第64話 蜂狩り解禁2
夕食の時間が始まる少し前に、猪鹿亭に戻ってみると、ルナとキャロの二人は居なかった。その替わり、見知らぬ子供達が四人、食堂の隅のテーブルで煮込みを食べていた。
猪鹿亭の食堂は夕食時しか営業していないので、ルナ達以外に子供の姿を見る事は少ないのだ。
不思議そうな僕の視線に気が付いたラナさんが、浄化魔法を掛けながら事情を説明してくれた。
「孤児院の食事事情が悪いみたいだから、何か出来ないかと思って、ささやかだけど、一日四人限定で食事にご招待する事にしたのよ」
恐らく、ルナとキャロの食事の姿から、鋭いラナさんが気が付いたに違いない。
「ありがとうございます、ラナさん」自然に僕の口から、お礼の言葉が滑りでた。
「あら、何故ユーリちゃんからお礼を言われるのかしら? まだ子供と言っても良い貴方が、ウサギを寄付してるのに、大人の私達が何もしない訳にはいかないわよ」
ラナさんにしては珍しく、少し強い口調でそう言った。
「それから、パン屋のミレさんから子供達のお土産用に蜂蜜の焼き菓子を頂いたわ、どうやら蜂蜜の騒ぎも無事収まったみたいね」
(ラナさんは知り合いにも孤児院の窮状を伝えているみたいだな……)
色々な方面に影響を与えた、今回の騒動も短期間で収束した事に、皆ほっとしているそうだ。
「短期間で収束させる為に、雇っていたクランに狩り場で蜂蜜を集めさせたのは良いとしても、やり方が強引過ぎて却って評判を落としたみたいね」
(例の狩り場占有の件だな……ギルドからも苦情を受けたみたいだけど)
僕としては、狩りの予定を狂わされたくらいで、ディーネとの出逢いの切っ掛けになったこの出来事は悪い事ばかりではなかった。
「明日は早速、蜂蜜狩りしてきます!」僕の元気な宣言に、ラナさんは微笑みながら
「そういう所は、やっぱり子供ね」と何処かで聞いたような台詞で、少し呆れたような、感想を述べられてしまったのだった。
◻ ◼ ◻
翌日になり、早速、二層の狩り場に到着した僕は、本当のこの狩り場の姿を目の当たりにする事になった。
厄介な狩り場だとこの前、ここでクラン風の牙に苦情を言っていた探索者リーダーらしき男が、言っていた通りの状況が広がっていた。
「これは……普通だったら尻込みするのも分かるな」僕がそう一人呟いてしまったのも無理は無かった。
僕を待ち受けていたのは、広大な花畑にひしめくような、蜂の群れだったからだ。
(沢山の探索者がいたのは、人数でごり押しする為だったんだな)
もし僕がガザフに来たばかりの状態で、ここに一人で来ていたとしたら、諦めてウサギ狩りに戻っていただろう光景が広がっていた。
でも今の僕は少し違った「さて、始めますか!」と宣言するように声を挙げると、召喚した二体の仲間と共に真っ直ぐ狩り場に向かっていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます