第二章 二話 「ブリーフィング」
プラの集落の中心部に建てられた指揮センターで始まったブリーフィングに、部隊復帰直後の幸哉はカマルに引き連れられて参加した。指揮センターとはいっても、その実際は周囲のバンブーハウスよりやや大きい高床式住居に大机と作戦説明用のボードが用意されているだけの木造建築物だったが、ブリーフィングに招集されたことで自らが組織の一員として認められたことを実感できた幸哉は密かに歓喜していた。
自分は見捨てられていなかった……、狗井は自分のことを気にかけてくれていた……。つい先程知ったその事実に対する喜びで一人頬を緩ませていた日本人青年だったが、ブリーフィングが始まると同時にセンターの中に張り詰めた緊張の空気に気分を引き締められた。
今回の作戦は二個小隊での行動となり、幸哉達の属する部隊とはもう一つ別の小隊が協同で作戦を遂行することになっていたが、総作戦指揮は狗井が務めることで決定していた。
「いいか!今回はただの行軍ではない。最重要人物を護衛しながらの行軍だ!」
最重要人物……、その言葉がエジンワを暗に示すのだということはブリーフィングに参加している全員が承知していた。だが、総作戦指揮を務める狗井がブリーフィングを進めていく中、幸哉がセンターの室内を見回してみても、エジンワの姿は見つけられなかった。
(別の場所で待機しているのか……?)
一度会って以来、まだ再会できていない解放戦線指導者の姿を幸哉が意識の片隅で探し続ける間も作戦会議は進んでいった。
今回の任務は解放戦線への協力拒否を表明したダンウー族本拠地へのエジンワの護送と交渉中の周辺警戒。幸哉が前回参加した任務に比べると、移動距離は圧倒的に短く、出発地点か目的地まで車を使っての移動が可能なため、行軍自体の難易度は低かったが、最重要人物を護送しなければならないという絶対条件が任務の難易度を高めていた。
「俺は諸君らに遂行不可能な任務を課そうとしている訳ではない。だが、知っての通り今回の護送対象は我々の組織の要だ。失えば、メネべは統制を失い、一気に崩壊するだろう。それを肝に銘じておいてくれ。解散だ」
狗井の締めの言葉とともにブリーフィングが終了すると、起立して直立不動の敬礼をした兵士達は指揮センターの外へと続々と出ていった。幸哉がその後を追ってセンターの外に出ると、既に彼らが移動に使用する車両群がエンジンをかけた状態で待機していた。
「あの……、エジンワさんは何処にいるんですか?」
今回の任務の鍵となる存在、しかしながら影すら見せない指導者の居場所を幸哉は並んでセンターから出てきたジョニーに問うた。
「もう既に乗ってるよ」
そうぶっきらぼうに答えたジョニーの指さした先では三両の小型装甲車が停車していた。ショーランド軽装甲車……、ズビエの旧白人政府が警察用に採用していたイギリス製APCだ。恐らくは一両が本命、残る二両が敵撹乱用のダミーだと幸哉は瞬時に理解した。
「それにしても、顔くらい見せてくれれば良いのに……」
自分のために危険な任務を命を張って遂行してくれる兵士達にろくな挨拶もせず、装甲車の中に籠もり切っているエジンワ……、まだ一度しか会っていないものの、過去に話した気さくで思慮深い印象とは正反対な指導者の行動に幸哉は思わず愚痴をこぼしたが、ジョニーはそんな青年の肩を優しく叩いてなだめた。
「ちゃんと理由があるよ。向こうに着いたら教えてやる」
意味ありげな笑みを頬に浮かべたアメリカ人傭兵に幸哉はまだ言い足りないことがあったが、彼が口を開くよりも先にジョニーは停車するランドローバーの方へと歩み去ってしまった。
「何の理由があるっていうんだ……」
去っていく先輩傭兵の背中を見送った幸哉は装備の確認を終えると、自分が乗るランドローバーへと歩きながら、エジンワが乗っているはずの装甲車の方を見やった。防御用に車体前面と運転席側面の窓にも装甲板を張り付けたAPCの中は車外からは確認できず、当然エジンワの姿も見えなかったが、幸哉の心の中には自らの組織を率いるリーダーに対する不信感が芽生えていた。
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