第42話 戦闘終了

 一方、洋上で敵部隊を迎撃した第二艦隊は苦戦を強いられていた。


「部隊損耗率、40%突破! 敵部隊、艦隊へ到達します!」


「バカな、この戦力差で…ありえん!」


 だがいくら言葉で否定しても、艦載レーダーで得た情報を映し出す大型ディスプレイは深刻な状況であることを伝えてくる。


「オリオン1よりフォルトゥナCIC、だめだ…こちらでは対処し切れない。敵は…敵は『女神』を連れている!」


 第二艦隊の旗艦、空母フォルトゥナの艦載部隊であるオリオン隊は海軍航空隊の中でも精鋭のはずだ。それが手も足も出ない。噂には聞いていた…だがこれほどとは。


「敵機、艦隊上空に到達!」


CIWS近接兵器システム起動! 護衛艦群、敵機を撃ち落とせ!」


 遠距離の多数目標を同時捕捉出来る超高性能レーダーと最新の火器管制システムを組み合わせたイージスシステムを搭載した護衛艦が、艦の前後部それぞれのVLS垂直発射装置から接近する敵機に向けて艦対空ミサイルを次々と発射する。その様子はレーダーでも表示されるが、敵はそれを嘲笑うかの如くひらりひらりと回避してみせ、速度を落とすことなくこちらに接近してくる。


「あっはははは! こんな穴だらけの弾幕しか張れないのに、『あらゆる災厄を祓う楯イージス』とは笑えるねぇ。祓ってみなよ、このあたしをさぁ!」


 敵パイロットのものだろうその声には、味方からのものにはない余裕さえ感じられた。艦隊へ直接攻撃に来たということは、攻撃目標が空母であることは明白だ。なのに敵はなかなか艦隊中央にいるこのノルニルやフォルトゥナには接近しようとはせず、周囲に展開する護衛艦群を弄んでいる。


「こちらアグライア! フェーズドアレイ・レーダーに被弾、イージスシステム沈黙!」


「ポスポロスより各艦、こちらもだ…。なんて機動だ。CIWSが捕捉出来ないぞ!」


 二隻の空母を中心に円形に配置した護衛艦群をなぞるように敵機が一周したわずかな時間で、五隻の護衛艦が戦闘不能になった。


「敵機反転、本艦に向かってきます!」


 様々な戦闘情報が映し出されるディスプレイに向かっているオペレーターの一人がそう叫ぶ。


「接近を許すな。マリス・ルカ、撃ちまくれ!」


 戦闘機に搭載する中射程空対空ミサイル「ルカ」を艦載兵装用に開発したものが「マリス・ルカ」と呼ばれている。戦闘機のものよりも高性能である艦載レーダーで敵機を捕捉し、前後に一基ずつ設置されたミサイルランチャーから次々と発射される。だがそのどれもが目標を捕らえることなく夜空に消える。


「敵機直上、反転上昇!」


 レーダー上で艦と敵の輝点がまったく同位置で重なって動かない。


「垂直上昇…だと?」


「! レーダー照射感知、対艦ミサイル…来ます!」


 垂直上昇から失速反転、そこからロックオンしてミサイル発射…そんなアクロバットを、イージスシステムを搭載した護衛艦が周囲を囲むこの海で平然とやってのける。


「迎撃!」


「間に合いません、直撃まであと二秒!」


「化け物め…」


 真上からの対艦ミサイル…昔に比べれば高速化に成功した空母だが、それでもミサイルを回避出来るほどではない。やがて空の覇者から稲妻の如く放たれた槍は航空甲板に垂直に突き刺さり、激しい揺れに世界が暗転した。




 全体の七割がた撃墜したところで敵部隊は撤退を開始した。足の遅い攻撃機は格好の獲物となり、次々と撃墜されていく。だが殲滅が今回の目標ではないため、近接レーダーで捕捉出来ないくらい離れた敵機に関しては追わずに逃がす。せいぜい生き延びてオレたちの名を広めてくれればいい。それにしても…。


「バンシー1より小隊各機、集合しつつ被害報告ダメージリポート


「バンシー3、おかげさまでかすり傷ひとつありませんよ」


「バンシー2よりバンシー1、各部正常。被弾箇所は確認出来ず」


「こちらバンシー4、無傷だよ」


 本当に被弾なしとは、さすがは各戦線からエース級を引き抜いただけのことはあるってことか。離れて戦っていたB分隊のバンシー2とバンシー4が左舷方向から近づいてきて、ピタリと綺麗な楔形陣形を組む。


「そりゃそうよ、私たちが後ろについていてあげたんだから」


 頭上をかすめるようにヴァーチャーⅡがゆっくりと追い抜いていく。その尾翼には戦闘中も周囲を見回せば必ず視界に入った雛菊のエンブレム。デイジー隊も全機無事らしい、さすがだ。


「確かに何度も助けられた。適確な援護、感謝する」


「バンシー3よりデイジー1、こちらも助かりました。感謝します」


「いいって、私たちもこれが主任務だしね。しかしさすが新型、そして調整が不十分な機体でも生き残るあなたたちもさすがね。これならあなたたちの名前が浸透するのも早そうだわ」


 互いの健闘を称え合っていると、メルシュ隊のヴァーチャーⅡが追撃を諦めて南へ向かい始めた。レーダーを広範囲モードに切り替えても、周囲にこちらへ向かってくる機影は無し。ミッション・コンプリートだ。


「こちらバンシー1、敵残存部隊の撤退を確認。防空任務完了、RTB帰還する


 翼をほぼ垂直に傾かせて旋回、進路を南に変える。他のミカエル三機とデイジー隊のヴァーチャーⅡも同様に旋回して帰路に着いた。

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