第121話 恐竜の跋扈するダンジョンに挑戦する件



 因島のしまなみビーチに存在するダンジョンの入り口は、来栖家チームが今まで入ったどれよりも巨大だった。さすが恐竜が中に潜むダンジョンだと、おののく者は誰もいないけど。

 香多奈は呑気に、これならルルンバちゃんの最新形態を持って入れたねと口にしてるけど。中の難易度を考えるに、確かに戦力は高めておいた方が良いかも。


 皆で考えた結果、ルルンバちゃんの運用は飛行形態で仕方が無いとして。尾道のダンジョンで入手した、“魔銃”を装備させるのが良いのではないかとの結論に。

 問題は《念動》の活用も始めたばかりの彼に、そんな複雑な操作が可能かって事。そこは香多奈が責任を持って、弾の詰め替えとかサポートする話に落ち着いて。

 とにかくそれでやってみようと、作戦は一応の決着に。


 事前の動画視聴での情報集めやみっちゃんの話で、この“しまなみビーチダンジョン”はB級指定の難易度であると判明している。敢えてそこに挑むのは、実は軽いノリだったりして。

 地元の人も間引きに困っていて、まぁ5層程度までなら自分達でも何とかなるかなって感じ。とにかくハスキー軍団の火力なら、大物の退治も可能だろうと。


 そんな感覚で挑む旅行先の探索だが、護人は保護者として締める所は締める所存。旅先で浮かれて怪我をするなんて、ありがちだけに充分に気をつけないと。

 特に香多奈が、新しい魔銃オモチャを手に入れた件については慎重に対応しなければ。家族会議でルルンバちゃんに持たせようと案が出た時には、思わず心の中で喝采してしまった護人である。

 これで末妹が、危険な戦闘に参加する確率は随分と下がる筈。


「もうっ、仕方無いなぁ……本当は私のだけど、ルルンバちゃんが使っていいよ?」

「香多奈ちゃんは、さすがお姉ちゃんだねぇ……自分の物を譲ってあげるなんて、本当に優しいなぁ」


 紗良のヨイショに、思い切り気を良くしている単純な少女だけれど。護人は思いっ切り安堵の表情、そしてそれを末妹に見られないように必死。

 幸い、弾丸となる魔玉はたっぷりと尾道のダンジョンで補充出来たので。今回の探索中で、弾切れになる事態は恐らく無いだろう。


 取り敢えずはこれで準備は整った、多少の緊張感を身に纏って全員で巨大な入り口に突入する。ハスキー軍団が、率先して先頭に立つのはいつもの事。

 ただし、今回は気儘に探索に進もうとしていない。何故かと言えば答えは簡単、このダンジョンは海岸の拡がるフィールド型なのは見れば分かるけど。

 思ったほどは広くは無いようで、敵の密度が高いみたいだ。


 つまりはすぐ側に敵の気配が、海岸線のエリアは海岸公園の名残は感じられるモノの。古代の植物が生え放題で、視界は余り宜しくない。

 低い唸り声で警戒を発するレイジー達に、続いて侵入を果たした護人達はすかさず戦闘準備。外界は秋なのに、このダンジョン内はやや蒸し暑い感じがする。


 他にも違和感は満載だが、戸惑う事すら許されず最初の戦闘が勃発した。ハスキー軍団が近付いて来た小型の恐竜と乱闘を始め、姫香と陽菜が助太刀に飛び出す。

 小型と言っても人間サイズで、口が大きくていかにも恐竜って感じのフォルムである。恐竜映画で見たなぁと、呑気な香多奈の発言は置いといて。

 ラプトルって奴かなぁと、紗良の注釈はさすが予習屋さんだ。


 そのラプトルは、全部で3匹はいた様子でそれなりの脅威だったけど。噛み付かれる前に首筋に噛み付いたハスキー軍団の活躍で、数分で決着はついてしまった。

 護人とみっちゃんで、左右からの敵の接近に備えていたけど。案の定、戦闘の騒ぎを聞きつけて、新たな敵がやって来ましたと緊迫したみっちゃんの報告。


 すかさずそれに対応する護人、戦闘を終えたばかりのハスキー軍団もそれに続く。疲れ知らずのチーム員に、頼もしいなと護人は内心で舌を巻きながら。

 接近して来たのは大きなトカゲ、迫力があってこれも恐竜カテゴリーに間違いなさそう。コモドドラゴンなら毒がありますと、紗良の注意喚起に慎重になる護人。

 これも3匹セットで、とにかく口が大きく狂暴そう。


 人や鹿も呑み込むって話だし、あまり前に立ちたくないのは偽らざる事実だけど。うっかり後ろに通したら、後衛は抗う術など持たないのもまた本当。

 そんな訳で、護人は意外と速度のある連中を盾でブロックして。ハスキー軍団や姫香たちが隙を見付けやすいように奴らの注意を惹いてやる。

 それを見逃さず、横から矢のようなレイジーと姫香の特攻。


 大きな悲鳴を上げて、瞬く間に2匹の大トカゲが魔石に変わって行く。残りの1匹も、ツグミとコロ助が危なげなく退治に漕ぎつけて。

 まだ入って2分も進んで無いのに、立て続けの戦闘が起きると言う珍しい現象に。確かに難易度も高そうだし、探索者に嫌われる要素も高そうだと皆の意見。


 ここは海側も厄介なんスよねぇと、みっちゃんの言葉に姫香が素朴な質問をする。次の層の階段が無ければ、近付く必要は無いんじゃ的な感じの。

 みっちゃんによると、海辺の戦闘の練習にはピッタリな場所でもあるらしい。それに宝箱の発見率も、こっちの公園側より海側の方が高いそうで。

 それを聞いた香多奈が、ちょっと行ってみようと言い出す始末。


「落ち着きなさいよ、香多奈……こんな浅層で、ホイホイ宝箱が出る訳ないでしょ? もうちょっと奥まで進んで、敵の強さとかも実際に確かめてみないと。

 ……でもまぁ、間引き目的なら全部回る必要もあるよね」

「そうっ、そうだよ姫香お姉ちゃんっ! 間引きしないとだから、全部回るのが当然なんだよっ!」


 明らかにドロップ欲あっての発言だが、一理あるのも事実なので。適当にエリアを回りつつ、敵を間引きしつつが一番理に適った探索方法なのかも。

 とか思っている間にも、巨大なトンボみたいな敵や巨大なネズミみたいな敵と次々に遭遇する一行。ネズミ型の敵は雑魚だが、トンボ型の敵は炎系の魔法を使って来るのが判明して。

 陽菜が2匹との戦闘中に、軽く火傷を負ってしまった以外は穏便に事は運んで。戦闘終了後に紗良の治療、そして再度探索開始の流れに。


 そして結局は、子供たちの要請で海岸沿いも探索する事に。それ程エリアは広くないと言っても、端から端まで歩いて5分は掛かる大きさは備えていて。

 それに海のエリアを足せば、案外大きい部類に入るのかも。波の音と一緒に敵とも遭遇するが、恐竜タイプと違ってハスキー軍団が噛み付くのも躊躇ためらうフォルムの敵ばかり。


 三葉虫やらアノマロカリスやら、古代の良く分からない敵がわんさか出現。海遊生物の癖に、普通に波間から跳び掛かって来る少々厄介な連中だったけど。

 倒すのには苦労せず、まぁ雑魚の部類だろうか。


 アノマロカリスはエビに分類されるそうだが、見た目はもっとグロい昆虫にしか見えない。終いにはアンモナイトも波間から出現して、水魔法で攻め込んで来た。

 コイツも結構大きい上、硬い甲殻を纏っているので倒すのも大変。しかもコロ助が触手に捕まって、甲殻内にお招きされそうになる一幕も。


 大慌ての香多奈が咄嗟に愛犬に『応援』を放って、何とか踏ん張るパワーを得られたけど。やはり初見の敵は侮れない、どんな攻撃方法を持ってるかはきっちり見極めないと。

 しかし、たった1層で結構な種類の敵と既に遭遇しているこの現状に。なんか凄いダンジョンだねぇと、姫香の当惑気味なコメントももっともかも知れない。

 もっと奥の層では、巨大な恐竜も出るそうだし。


 一応勝算はあるけど、出来るなら出会い頭にひょっこり遭遇なんて事態は避けたい護人。ハスキー軍団の探索能力は信じているけど、何しろダンジョンは侮れない。

 変な仕様もこの異空間はてんこ盛りなのは、短い探索経験からも充分理解しているし。強敵に対しては、万全の対策で余裕をもって当たりたいのは、リーダーとして当然の思考でもある。


 それからどうも、ハスキー軍団は海の匂いが苦手と言う事が判明した。嗅ぎ慣れない匂いが、彼女達の感覚を惑わせるのかも知れない。

 深刻な問題では無いが、海側では敵の接近に気付きにくいかも。とか思いつつ探索するも、当然1層になど宝箱は置かれていないのが分かっただけ。

 がっかりする香多奈だが、当然の結果に慰めの言葉も無し。


「このダンジョンは、ちゃんと探索に集中した方が良いわよ、香多奈。でないと、恐竜に頭から丸齧まるかじりされちゃうからねっ!?

 いつもみたいに、ふらふらお宝探して前に出たら駄目だからねっ」

「分かってるよっ、ちゃんと後ろにいるからうるさくしないでっ!」


 姫香の小言に敏感に反応する末妹、毎度の事なので来栖家の他のメンツは無反応だが。ここは本当に怖いっスからと、後衛の護衛役のみっちゃんは気を引き締め直している様子。

 それは勿論大事で、何しろ公園側の密林は割と見通しも悪くて歩くのも大変なのだ。地面も根っこがうねっていたり、下生えで視界が悪かったり。


 気を抜くと前衛との距離が開いて孤立してしまっていたり、思わぬ場所から敵が出現したり。この地に適した敵に不意を突かれたら、怖い結果になるとの予測も充分頷ける。

 だから姫香の小言も、決して冗談では済ませられないのだ。


 ハスキー軍団も、いつもとは調子が違うのを分かっている感じでの先行探索。ってか本体とあまり距離を取らず、常に見える範囲に位置している。

 それでも海岸から離れて10分後には、何とか2層への階段を発見出来て。ここまで30分以上、結構な数の敵を倒して辿り着いた感じ。


 2層も似たような景色と敵の密度で、ラプトルはハスキー軍団で対処出来るのが確定して。厄介な巨大トンボも、焦らず護人やみっちゃんの弓矢で近付く前に倒す戦法に決定した。

 余裕が少し出来て来たので、護人はルルンバちゃんに魔銃を使ってみるように頼んでみる。それからミケにも、海側のモンスターに『雷槌』魔法を試して貰って。

 この2つの検証だが、両方とも結果は上々で。


 まずはルルンバちゃんだが、どこかから飛翔して来た巨大トンボと壮絶なドッグファイトを繰り広げ。そして見事に背後を取ってからの、魔銃の一撃で仕留めるその手腕と来たら。

 しかもルルンバちゃん、その戦いを結構楽しんでた風でもあって。戦闘後もテンション高く、低空から高所への移動を繰り返している始末。


 ミケに関しては、特に何も言う事が無いと言うか。クセの強い海側の敵に対して、ほぼ一発の魔法で始末して行く剛腕振り。相手が雷魔法が苦手な属性ってのも、加味しても凄い威力である。

 そして敵を倒し終わっても、平然とした顔付きで毛繕いなんかしちゃって。大人の風格と言うか、ニャンコ様そのものである。無関心を装いつつも、褒めても良いんだぞ感がプンプン。

 それに気付いて、香多奈が褒めまくるのは毎度の事。


「ルルンバちゃんも空中戦を戦えてたし、ミケも海側の敵との相性良いな。切り札的な使い方で活躍してくれそうだな、ちょっと肩の荷が降りたよ」

「そうだね、今回もゲスト2人いるし、人数は足りてるから乱戦にも対応出来るよねっ! 護人叔父さんっ、遠慮しないで頼ってくれていいよっ!」

「はいっ、もちろんっスよ……護衛も頑張るっスけど前衛足りてなかったら、遠慮なく声掛けて下さい!」


 姫香の威勢の良い掛け声に、応じるみっちゃんの勇ましい声明。陽菜は無言だが、明らかに探索の雰囲気に集中してハスキー軍団並みに臨戦態勢だ。

 チームの士気は確実に上がっており、探索速度も比例して上がって来た。間引きも順調で、1層とほぼ同じルートで20分程度で次の層への階段を発見する一同。

 ただし、それを守るように軽自動車サイズの肉食恐竜が。


 なにザウルスかなぁと、呑気な香多奈の問い掛けに。特徴は凄くあるねぇと、紗良は中腰で身をかがめながら敵を観察する素振り。

 向こうはまだこちらを見初めていないようで、その場を動く素振りは無し。ハスキー軍団は身を低くしながら前進、ご主人の号令でいつでも突っ込める構えである。


 先制攻撃の機会があるなら、逃す手は無いと護人は姫香に投擲用意の指示を出す。恐竜のフォルムは、四つ足で首筋に襟状の被膜と数本の角が前面に突き出す形状で。

 アレで突進して来られたら、盾持ちの護人でもちょっと怖いかも。出来れば得意の、姫香の速攻投擲で一気に片付けてしまいたい。

 ついでに護人とみっちゃんも、弓矢で畳み掛ける用意をして。


 号令と共に一気呵成いっきかせいの遠隔攻撃、唸るシャベルが恐竜の腹を大きくえぐる。ついでに香多奈の投げた爆破石が、風を唸らせてダメージを与える。

 ハスキー軍団も突っ込んで行って、驚く恐竜は完全に捕殺される側に成り下がって。角の振り回しに気をつけろとの、護人の注意喚起もあまり意味もなく戦闘終了。

 最後はコロ助の『牙突』で、恐竜は魔石に変換されて行った。





 ――こうして2層も攻略、手強いダンジョンだが何とかやれそうな気配?







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