第26話 紡がれる縁
三人から装備を借り受けてからも、彼らと暫く話し込んでいた。三人とも半年ばかり前に探索者を引退し、今は悠々自適の毎日らしい。
ザザさんに言わせれば、「退屈で仕方ねえ! 俺はまだまだやれた!」
すかさずドルフさんが「うるせえ! 棺桶に半分足突っ込みやがって」
「なんだと! 髭もじゃ!」「うるせえ! ハゲッ!」
今日、三回目となるやり取りを繰り返していた。
実際、彼等の引退理由は家族達が年老いてきた彼等を心配して引退を勧めたのが理由らしい。
本人達は認めたがらないが、引退を受け入れたところをみると、体力の衰えは自覚していたに違いない。
ゼダさん曰く「俺達三人は家族を持ったから、家族の元に帰れるようにウサギ狩りになった。だがそのお陰で皆や家族とこうしていられる」
「だがそのかわり、家にいると女房に邪魔にされるがな」
ドルフさんが大笑いしながらそういった。
「俺とこなんか今日は猪鹿亭にいかないのか、朝から確認してきやがるぜ!」
威勢はいいが、どこか寂しげだった。
帰り際、まだ、お互いの名乗りもしていない事に気が付き、三人の名乗りの後、「コルネ村出身のユーリです!」と元気に挨拶した。
「ああ、それじゃあな! 坊主!」「はやく寝ろよ! 坊主」「また会おう、お休み、坊主」
「名前覚える気ないよね? ……絶対わざとだよね? ……いつか名前呼びますか?」
僕は脱力しながら三人を見送ったのだった。
◻ ◼ ◻
僕は今、二階の自分が借りている部屋に戻り、寝台に横になっていた。
今日は本当に色々あった一日だった。
朝ギルドで自分がハーフエルフだった事を知った時は随分驚いたが、その後の初ダンジョンの衝撃と思わぬ苦戦が、全部吹き飛ばしてしまった。
それでも悩み、落ち込んだ出来事はその時は苦しかったが、解決してみれば僕にとって必要な出来事だったと思えた。
勿論、自分一人で解決した訳ではなく、あの三人に出逢わず自分一人で悩んでいれば、仮に結末は同じでも人生は違う経過を辿ったかもしれない。
僕は人との出逢いの不思議を感じていた。
行商人のコナさんとの縁とトネ村での偶然の出逢いがなければ、猪鹿亭を知ることはなかったし、ここを宿にしなければ、あの三人とも出逢わなかった。
じいちゃんが紡いでいた縁が今も僕を助けてくれている。その事が今もじいちゃんが僕を見守ってくれているように、僕には感じられた。
そして、僕は精霊石の小石についても不思議な縁のような物を感じていた。
精霊石の小石から感じられる淡い意思のような物が浮遊精霊が宿った物だとしたら、加護まで与えてくれている、この石と僕にはどのような縁があるのだろう。
この小石は僕がじいちゃんに出会った時から握っていたようだ。
最初は子供が小石を握っているだけだと思っていたらしい、気になって触れてみると強い魔力を小石に感じ、魔石で無ければ精霊石であろうと当たりをつけたらしい。
子供がこんな物を持っていれば碌なことにならないと石を捨てさせようとしたが、まるでその小石が家族でもあるかのように、頑なに手放そうとしなかった。
そのままこの都会に放置するのが心配になったじいちゃんは、僕を連れてコルネ村に戻ったようだ。
実際にはもう少し色々と経緯はあったようだが、そんな細かな事情よりも、もし僕が精霊石を持っていなければ、どうなっていたのだろうという事だった。
ただの偶然なのかもしれない……
でもそこには何か奇縁のような物が存在し、過去だけでなく未来においても何かをもたらすような気がして仕方のない僕だった。
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