第十三話 民間のまじない
竹のように見えるこの笛は実は才子の織り上げた料紙で成り立っており、原理は
このまじないであれば一吹きで大人二人程度を軽々と運ぶことが可能な
土石の濁流が石段を滑り落ちてくる。
風切鳥の背に跨った子公が
「黄
「……お前、俺以外には普通に敬意あるのな」
「何を言う。貴様にも敬意を持っているだろう」
でなければ今頃こうして言葉を交わしていまい。言った子公の声音は硬質一辺倒だったが、その分真実味を帯びている。
だから。
「まぁいいか」
文輝には今「赦す」という概念がある。無礼を不敬を無知を許す心があればこそ、文輝の身は少しずつ昇進した。己の誇りなど些末なものだ。そこに拘泥したところで事態が好転するとい確約はない。なれば、文輝は一つのことを学んだ。目の前にあるものを受け入れ、認め、そうして「赦す」。不如意も不手際も未熟な己自身すらも許して、文輝は前へ進むことを選んだ。
明日の空を知るものはどこにもいない。
人は皆、今日だけを生きている。白帝ですら明日の景色など知らないだろう。それをして人の身で未未来を望むなど過ぎたることの最たる例だ。今を生き、昨日を紡ぎ、明日に至る。
「怪異というのは実在するのだな」
白い鷲の背中に跨った子公が沢陽口の上空でそんなことをぽつり呟いた。怪異というのは西方大陸にしか発生しない自然現象である、と子公がかつて語った。四方大陸は天帝――四柱の大神の庇護をそれぞれに受けている。天帝は天龍とも呼ばれ、神の系譜としては至極単純だ。
天帝は代替わりをするごとに神としての力を失う、とこの世界で住まうものは皆知っていた。西方大陸の庇護神・
それに引きかえ、子公が生まれ育った東方大陸の庇護神はまだ一度しか代替わりをしていない。
子公が西白国の民に対して信心が過ぎる、と感じたのは無理もないことだっただろう。沢陽口ほどの城郭ですら家々に護符がある。天災と同様に怪異と遭遇した際の心構えなどが伝わっている、とあればよほどの臆病か、でなければ過ぎた信心であると判ずる他ないのは道理だ。
しかもこの天災級の怪異の発現に驚かない筈などないだろう。
文輝は大鷲の脚にぶら下がりながら、自らの副官が本当に異国の民であったのだということを実感した。
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