埋葬と発掘

 生きている限り、記憶なるものは忘れ去られたり思い出されたりする。

 戦後の焼け野原が再生と混沌の象徴だったのはいまさらいうまでもないだろう。当時の孤児院が、全部ではないにしろ『児童の人権』なるものを意図的に無視しがちだったことも。

 主人公は、そんな施設のさなかにおいて『蜘蛛の糸』にかかわり得る唯一の存在であった。もっとも、それと読者が意識できるのはある程度筋が進んでからだが。

 主人公は、立場からしても信条からしてもある種の『マレビト』のようなものかもしれない。少なくとも、ただの悪ガキから良くも悪くも世間にでていかざるをえなくなる歳にさしかかりつつあった彼の仲間達からすればある種の異端ではあったろう。

 その彼が語り部になるのはけだし必然であり、まさに酸いも甘いも噛み分けてきた自分達の生活史を読者にもたらしてくれる。

 本作は、純粋さや自尊心……そして賢さと愚かさが同居した児童達の一大冒険記である。と同時に、各自が抱える深刻な不条理や貧困がまさに闇市のごとく陰鬱な魅力をたたえて迫ってくる。

 奪い奪われる冷酷な境遇を、黄金の骸骨はじっと眺めていることだろう。たぶん、これからもずっと。

 必読本作。

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