

 中身も鑑定の書が2枚にポーションが400ml、木の実が4個に黄色の魔玉が5個。変わり種では木彫りの熊の物置と、何やらフカフカの土が出て来た。

 どうやら腐葉土っぽいのだが、こんなのが宝箱に入ってるなんて。


 護人は素直に嬉しくて、どうやって持って帰ろうかと思い悩み始めるのだけれど。香多奈は納得がいかない様子で、土の中に何か凄いモノが無いかと探っている。

 結果、カブト虫の幼虫すら紛れ込んでおらず、末妹の頑張りは徒労に終わる事に。土のモンスター繋がりでのドロップ品じゃ無いかなと、紗良のフォローは少女には全く刺さらず。


 こんな事もあるよと、珍しく姫香にも慰められる香多奈。それより6層への階段あるよと、探索はまだ続く事を姉に示唆されると。

 ようやく元気を取り戻す末妹、すぐに行こうと途端におねだりモードに。取り敢えずは休憩入れるよと、ペースを乱したくない護人は冷静に末妹を諭す。

 それを聞いて、階段脇によっこいしょと座り込む姫香と紗良。





 ――そして階層どの位深いかねぇと、2人は呑気に話し合うのだった。






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