第50話 妖魔コロボックル1
徐々に存在が薄くなっていく妖魔の姿を見て、僕は慌てて魔力を注いでみた。すると注いでいる間は、少し悪化する状態を抑えられるみたいだった。
(ルピナスもダンジョンの魔素を吸収して自分の体を維持しているんだから、この子も魔力を吸収すれば回復すると思ったんだけど……)
魔力を吸収してはいるみたいだが、それ以上に何かに存在を吸収されてでもいるように思えた。
(もしかして、ダンジョンに吸収されているんじゃ……)
ダンジョンに仕留めた獲物を放置しておくと、翌日訪れたら影も形も残っていないそうだ。
(瀕死の魔物も同様に吸収されるとしたら……そうだ!)
僕は妖魔を抱えて、ダンジョン二層の入り口の方角に向け、走り出したのだった。
◻ ◼ ◻
持っていた獲物や、武器と盾もマジックポーチに全て収納し身軽になった僕は、ひたすら地上を目指して走り続けていた。
それでもずっと走り続けるのは無理なので、途中で休憩を兼ねて、魔力を妖魔に注ぎながらも休憩は最小限に留めた。
そしてルピナスに先導されながら、ただ真っ直ぐ走り続けたのだった。
単純に長距離を走るという行為は、その単純さ故に自分の体力が上がっている事が如実に理解できた。
(僕は、少しずつだけど確実に強くなっている!)
孤独で単調な長距離の疾走という行為も、強くなったという喜びに慰められ、それほど苦痛に感じる事もなく、僕は一層入り口近くまで無事に到着出来た。
子供の姿の妖魔をそのまま抱えているのは、悪目立ちしそうだったので、ポーチから村から持ってきた小麦袋を出し、何ヵ所か空気穴を開け、そこに妖魔を入れる事にした。
(普通に呼吸してるよね?)
僕は妖魔や精霊の生態が分かるわけでもないので、普通の子供と同じように扱う事にした。
(子供にしても酷い扱いだと思うけど、仕方ないよね……)
いくら大人しくて、瀕死の状態とはいえ妖魔を地上に持ち込むのだ、見つかれば、僕にもどうなるか分からなかった。
口を紐で括ってレッサーラビットと一緒に棒に吊るし、僕は地上への階段を登って行った。
◻ ◼ ◻
地上に戻った僕は、衛兵に怪しまれる事もなく普通に挨拶し、噴水広場を足早に後にした。
小走り気味に猪鹿亭を目指したお陰で、それほど時間もかからず僕は猪鹿亭まで戻ってきていた。
出迎えてくれたラナさんに浄化の魔法をかけて貰い、レッサーラビットを渡すと
「今日はルナちゃん達、お庭で作業してるわよ、後でお茶にしましょうと伝えておいて」と愉しそうに伝えられた。
今日も二人は猪鹿亭にきていたようだ。ここにもすっかり馴染んだようだし、ラナさんも喜んでいるみたいだ。
僕は嬉しく思ったが、今は急を要するので、「分かりました、言っときます」とだけ返事をして、急いで裏庭に向かった。
裏庭にきた僕に、シルフィーと追いかけっこをしていたキャロが、気が付き「お帰りユーリ!」と元気に駆けてきた。
その声に気がついたルナも錬金の石臼での作業を止め、こちらにやって来た。
僕は二人への挨拶もそこそこに、降ろした小麦袋から妖魔を出してあげた。
二人はさすがに、小麦袋から子供が出てきた事に驚いていたが、シルフィーだけは別で
「まあ驚いた! 妖魔コロボックルよね? ダンジョン精霊を地上で見る事になるとは思わなかったわ。でもかなり状態が悪いみたいじゃない? 瀕死じゃない……!」
シルフィーには、只の子供じゃない事が直ぐに分かったようで、直ぐに妖魔に近寄りそう言ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます