第十七章 夜明け
第九十七話 霜降り月
霜の降りる季節になった。
夏の初めに起きた怪異による騒動を文輝が解決──したと思われてから四ヶ月の時が流れた。岐崔の主要な
岐崔・
高く張り巡らせらた城壁や、高楼の配置状況から島の反対側を見下ろすことまでは叶わないが、
数年前にこの門の守衛と世間話をしたと思ったら、首府を取り巻いた騒乱の中心人物になってしまったという経験の記憶はまだ新しい。あれから中城は少しだけだが変化した。
夜明けにはもう少し遠い時間だが、陽黎門の松明はまだ赤々と燃え燻っている。守衛が二人、矛を構えて門の脇に立っていた。彼らは文輝の登庁を知るや軽く会釈して拳と掌を合わせた。文輝もまたその礼を返すことで守衛の役割を労る。時折炭の爆ぜる音が聞こえてくる中、文輝は城下を眺望出来る場所に立って藍色の空をぼう、と見ていた。
「戴
言って守衛の片方が空色の爽やかな料紙を手渡してくる。そこには見慣れた達筆な文字で、待ち人が
「驚いたな、もうそんなことが出来るのか」
人を航空運搬する目的で作られたまじないである
「
「困ったな。そのうち侵略戦争でも起こされたら、俺たちには白旗を揚げるぐらいしか選択権がねえじゃねえか」
「校尉、冗談に聞こえぬのでおやめください……!」
「ま、そんときは俺も一緒に死んでやるからそう悲観的になるなよ」
隣に立った守衛の肩を乱暴に叩くと、鍛えられた体幹は揺らぎもせず衝撃に耐えた。
冗談なものか。冗談で済めば上々だ。先方に敵意がない。その一点によって西白国は安寧が保たれているだけで、向こうが本気で侵略をしようと言うのならこの国の文明では到底立ち向かうことは出来ないだろう。一笑に附されて、赤児を捻るようにあっという間に占拠完了だ。そのぐらい、海の向こうの異国の力は強大だった。多分、それは神龍の力の違いなのだ。繰り返される代替わりで神威を落とした白帝に比べ、まだまだ神としての尊厳を保ち続ける一部の国々は安定した繁栄を築いている。一国としての成り立ちの違いでもあるだろう。何百年も続いた政権は腐敗さえしていなければ、強固な力を持つ。信じる、という行為はその原動力だ。人は信じているものに従うとき、その実力の何倍もの力を発揮する。四ヶ月前、文輝がそうしたように。
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