第46話 浄化というものは
夏の終わり、俺は商隊の同行者を
あ、まだ留守の間に頼んでおくことがあったな。
シーラコークのピア嬢からの贈り物である色付きの小魚は、俺の住む離れで育てている。
先日、依頼通り、笑えるほど大量に送って来たからね。
本当は屋外に池を作りたいところだけど、まだそこまで準備が出来ていなかった。
ややこしいんだよ、申請とかいっぱいあってさ。
離れは、王宮の中みたいに大きな部屋はあんまり無いけど、小部屋ならたくさんある。
その余ってる部屋を活用してるわけ。
シーラコークからは小魚専用の飾り瓶、餌などの付属品もおまけに付いてきた。
『我が国ではこの魚を育てるために長い年月を……』
そして長文の説明書と共に飼育員まで来やがった。
ピア嬢からの紹介状を渡される。
小魚と共にやってきたのは一組の夫婦だった。
王宮のヴェズリア様には問題は無いと言われ、受け入れが決まる。
絶対何か根回し来てるな、これは。
二人には俺たちが不在の間、この離れに住んでもらい、毎日小魚の世話をしてもらうことになった。
奥さんのヒセリアさんが小魚の専門家らしい。
「父はこの魚と一緒に他国から来た民族です」
小魚はシーラコークの湾内で養殖されている高級魚の餌として他国から大量に輸入されている。
その中から色付きを拾い出して飼い始めたのが彼女だった。
今では色付き小魚の飼育員として名前が売れているそうだ。
彼女自身はシーラコーク生まれだという。
赤みの強い金髪に白い肌、小柄で、ソバカスが浮き出た顔が幼い印象を受ける。
夫は、ピア嬢の従者だったパルレイクさん。
「ピアーリナ様からくれぐれも殿下によろしくと
「あ、はあ」
小太りでメガネ、明るい茶髪茶眼で優しそうな感じがするんだけど、こう夫婦で並ばれると、前世のヲタクのロリコンが幼女連れてる図にしか見えない。
あまりにも残念過ぎる。
「私は通訳として外相家に雇われておりまして、ピアーリナ様には特に目をかけていただいておりました」
優秀そうな人だけど、それが何でこんな小さな国に来たのかな。
「私は子供の頃から色々な国を旅することが夢で、異国の言葉を学び始めたのです」
シーラコーク国は本当に沢山の国から人が集まって来る。
彼は子供の頃からそんな環境にいたのだ。
「先日、ブガタリアに滞在させて頂き、とても興味深かったと話したところ、妻も行ってみたいと」
いや、だからって、旅行じゃなくて長期滞在なんだからもっと慎重になれや。
そして、目の前でイチャつくな!。
色付き小魚は前世で見たことのある、金魚すくいで取れる、あの小さい赤いやつといった感じ。
金魚すくい、やってみたかったなあ。
家じゃ飼えないからって一回もやったことなかった。
小さくって可愛いよな。
「金魚というより
俺が小魚を見ながら、そうつぶやくと、
「え、それブガタリアでの名前ですか?」
と、ヒセリアさんが食いついて来た。
「えーっと、シーラコークではなんて呼ばれてるんですか?」
「餌魚です」
そのまんまやん。
でも前世でもエサ金とか呼ばれてたような。
あんまり変わらないね、こんなに可愛いのに。
「じゃあ、俺が名前付けちゃっていいかな。
小さくて赤いから
「おお、良いですねえ。 とっても可愛い名前です」
というわけで、ブガタリアでの名前が決まった。
こっちじゃシーラコークみたいに餌に使うわけじゃないからね。
「いえ、餌になりますよ」
「え?」
ヒセリアさんの言葉に俺は首を傾げた。
「基本的に餌はこの小魚を干して砕いたものになります」
ガーン、そうだったのか。
「この魚って小さいけど攻撃的なんですよ。
身体の大きさが違うものを一緒に入れると、必ず大きいのが小さいのをイジメたり、共食いしたりするんで注意が必要なんです」
うわあ、飼育員さん来てくれて良かったわー。
大量にもらった小赤の中には、生まれつき色が違うものや、ヒレの形が変わったものがいる。
俺はそれらを別容器に移して育ててもらえるように頼んでおいた。
「えへへ、私もそういう子たちが好きなんです。
シーラコークでは捨てられちゃうから、かわいそうで」
高級魚用なので、病気持ちかもしれないと餌にもされず、ゴミとして捨てられるそうだ。
それには俺も胸が痛くなった。
ただ産まれて来ただけなのに、捨てられてしまう。
「あの、餌を見せてもらえますか?」
「はい、こちらですよ」
俺は細かい粉になった小魚の餌に魔力を注いでみた。
「ふえっ」
シーラコークでは個人で魔力を使うことがほとんどない。
ヒセリアさんが目を丸くしている。
「ブガタリアはシーラコークより自然が厳しいですからね。
少しでも丈夫に、元気に育って欲しいと思って」
実験したいなら、魔力有りと無しで育ててみてもいいと思う。
そう言ったら目がキラキラしていたから、きっとやるんだろうな。
小赤は小さ過ぎてゴゴゴたちの餌にはならないので、食いしん坊ゼフも魚好きのグロンも見向きもしない。
ちょっとツンツンはヤバかったけど、俺が食べ物じゃないと言い聞かせたので大丈夫。
俺はそのうちの何匹かを水筒くらいの大きさの飾り瓶に入れて行商に持って行く予定である。
まだ商品にはならないだろうけど、まあ見本というか、手土産代わりだ。
「小瓶一つに付き、これを一つ入れておけば一年は持ちます」
俺はヒセリアさんから、小さな魔石が入った袋を渡される。
シーラコークは魔道具が発達した国だ。
小瓶はブクブク泡の出る魔石一つが付属品として付いて来る。
「今回は瓶に入れたまま長距離移動ということなのでご用意しました。
しかし、コリルバート殿下は何故、この魔道具が必要だとご存知だったんですか?」
秘密だったのか、ヒセリアさんに睨まれた。
前世の記憶から予想した、とは言えないよな。
「シーラコークは魔道具で有名だし、小魚を長く飼うには容器内の清掃は欠かせないだろうと思って」
事実、この軽石みたいに穴がポコポコ空いてる魔石が魔道具として小瓶の中で働く。
小魚に必要な空気を作って循環させ、余分なゴミを吸収して消してくれる。
放っておいても一年持つという優れ物だ。
俺はその魔石を一つ取り出して眺める。
何魔法だろう?、という疑問が浮かんだもんで。
「強制的、かつ、緩やかな浄化ですか。 回復?、清掃?」
俺が首を捻っていると、後ろから声がした。
「光魔法ですね、生命維持の」
ほへっ、そんな魔法があったのか。
あー、なんかあの分厚い魔術書で見た気がする。
「ありがとうございます、デッタロ先生」
長身で色黒の中年男性の登場でヒセリアさんが驚いてる。
「あ、え、まあその、そんな立派なものではなくて、ごく弱いものですが。
はい、光魔法です」
へえ、光魔法は初めてだ。
「光魔法は浄化や清掃など、人や家畜に害を与えるものを排除する力があります」
思わず、魔法の授業が始まってしまった。
一通り話が終わったところで、先生を二人に紹介する。
「城下の学校で教師をされているデッタロさんです」
パルレイクさんは前回来た時に会っているので、軽く挨拶して奥さんを紹介していた。
「実はお願いがあるんですが」
俺がデッタロ先生を二人に会わせたのは理由がある。
「学校の子供たちに授業をしてもらえませんか」
「私たちが、ですか?」
俺は頷く。
「例えば、小魚の育て方でもいいし、他国の言語でも構いません。
この国の子供たちに広い視野を与えてあげて欲しいんです」
俺は、このパルレイクさんは
たぶん、こっちの情報をシーラコークに流す役目の人じゃないかな。
というわけで、そんな暇がないよう忙しくさせてもらうね。
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