第十一夜 山頂
山頂に向かって山登りをしている男がいた。
そんなに有名な山では無く、周りに同じように山登りをしている人の影は見えなかった。
男は、雑音が入らず、純粋に自然の音を楽しめる完全なる一人という状況を、リラックスして楽しんでいた。
しばらくして、鳥や風の音の他に、雑音が混ざって聞こえてくるようになっていった。
最初は気にも留めていなかったが、段々と山頂に向かうにつれて存在感を主張してくるソレに対し、何か異常事態が周辺で起こっているのではないかと、男は思うようになった。もしかしたら、クマが出たのかもしれないと考え、男は不安になった。それから、なるべく音を出さないように移動するように男は心掛けた。
山頂に向かえば向かうほど、雑音ははっきりと聞こえてくるようになってきた。男は一瞬下山しようかと考えたが、もうすぐ頂上である事、陰から音の正体を早く見てみたいという、怖い物見たさの好奇心から、ぐんぐんと登っていった。
そして、山頂に着いた時、そこには……何も無かった。ただ綺麗な景色があるだけであった。
しかしながら、雑音は相変わらず、否今までの中で一番大きく聞こえてきた。
男は、山頂から見える周囲を遠くまで観察した。すると、男は何かしらのものと目が合ったと感じた。その何かしらのものを、はっきりと見たわけでは無いのにも拘わらず、である。
只、何となく音の発生源は、その何かしらのものからであろうと、男は理解することが出来た。
男は、何を思ったのか急に度胸試しがしたくなり、試しに山登りの代名詞である
「ヤッホー」
という言葉を、目線の方角に向けて叫んだ。
けれども、反響する男の声は聞こえなかった。代わりに、雑音が鳴り響いた。
男が、流石に恐怖を感じ慌てて下山した。その際男の足にヒビが入ってしまったらしい。
こう見ると、男は災難であったと考えることが出来るかもしれないが、男がずっと聴いていた雑音が、骨をかみ砕くような咀嚼音であったことを考えると、ヒビだけで済んだのは運が良かったのかもしれない。
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