第三章 十六話 「思いの起源」
仲間内での激しい意見の対立を経験したばかりの解放戦線の護衛部隊だったが、非常路を使うことが一旦決定すると、その車列は狗井達が数時間前に偵察した退路へと向けて、サバナの草原を迷うことなく全力で疾走して行ったのだった。
非常事態に瀕した状況を前に部隊全体が醸し出す緊張感を全身で感じ取り、先程までの迷いや困惑を一時的にも忘れた幸哉は周辺警戒に全神経を集中させ、部隊が廃村に到着し下車した後もエジンワの側を離れず護衛に就いていた。
(やっぱり自分はこの役割に適性があるのかもしれない……)
やらなければならない時にやれと命令された事を徹底して成し遂げる……、軍隊で最も必要とされる信条を冷静に実行できている自分の姿に幸哉は儚い自信を感じるとともに、先刻までの憂慮がたった一時の迷いだったのではないかとも思った。だが、無人の廃村の一角を通り過ぎた時、自分が殺めた政府軍兵士の血液が他の虐殺の痕跡と同じようにサバナ住居の壁にこびり付いて乾いているのを目にした瞬間、幸哉は再び自分の胸の鼓動が速まるのを感じて兵士になり切れていない自身の未熟さに失望したのだった。
(結局、俺がしたことも野蛮な殺戮と何ら変わりないのか……)
そんなことを思って悲観する自身の感情の動きに自分が兵士として未完成なのだという不動の事実を更に思い知らされた幸哉は狗井が用意した非常路を抜けた一行とともに脱出用の小型船に乗り込む瞬間、ふと一つの疑念に思い至った。
(俺はいつから兵士になりたいと思った……?)
最初は弱い人達を救いたいだけだった。それがいつから自分は兵士として戦いたいと思うようになったのか……、幸哉はズビエに来てからの出来事を心中で振り返った。
チェスターに復讐を誓った時?少年兵の無惨な最期を目撃した時?いや、もっと前……、狗井を救おうと咄嗟に目の前の自動小銃を拾い上げた時、自分は兵士として生きていくことを既に決意していたのかもしれない……。
兵士として生きていくことで弱き人々を守ることが生き甲斐となった今、その思いの経緯を考えるなど無意味なのかもしれないが、自らの意志の起源について暫くの間、思いを馳せていた幸哉は、
「おい幸哉、早く行くぞ!」
と船上からかけられたエネフィオクの声に放心状態から意識を引き戻され、自分以外の全員が乗り込んだ小型船に慌てて乗船したのだった。
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