第62話 天弓のミリア
彼女の事をよく知らない僕は、【天弓】のミリア と、二つ名付きで呼ばれた彼女と、その連れだと思われるエルフの一団の事を、少し離れた場所から眺めていた。
彼女の登場で、さっきまでの僕の話題など吹き飛んでしまったようだ。
噴水広場の探索者の話題は、この有名らしい彼女の事で持ちきりになった。
「【天弓】のミリアがいるって事は、あれエルフィーデ女王国の査察団だよな? なんでこの時期にいるんだ? 遠征は暫く予定されてない筈だよな?」事情通らしき探索者が叫んだ。
「ああ、そうだな俺も何処からもそんな話は、聞いちゃいねえ」知り合いらしき男が相鎚を打っている。
「おい! 誰だよあの偉そうな感じのエルフの美女は?」年若い感じのいかにも新米らしい探索者が、仲間らしい男にこっそり尋ねているようだが……しかし、声が大きくて周りにまる聞こえだった。
「何! お前【天弓】のミリア知らねえのかよ! 去年の遠征軍の撤退戦での活躍も知らねえってのか?」その話が聞こえた、他の探索者から揶揄の声が挙がった。
「最近ガザフに来たばっかなのに、去年の事なんか知るわけねえだろ‼」自分の無知を指摘されて恥ずかしかったのだろう、少し自棄気味になったように言い返している。
「私も、その話し詳しくは知らないのよね、二つ名と活躍したって話はよく聞くんだけど……あなた詳しく知ってるの?」
別の場所では若い女性探索者が連れの男に尋ねている。
「去年の撤退戦でレッサーワイバーンの群れ数十匹を【天弓】の一撃で撃退し、遠征軍を救ったってやつだろ、まあ詳しい事は後で教えてやるよ」連れの男も良いところ見せたいのか、若干勿体付けたように語った。
しかし、他の探索者が撤退戦についての仔細を面白おかしく話しており、それを連れの女性探索者が聞き入っているのを見て渋い顔をしていた。
(弓の一撃でレッサーワイバーンの群れを撃退するなんて)
本人そっちのけで、盛る上がっている探索者達を見ながら、僕はそんな事を考えながら突っ立っていた。
ふと視線を感じたような気がしてエルフの一団に目を向けると、団の最後尾にいた一番最年少と思われるエルフの少女と目が合った。
どうやら、僕をじっと見ていたようで、僕が気が付いたのが分かると団体から離れて、こちらに足早に近づいてきた。
その銀色の髪をした美しい少女が接近して来るのを驚いて見ていると、少女は
「あなた、さっき話題になってた人ですよね? ミリア様が注目を集めてくださってる間に、この場を立ち去るのが賢明ですよ」
そう言いたいことだけ伝えると、さっさと元の場所に戻って行った。
僕は一団に向かい頭を下げると、誰にも気付かれる事なく、足早に噴水広場を後にしたのだった。
広場を去る僕に最後に聞こえたのは、「私も随分、前回の遠征で有名になってしまったものね。これじゃあ、気軽に外も出歩けない無いわね! ねえ! そこの衛兵の方」
という、満更でもなさそうなミリアさんの声と、ミリアさんの名前を叫んでしまい、注目の原因を作る事に一役買ってしまった年配の衛兵の困ったような声だった。
(ごめんなさい、お二人とも)
僕は、二度と注目を浴びるような事はすまいと、決心しながらその場を後にした。
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