第70話 魔法弓1

 フィーネの話してくれた計画の厄介さは、装備に悩んだ覚えのある僕にはその有効性が嫌になるほど理解できた。


 危険な場所だと分かっていても騎士団と一緒で、後ろから弓を放つだけの役割だと言われれば、危険と利益を秤にかけて利益を選ぶ者が出てくるだろう。


 (もし僕が何も知らず、何も持たずに、この都市に来たとしたら……参加していたかもしれない)


 最近、周辺国で食い詰めて、景気の良いガザフに流入してきている者達を、当て込んでいるに違いない。


「アイアンアーマーなんて言ってるけど、実際は大量に調達出来るレッサーボアの革を[貫頭衣]にしたものにアイアンプレートを縫込んだ感じかしら~。まあ慣れない者に本物のアイアンアーマーなんて着せたら動けなくなりそうだけどね~」

 

 貫頭衣とは、革の中央に穴を空け、頭を通すだけの服らしい、ある意味簡易コートとも呼べそうだ。実際は多少の裁断や縫合はされるだろうが、製造に手間がかからないだろう。


 普通に考えれば簡易的な装備とはいえ、ダンジョン初心者が手に入れる物としては妥当な物に違いない。


 もし支給されるという装備一式で、何の訓練もした事がない者がダンジョン一層に放り出されても、その日からウザギ狩りとしてやっていけるだろうと思われた。


 だが、階層攻略にその装備で同行するのはどうだろうか……


「そうだわ~、複合弓で思い出したわ~」そう言うとフィーネは、ふよふよとサラの所に飛んで行った。


「サラ~貴女、ポーチに複合弓の試作品、持ってたわよね~? それだして~」


 そろそろ狩りも一段落して、魔素吸収を行っていたサラは


「ああ、あの可愛くない弓ね、あんなのどうするの?」そう言いながらポーチから、一本の弓を取り出した。


 その特別変わった所も無い木製の弓は、持ち手部分に劣化黒魔鉄らしい物で補強されていた。非常にシンプルなショートボウだった。


「ダンジョン産の魔木と劣化黒魔鉄で作られた複合弓の試作品よ~、非常に廉価な魔法弓としてガザフに提案されたみたいだけど、一顧だにされなかったみたい。貴方よかったら、ちょっと使ってみせて~」


 僕もその弓に興味があったので、喜んで試させて貰う事にした。


 サラから受け取った弓はとても軽く手に良く馴染んだ。村でも狩りで使う事があったので、弓は其なりに扱いなれている。


 だがこれは魔法弓なのだ、普通の弓とは根本的に違っていた。僕は普段使っている盾の強化を行う時と同じ要領で魔力循環を行った。


 すると魔力の矢が番えられ、その矢と標的と意識した蜂との間に、一本の細い糸のような魔力の流れが感じられた。


 (これが、攻撃魔法を敵に向けるイメージなんだ)


 魔力の流れを感知した蜂が少し震えだした。


 (警戒されてる? 群体の三匹のうちの一匹目だよね?)


 サラが攻撃している時は、一匹目で警戒行動を取る事はなかった。


 (だがよく考えると、何故サラの攻撃は警戒されないのだろう?)


 僕は考えを振り払い矢を放った。矢は蜂の頭を貫通し一撃で仕留める事が出来たようで、威力も申し分ない。


「あら~、いい感じね! 貴方このままその弓使ってみたくない?」


 フィーネはとても気軽にそんな事を言ってのけたのだった。

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