~Blackstar 1.0~

 またあの女の人だ。

 大人の女性にも見えるのに、どこか若々しい永遠性を感じさせる。


 ――――あれがもしかしてブラックスターの本体なのかな。咄嗟にそんな謎の単語がまた頭の中に浮かぶ。確か前に彼女がそう言ったのだ、と。


――いいえ。わたしは残響音のようなもの。本当のわたしは、世界にバグと見做されて既に消された存在。だから貴方を見守るだけ。


 幽霊、なの? でも確かに貴方のことが見えて、こうして感じられるのに。

 彼女はそれには答えず、ただ言うべきことを伝えてくる。


――この町にはディストーションとなる、あの原理の使者の敵が居るわ。だから貴方が自分のよどみと向き合い、真に精神的に暗い部分を呑み込めた時――


 そして言葉を句切り、悲しそうに首を振って、半ば自嘲を含んだ笑みを、他の何にも似ていないその顔貌に浮かべる。


――いいえ。でも貴方は貴方自身も気づいていないおりに潰されないように、その先にある可能性になって欲しいの。世界は既にあり得るカタチだけでは不安定で、だけれど故意に歪ませようとしては自壊してしまう。


 私にあなたは何を期待しているの? あなたは私に何もしないのに。


――そう。既に貴方はブラックスターでもあり、世界の可能性の一部。ただわたしはそれを少し後押しするだけ。未知の可能性はディストーションにもなり得る種。


 潰れてしまったらどうなるの? 死んじゃうのかな。

 そう問うと、彼女は不思議と優しく包み込むような声色でうっすらと彼女を諭す。天使か死神か定かでない白い髪が揺れている。幻想的な光景。

 そこに浮かんだ姿が、彼女自身ではないのがにわかには信じられない。


――貴方は泥を消し去ることは出来ない。生まれた時からの宿命ですから。でもそれを自らの意志で、カタチと在り方を変えることは出来る。それが辛くけわしい狭き道でも、貴方はやはり選択しなければならない。


 私はそんな大それた人間じゃないのに、強い言葉を幽霊さんは私に掛けてくれる。

 それが強い未来への希望であると、彼女は強固に信じている。

 でもそれなら自分じゃなく、姉さんならもっと相応しい気が。


 そんな疑念が不意に頭に浮かんだ時、ズキリと胸が痛み頭痛もした。誰かに何かを唆されているような。自分が自分でなくなるような。

 体はどこにあるのかも分からない。それが夢であるとも気づかず。

 いつしか、全てを見据え遠い眼をした彼女が遠のき、次第に意識が薄らいでいく。


 ――――私から幽霊さんが離れていく。

 私は自分がどこに居るのか分からなくなり、必死に「ココ」に留まろうとした。

 ――――でも今居るココは、一体どこなんだろう。

 ・・・・・・頭痛は起きてからも、長い間治まらなかった。


――――to be continued.

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