第114話 親しくなった美人三姉妹と、動画撮影会を行う件



「それじゃあ、まずは……えっと、姫香ちゃんだっけ? ハスキー犬と一緒に、彼女たちと談話形式で撮影お願い出来るかな?

 20分くらいで、地元の話とかの質問をするから。そっちも何か聞きたい事があったら、遠慮なく話し掛けてくれて大丈夫だからね。

 あっ、陽菜ちゃんも一緒に撮影お願い出来るかな?」

「私は別に構わないが……それじゃあ、レイジーとツグミと一緒にインタビューを受けようか、姫香。この子たちの戦闘能力は凄いぞ、恐らく“変質”した動物では稀なパターンかも知れないな。

 噂では、大抵のペットは変質すると狂暴化するそうだから」

「ああっ、それは聞いた事あるし実際に殺処分されるペットは多いみたいだよ? ほぼ野良モンスターと同じ区分だよね、“変質”しちゃったペットには気の毒だけど。

 噂では、人間より動物の方が魔素の影響を受けやすいんだって」


 そうなのかと、陽菜は席に着きながら無表情にレイジーを撫でる。その話が本当だったら、目の前の存在がまるで奇跡だと言うかのように。

 ツグミも甘えるように姫香に寄り添って来て、良好な関係は傍目からも丸分かり。レイジーも2人の前に寝そべって、緊張の類いは窺えない。


 既にスマホで撮影に入っている白井さんは、その辺の事情を中心にインタビューを始めるよう八代姉妹に指示を出す。逆に緊張気味なのは長女のすみれで、どうも彼女は強者のオーラを可視化出来る能力がある模様だ。

 次女の椿つばきが、代わって司会進行役をこなし始めて姫香と陽菜に質問を浴びせる。2人がどうやって知り合ったかとか、その後の経緯なんかを中心に。

 答えるのはもっぱら姫香で、陽菜はいつもの様に無表情キャラを貫いている。


 夏にあった研修旅行とか、その後突然に押しかけて来た顛末を、姫香は簡潔に語り出し。一緒にダンジョンに潜ったとか、理力の使い方を特訓中だと話題を提供する。

 そこに三女のさくらが割って入って、E‐動画を観たんだけどと前置きして。半年の活動歴にしては、10層も到達してるし凄いよねとお世辞抜きの称賛を口にして。

 その原動力は何なのと、結構ストレートな質問をぶつけて来た。


「それはやっぱり、生きて行くための1つの作業だと思えば何でもないよ。田舎の農家って、家畜の世話は休みなんて無いし農繁期は超忙しいし、ちょっとした山仕事や大工仕事もこなさなくちゃならない。

 当然、全部をこなすのは1人じゃ到底出来ないでしょ? 1人じゃ辛いし不満も募る作業も、みんなでやれば割かし平気なのは経験則から学んでるから。

 ダンジョン探索も同じだよ、ウチのチームは頼れる家長がリーダしてくれてるし」

「なるほど……そんな生活境遇から生まれた、信頼関係とか絆の強さは動画を観てても確かに感じるかな。ハスキー犬も献身的だし、本当に良いチームだと思うよ?

 生き延びる力っての、言い得て妙だよね」


 まぁねと何故か自慢げな姫香、インタビューなんて初めてだろうに堂々と物怖じしないその態度。その後も、次々と八代姉妹と質問形式の対話は続いて行く。

 定番の、何で犬猫を連れているのとか、何でくわを武器にしているのとか。姫香は成り行きだとか説明せず、農家では当たり前な感じをアピールするけど。


 決して当たり前じゃ無いよとの雰囲気を、長女の菫はかもし出していて。ここまで護人が見た中では、三姉妹の中では長女が一番常識派であるようだ。

 未だにレイジーを警戒しているし、美人だが大人としての振る舞いが似合う感じの女性だ。逆に次女の椿は、天真爛漫で可憐な少女って雰囲気。

 自分の美貌を承知していて、無意識に計算して振る舞っている感じを受ける。


 それと全く価値観を別にしているのが、三女の桜だろうか。護人が感じたのは修行僧の様なストイックさ、数週間接した陽菜に通じる子供特有の芯の硬さが見え隠れしている。

 さっきも陽菜に対して、修行の成果はあったのかしつこいくらいに確認していたし。出来れば自分もみたいな、強さに対しての渇望を持っている様子。


 美人三姉妹で有名なだけあって、この娘も相当な美人である。或いは未完成故の美しさと言えようか、姫香もそんな雰囲気をまとっているけれど。

 その姫香だが、今はハスキー軍団とのなれそめを語っていた。レイジーは仔犬の頃に譲って貰って、来栖家で愛情を込めて育てて護人の護衛犬に就任して。


 ツグミとコロ助は、文字通り赤ん坊の頃からの家族関係で。自分と妹と共に生きて行く、そう言う思いでお世話をして、それぞれの護衛犬になって貰った経緯が。

 それがまさか、探索にも同行してくれるようになるとは。ましてやスキル能力まで使いこなすとか、まぁそれは偶然の産物に過ぎなかったのだが。

 まさかその能力を、人間並みに上手に使いこなすようになるとは驚き。


 レイジーに至っては、オーブ珠で特殊スキルまで持っているし。特殊スキルを所持している探索者は、確率的に意外と少ないそうである。

 そのせいで、尾道の協会も陽菜には大きな期待を抱いているそうで。そのプレッシャーのせいで、陽菜は特訓と称して地元を離れたのかも知れない。


 何にせよ、一見和やかな対話は八代姉妹の主導で続いて行く。約20分程度の話し合いで、最後に何か一言と振られた姫香は暫し思考にふけった後。

 ウチの地元は“魔境”とか言われているけれど、その誤解を解きたいと力説。実際に何年も住んでいるけど、そんな危険な目に遭った事などほとんどないと。


 それには隣に座っていた陽菜も賛同して、2週間ほどお世話になったけどとても楽しかったと口にする。普通の田舎町で、何なら広島市内での生活の方が危険だったと付け加えて。

 そして言いたい事は言い切ったと、席を立つ若いお嬢さん達。



 次に招かれたのは、ミケを抱えた紗良とみっちゃんだった。ミケは完全に寛いでいるけど、何故かみっちゃんはド緊張している様子。それでも話を進める内に、段々と硬さもほぐれて行って。

 彼女も同じく、研修旅行の思い出についてとっても熱く語り始めて。姫ちゃんがお父さん役なら、この紗良お姉さんはチームの母親役だと熱弁し始める始末。

 挙句に、将来はみんなでギルドを作りたいと夢見模様。


「これ見て下さい、研修旅行で約束してたお手製のポーションホルダーっスよ? 売り物は革製で高くて買えなくて、そしたら紗良お姉さんが作ってくれるって言って。

 普通はそんな口約束、家に帰ったら忘れちゃいますよねっ? それなのにさっき、お土産だって私と陽菜ちゃんにプレゼントして貰って!

 いやぁ、私が男の子だったらお嫁に欲しいレベルっスよ!」

「うわあっ、凄いね……確かに手作りでこのクオリティは凄いかもっ!?」


 その話題に思わず食い付いた長女の菫、恐らく自分でも裁縫とかやる人なのだろう。確かに紗良の製作技術は、来栖家に訪れてから急激に上昇している。

 いや、それは実は『光紡』スキルを裁縫に流用しているからなのだけれど。お陰でミシン要らずで、売り物並みのクオリティの製品を作り出せるように。


 そこには敢えて触れずに、謙遜しつつも自分のチーム内での役割は主に情報収集だと口にする紗良である。母親役と言うより、縁の下の力持ち的な存在を目指しているそうで。

 こっちの東広島の情報について、さり気なく聞き出してくれている。次女の椿は、オーバーフロー騒動はどこの町でも割と聞くよとあっけらかん。

 山の方では、町の砦化まで検討しているらしいそうな。


「さすがに海に面した町では、それはあんまり有効じゃないからねぇ。探索チームがダンジョン管理したり、街中をパトロールしたり……ウチらも動画活動メインだけど、治安維持のお仕事も毎日頑張ってるよ。

 自警団の人もいるけど、強いモンスターが出たら対応出来ないもんね」

「なるほど、私達は月に何度か間引き依頼を受けての活動がメインですね。このミケちゃんも、探索に一緒について来てくれるんですよ?

 こっちは強い探索チーム、多いんですかね?」


 そんなに多くは無いが、『Zig-Zag』と言う名のギルドが尾道をメインに取り仕切っているそうだ。八代姉妹のチームや陽菜の『ユニコーン』は、それには属さず細々と探索活動を行っているそうで。

 そこは気楽で良いのだが、やはり近辺との情報の遣り取りや大掛かりな討伐戦となると、ギルド勢には適わないそう。協会伝いだと、どうしても初動が遅れたり大変みたいで。

 そんな悩みを、長女の菫は抱えているとの事である。


 向こうの活動模様を聞き出して、紗良は割とスッキリした表情。来栖家チームでは情報収集役を担っていて、ここでも大いにその役目を果たした感じだ。

 みっちゃんも、島国の一体感は1つの家族ですよとギルドに負けない地元の絆をアピール。良く分からないが、やっぱり来栖家チームの特殊性はどうやっても無駄に目立つ模様。


 そこは既に濁すのを諦めた護人、何しろ自分も話をしたいと、香多奈がトリに立候補しちゃってるし。子供の我が儘に弱い護人、顔を隠すのを条件にそれを許可する。

 そんな訳で、フードとマスクと叔父さんのサングラスを借りて、万全の構えで椅子に座る香多奈。ご機嫌にコロ助を従えて、ルルンバちゃんを膝上に抱っこしての登場である。

 そしてその肩には、妖精ちゃんが愛嬌を振り撒いていて。


 その不思議生物に、驚く三姉妹と撮影者の白井さんである。それはナニとの三女の桜の質問に、さっきまで胸ポケットで寝ていたのと頓狂とんきょうな返答の香多奈。

 そんな訳で、妖精ちゃんの特性や末妹の特殊能力(変テコ翻訳機能)を丁寧に説明する紗良である。ペット達やお掃除AIロボとも会話が可能との言葉に、再び言葉を失う八代姉妹。


 動画を観た事のある三女の桜も、まさかそれが本当だとは思っていなかった様子。こんな世の中になっているのに、やはり常識のくさびから抜け出せずにいる彼女たち。

 それに構わず、香多奈はご機嫌にコロ助の芸をカメラの前で披露する。


「コロ助っ、頑張れっ!」

「わわっ、何それっ……犬が一瞬で大きくなった!?」

「そんじゃ、次はルルンバちゃんね……何か芸してみて、ルルンバちゃん!」


 一芸を振られたルルンバちゃんは、取り敢えずは宙に飛び立ってその場でくるりと一回転。見事なインメルマンターンからの木の葉落としは、当然ながら普通のドローンでは到底無理な高等飛行技術である。

 協会の事務員さんも、その飛行能力を驚きながら眺めている始末。どこから突っ込んで良いのか戸惑う八代姉妹に、何となく同情してしまう護人である。


 コロ助とルルンバちゃんを自慢出来て、それだけで満足してしまった香多奈であるが。妖精ちゃんが、どうも協会に強力なアイテムが置かれているのを感じ取ったようで騒いでいるよう。

 それを訳すと、撮影の様子を眺めていた受付のお姉さんが反応を見せた。それから奥の支部長と相談し始めて、特別に尾道のダンジョンから入手した宝珠ほうじゅを見せてくれるとの事。

 子供たちの興味は、一瞬でその宝珠とやらに奪われてしまって。


「えっ、そんな高価なモノがドロップしたの……どこのチームが持ち帰ったんだろう、きっと凄い儲けたんだろうなぁ、いいなぁ!」

「あの、宝珠って何でしょう? そんな高価なお宝なんですか?」

「宝珠はオーブ珠よりレアと言うか、上位のアイテムですね。相性チェックをすっ飛ばして、素質の無い者にすらスキルを取得させる、ある意味恐ろしい能力の魔法のたまなんです。

 噂では、A級の甲斐谷さんはそれを幾つか使用したんじゃないかって」


 そんな噂の宝珠を一同の前に運び込む受付のお姉さん、価格は500万円で能力は《聖域発動》であるらしい。凄いなぁと食い付く香多奈だが、さすがに手を伸ばそうとはしない。

 もっとも、透明なケースにしっかりと仕舞い込まれて厳重な措置はされているけど。確かに誰かがうっかり触って、スキルを取得しましたでは洒落にならない事態である。


 妖精ちゃんもテンション上がっているようで、ケースにへばり付いて来栖家の面々に誰か覚えろと催促する素振り。彼女の原動力は単純で、とくかく仲間に強くなって欲しいみたい。

 だからと言って、その投資に500万円は行き過ぎである。



 などと騒いでいる内に、何とか撮影会は無事終了の運びに。それから夕食会だが、八代姉妹が約束通りに招待してくれるらしい。場所も既に押さえているそうで、後は招かれるだけ。

 時刻は既に夕ご飯に良い時間、八代姉妹の案内で尾道の街中を移動する一行。白井さんはここでも動画撮影、負けずに香多奈も家族旅行の思い出を護人のスマホで撮影に忙しい。


 場所は今夜の泊まる宿の近くで、その点は一安心だったけど。いつの間にか陽菜の兄が参加していたり、食事場の大部屋に招かれていたりとカオス状態。

 陽菜の兄も探索者らしく、来栖家への妹の居候についてのお礼はくどい程に言われてしまった。護人はそれは軽く受け流し、ハスキー達が寛げるようにキャンピングカーを移動させたり食事前に忙しく動き回る。

 結果、皆と合流したのは食事会が始まって暫く経ってから。


 子供たちに散々遅いよと言われたけど、ハスキー達もミケも食事を済ませて車内で寛いでくれて一安心。後は自分が食べるだけ、テーブルには豪華なお刺身や魚の鍋が並んでいる。

 窓の外には海も見えるし、リクエストの魚料理も堪能出来て旅行に来た甲斐があったと言うモノ。子供たちも楽しそうに、並べられた料理に舌鼓を打っている。





 ――その光景に、何より心が温まる護人だった。







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