田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件

第128話 裏庭ダンジョンの６層の異変に戸惑う件

「……あれっ、いきなり分かれ道って何でだろう？　道の大きさはどれも同じに見えるね、この層はひょっとして……迷宮タイプだったりするのかな？」

「えっ、そうなの姫香ちゃん？　あれっ、本当にどれが本道か分からないね……パッと見、直進のこの道が本道かなって思うけど」

「あれぇ、本当に分かんないね……コロ助、ちょっとこの先見て来て？」

　混乱する子供達だが、護人も同じく目の前の三叉路を目にして戸惑っていた。香多奈にお強請（ねだ）りされたコロ助は、鼻をひくつかせて未開拓エリアを調査している様子。

　姫香か無茶振りするなと末妹を諫（いさ）めている間に、ハスキー軍団は行動指針を決定した様子で。それぞれの方向へと、レイジーとツグミとコロ助が単独探索へと出向いてしまった。

　それを驚きながら眺める飼い主、どの子を追えばいいんだろうと戸惑っていると。真ん中の道を進んでいたレイジーが真っ先に戻って来て、その後を追う人間サイズの影が２体。

　灯りの下に釣られて出て来たソレは、何とアリ獣人だった。上の層の蟻型モンスターとは違って、しっかりした装備と足取りで人間のフォルムをなぞっている。

　しかも腕は４本、武器も丸盾も手にしていかにも手強そう。

　それなりに心の準備をして待っていた護人は、弓矢での先制攻撃から敵のタゲ取りに成功して。攻撃は姫香とレイジーに任せて、初見のアリ獣人の戦力を図る作業。

　攻撃力も防御力も、上の層の大蟻モンスターとは段違いに強くなっている。そもそも大蟻は、関節部分が脆（もろ）いと言う大きな弱点が存在していたのだが。

　それが無いだけで、こちらが狙う場所が途端に限られてしまう気分になるから不思議。レイジーは構わず規格外のパワーを発揮して、相手の太腿に噛み付いてのグランドに持ち込んでいるけど。

　そこを護人が、シャベルの一撃で喉元に決定打を叩き込む。もう１体のアリ獣人は、姫香の鍬の初撃を喰らってバランスを崩し。その後の連撃で、呆気無く腰砕け状態に陥って。

　最終的に、心臓に致命傷を喰らってお亡くなりに。

「ふうっ、大蟻モンスターじゃ無くて人型のアリ獣人が出て来たね、護人叔父さん。これは難易度上がるなぁ、コイツ等装備着けてる上に装甲も硬いし」

「そうだな、おっと……今度は右側の通路が騒がしいな、コロ助が何か連れて来たみたいだ。みんな、戦闘準備してくれ」

　はーいと元気な返事があちこちから、今度はルルンバちゃんが前衛に出て待ち構えている。彼も出番が欲しいのだろう、魔石拾いだけでは鬱憤（うっぷん）が溜まるのかも。

　そしてコロ助が連れて来たのは、小柄なストーンゴーレムが２体だった。ゴブリンほどの背丈だけど、横幅はそれなりにある感じ。

　戻って来たコロ助は、通路のど真ん中に待ち構える乗用草刈り機の側を華麗にスルー。おびき寄せられた格好のゴーレムに、削岩機を作動させて果敢に突っ込んで行くルルンバちゃん。

　これも１つのコンビプレー、もう１体のゴーレムは腹を立てたようにルルンバちゃんに殴り掛かろうとするも。白木のハンマーを取り出した護人がカバーに入って三発で粉砕に成功。

　これにて２つ目の通路も、掃討は終了？

　それは探索しないと分からないが、その前にツグミが帰還して来た。敵の種類も何気に増えていて、今度は大コウモリと大ムカデと言う洞窟特有のモンスターの姿が。

　スタンダードな敵は良いのだが、ムカデの毒は厄介である。それを察知したレイジーがいきなりの『魔炎』で大掃除に貢献してくれたのは有り難い。

　流れ弾に当たった大コウモリも、２匹ほど墜落してそれをツグミが止めを刺している。炎が収まって前に出た護人だが、元気に動く姿は地上には窺えない結果に。

　後は宙を飛ぶ大コウモリ２匹を、姫香と協力して撃墜して終了。

　とか思ってたら、再びレイジーがこの場からいなくなっていた。紗良の話によると、また真ん中の洞窟へと消えて行ったそうだ。これはお替わりがあるなと、護人は皆に戦闘準備の指令を言い渡す。

　案の定、再びアリ獣人を２匹連れて戻って来たレイジー。張り切った感じで姫香とルルンバちゃんが迎撃態勢、護人は先制で弓矢を射掛けて、必死にタゲ取り役に徹しているけど。

　レイジーの挑発が過ぎたのか、向こうは勢い良く突進して来る有り様。こちらも盾で押し返して、お陰で地面にひっくり返してからの退治の流れが綺麗に決まってしまった。

　後方から、魔法の視線を飛ばしていた紗良が、右の洞窟は行き止まりだったと告げて来る。そちらを探索していたコロ助も、再び釣りに赴（おもむ）く気配は無し。

　代わりに３匹は、揃って左の洞窟へと進む気配。

「おっと、これは一緒に行った方がいいみたいだ。こっちが本道なのか、それとも宝箱の設置でも見付けたのかな？」

「わおっ、中ボスの部屋の奴はショボかったもんね～！　今度はきっと当りだよ！」

　現金な香多奈は後方で楽しそうな声を上げている。その隣では、紗良が一応は６層の簡易マップを書いた方が良いのかなぁと悩んでいて。

　真面目なお姉さんの面目躍如と言った感じだが、どうせコアを潰して潜るのは半年後だよと姫香の正論に。それもそうかと納得、その時にはまた階層に変化がある予感もバリバリにあるし。

　そんな訳で探索に集中し直した一行は、ハスキー軍団の後に続いて左の洞窟を進んで行く。通路は曲がりくねっていて、壁は天然の岩が剝き出しで視界は凄く悪い。

　そして突き当りには、スライムが数匹屯（たむろ）するスライム部屋が。そしてお待ちかねの木製の宝箱が、部屋の端っこに置かれていた。

　喜ぶ香多奈は、さっそくスコップを手に紗良と前に出る。

　何となく、スライム退治はこの２人の役割と決まってしまっているけど。ミケがしっかりと、２人のお手並みを監視しながら狩りを見守っているのが微笑ましい。

　そして、ネットで拾った蘊蓄（うんちく）を披露する紗良お姉さん。スライムはファンタジーの定番だけど、弱っちいのでダンジョンから連れ帰って研究する機関も多いそうな。

　モンスターの生態とか、ゴミ問題に有効活用出来ないかとか。それが可能なら、魔石とポーションに次ぐダンジョン経済の一翼に、スライムが躍り出れたのだけれど。

　そうも上手くは行かないようで、今の所は新たな異世界技術の取り込めたって話は聞かれない。人類は逞しいので、その内に可能になるかもだけど。

　こんな弱者でも一応はモンスター、魔素が無い場所では活動出来ないそうな。

「そうなんだ、持って帰れば売れると思ったのに……叔父さん、それなら私が世話するから、家で飼ったらダメ？」

「駄目に決まってるでしょ、護人叔父さんの優しさに付け込むのは許さないよっ！」

「……姉妹喧嘩はしないように、まぁ答えは駄目だけどな」

　しょんぼり落ち込む香多奈だが、宝箱を開けた途端にその機嫌はマッハで回復。木箱なので期待値は低かったけど、中には割と豊富な品数が揃えられていて。

　まずはポーション400mlに解毒ポーション700ml、それから鉱石が４個に魔結晶(小)が５個。更には土色の爆破石が６個に、当たりの強化の巻物が１枚。

　喜びながらもその場で休憩を取って、それからハスキー軍団の先導で今度は真ん中の洞窟の先へと進んで行く一行。辿り着いた小部屋は無人で、分岐の洞窟が２つ存在している。

　これは長引くかなと、嫌な想像は概ね当たっていた。全ての通路を網羅するのに、戦闘時間を含めて１時間程度かかってしまって。

　迅速をモットーとする来栖家チーム的には、随分時間を取られてしまった。

　敵の密度も割と高めで、アリ獣人も一般兵士から槍持ち兵士、更には回復系の魔法を使う奴まで出る始末。行き止まりも多かったけど、あれ以降は宝箱は見付からなかった。

　それでも７層への階段を見付けた一同はホッと一安心。そして休憩を挟んだ後に、階段を降りて第７層へ。ここもいきなりの分岐で、ややゲンナリした空気がチームに漂う。

　それでも献身的なハスキー軍団の働きで、他のメンバーも頑張らなきゃの意志が心に灯って。次々と釣られて来るアリ獣人や大コウモリ、大ムカデや小型石ゴーレムを片付けて行き。

　紗良の魔法の視線も使いつつ、何とか時間の節約に励んでの進行。７層に降りて２０分が過ぎた頃、ハスキー軍団の釣って来る敵は完全に途絶えたようで。

　それじゃ先に進もうよと、彼女たちがご機嫌に誘って来る仕草。

「ふうっ、何とか近くにいた敵の群れは倒し終えたみたいだね。やっぱりアリ獣人の回復魔法使い付きは、他より数段手強かったねぇ？」

「そうだな、連中の甲殻の硬さは上の層の大蟻より厄介だよな。その上に４本腕だし、それぞれに武器や盾を持たれるとゴブリンなんかの比じゃ無いな」

「……あれっ、この先に広場があってアリ獣人が待ち構えてますね、護人さん。頭一つ大きな敵も混じってます、ひょっとしたらダンジョンボスの間かもっ！？」

　その言葉と共にピタっと歩みを止めるハスキー軍団、彼女たちも警戒心を強めている様子。魔物の気配を感じ取っているのだろう、じっと闇の向こうを見据えて戦闘モードの顔付きだ。

　来栖家チームは何度かダンジョンボスと戦った事はあるが、奴らは部屋を持っていたりいなかったりと様々だ。

　まぁ、そのダンジョンで一番強い存在には間違いは無いようだが。

　取り敢えずは事前に察知出来たのは僥倖（ぎょうこう）だ、知らずに突っ込んで乱戦になっていたら目も当てられない。優秀なハスキー軍団がいるので、その確率は低かっただろうけど。

　すかさず護人は、皆を集めて作戦会議を執り行う事に。基本は姫香の速攻投擲スタートだが、それで倒せなかった時の事も考えておかないと。

　何しろこのチーム、魔法攻撃はレイジーとミケしか持っていないので。

　装甲の硬い敵と遭遇すると、この２トップに頼らざるを得ない状況になってしまう。ある意味それは、来栖家チームの弱点と言えるかも知れない。

　それでも２匹とも飼い主の意を汲み取ってくれるし、香多奈の爆破石でフォローも出来る。後は護人とルルンバちゃんが頑張って、壁役に徹すれば何とかなるだろう。

　そんな訳で、いつもの様に速攻からの作戦を念頭にボス戦を開始。ここが最深層なので、護人はＭＰをケチらずに全力戦闘を皆に言い渡している。

　そんな訳で、香多奈も遠慮なく前衛陣に頑張れ～と『応援』を振り撒いての戦闘開始。それと同時にブン投げられたシャベルは、残念ながらボスの盾に阻まれてダメージ無し。

　敵のボスのアリ獣人は、敵の群れの中では将軍の立ち位置だろうか。部下に約２０匹の兵隊アリ獣人を従えて、ソイツ等は槍や斧や剣で武装している。

　盾持ちも多くて、杖を持つ回復魔法の使い手も何匹かいる様子だ。その大軍隊はこちらの先制攻撃に反応、群れを成して襲い掛かって来る。

　そこにダブルエースの、魔法が連続で炸裂して。

　レイジーの『魔炎』が右側の兵隊に大打撃を、それからミケの『雷槌』がランダムに集団の中心に猛威を振るう。思いっ切り足並みが乱れた所に、２度目の姫香の投擲が。

　これを受け損ねたボス将軍が、たたらを踏んで出遅れる。護人も弓矢で迎撃しながら、四腕で前に出てタゲ取りの構え。

　その隣ではルルンバちゃんが、いつでも突っ込む構えを見せていて。

　絶妙な位置で、香多奈の投げ込んだ爆破石が石礫を撒き散らして爆発した。土系に耐性があるのか、アリ獣人にダメージは余り通っていなかったけれど。

　嫌がらせと気を逸らすには充分で、護人の《奥の手》が爆破でふらついた兵士の首を一瞬で刈り取って行く。このモードは理力を結構使うので、長引かせないよう護人も必死。

　姫香も追いついて来て、リーダーの隣で鍬（くわ）を振るい始める。

　元気娘の威勢の良い掛け声が、チームの前進に勢いをつけたのは事実。ルルンバちゃんもラインを押し上げ、凶悪なチェーンソー攻撃で敵を屠（ほふ）って行く。

　ただし、敵の甲殻が硬いせいで刈り取り音はかなり壮絶な感じ。刃先は思い切り痛んでいる筈だが、ルルンバちゃんの勢いは止まる事を知らない。

　いつの間にかレイジーとコロ助がフォローに入っていて、アリ獣人の一般兵士は一気にその数を減らして行く。ツグミは『隠密』からの回復魔法使い狙いオンリーで、貢献度はかなり高い。

　出遅れていたボス将軍は、いつの間にか護人と斬り結んでいた。戦場の中央での一騎打ち、その体躯は護人より遥かに大きくて、パワーは常人を遥かに超えている。

　それでも引かずに斬り結べているのは、四腕と理力ブーストのお陰だろうか。

　訓練の成果は充分に出ているが、それが切れるのも時間の問題だ。向こうもナチュラルに４本腕なので、なお始末に悪いと来ている。

　『硬化』スキルのお陰で、致命傷は受けていないとは言え相手の攻撃は熾烈である。ボス将軍は斧と蛮刀２本に加えて、盾まで装備している極悪仕様で。

　ようやく手が空いて横からちょっかいを掛けようとした、姫香にまで反応する憎たらしさ。しかも蟻酸を口から吐いて、危うく姫香は頭からそれを浴びる所だった。

　ツグミが寸前にそれを察知して、身体を張って庇ってくれたお陰で。最悪の場面は防げたが、そのせいでツグミが蟻酸に被弾してしまう破目に。

　少女たちの絶叫が響く中、反対側から特攻をかけたルルンバちゃんも大きく被弾。

　恐らくは、残ったアリ獣人の兵士の中に魔法使いがいたのだろう。岩の槍が地面から生えて来て、乗用草刈り機のタイヤがバースト＆横転する破目に。

　このモードでこんな被害は、実は初めての経験のルルンバちゃんである。ミケが残りのＭＰを使って、残ったアリ獣人に猛アタックを掛ける。

　コロ助も『牙突』でのサポート、終盤戦は荒れ模様だ。

　お陰で最強のボス将軍は、護人ただ一人で背負い込む事態に。チーム員の被害続出に、護人の苛立ちもピークに達しそうな勢いだが。

　ここに来て不味い事態、思わぬ長期戦にＭＰもＳＰも残り少なくなって来た気配。向こうも勝利を確信したのだろう、こちらに向けて再度の蟻酸飛ばしの構えを見せ。

　それを察した護人だが、盾を持ち上げるしか方法を思い付かない有り様で。それをカバーしたのが、何と薔薇のマントだと言って誰が信じよう？

　彼(彼女？)は以前のダンジョンでの罠の粘着液を、魔法の鞄の中に取り込んでいたのだけれど。それをアリ獣人のボス将軍に向けて、放出すると言う暴挙と言うか趣向返しを敢行。

　慌てるダンジョンボスだが、口元に流れ込んだ粘着液はちょっとやそっとじゃ取れてくれない。その内に呼吸が苦しくなったのか、武器を捨てて藻搔き始める始末。

　そんな大きな隙を、逃すお人好しのレイジーでは無い。必殺の魔炎で生成した長剣で、急所目掛けて跳び掛かっての一閃が見事に決まって。

　――哀れなダンジョンボスは、こうして最後の刻（とき）を迎えたのだった。