第7話 演奏
「えっと・・・・・・? ピアノ?」
「はい。ピアノです。ほら、どうぞ」
笑顔のままピアノを弾けといってくる宇賀神。俺、何か変なこと言ったっけ? 気に入らないことでも口走っちゃったかな?
唖然としているとかわいらしく「んっ」とピアノを指差す宇賀神。隣を見ると月見里も顎でピアノを指した。
「えっと?」
「早くしてくださいよ。先輩」
「試験みたいなものよ。部活に入るための」
「俺、一言も入るって言っていないんだけど」
「知らないわ!」
「知れよ!」
突き飛ばされるようにピアノへ押しやられた俺は宇賀神にもう一度目を向けるも首を傾げられただけで終わった。かわいいから仕方がない。逆らえないのは仕方がない。
「あ、スタインウェイだ。しかもB-211だし。・・・・・・なんで?」
「いいじゃないですか、高級なんだから。ほら、弾いてくださいよ!」
「どっからこの部活金でてんの? え? ちょっと怖いんだけど」
いいからいいからと完全に強引な言葉でピアノの椅子に座らされる。目の前には金色でかかれたSTEINWAYの文字。久々の高級ピアノで心が躍ってしまう自分が悔しい!
たまらず鍵盤に触れてみる。ひっかかりのある優しい手触りと指と合わせるような質感。クソッ、電子ピアノに慣れた指が浄化されていく!
とりあえず「ド」の音の鍵盤に指を落とした。澄んだ音が高い天井に昇っていき部屋に広がっていく。懐かしい、どこかホッとする感覚。
視線を感じたので目を向けるとニヤニヤしている宇賀神と目が合った。すぐに彼女はフイッと目を逸らす。ちょっとむかつくな、これ。
「おい。にやにやすんな宇賀神」
「ニヤニヤしていたって先輩、それ女子にはひどくないですか!? せめて微笑んでるとか、かわいいって言ってくださいよ!」
「急にフレンドリーだな。ニヤニヤしていたからそう言っただけだ。それに・・・・・・気持ち悪かったし」
「最後ちっちゃく言っていたこと聞こえてますからね!?」
「で? リクエストは? 早く言えよ」
「聞かれてませんけど!?」
いちいちうるせぇ奴だな。どこかの
う~んとうなりだす宇賀神。それを見て月見里が助け舟を出した。
「バラ3でいいじゃない。弾けるでしょアンタ」
「月見里、お前音楽知っていたのか?」
「じゃあなんで私はここにいるのよ」
「単なる自己満足かって」
「ボタン押したらそのままクラスライン行きよ?」
「・・・・・・」
え~、違うの? だって承認欲求を満たすためにインスタとかツイッターとかティックトックとかしてるんでしょ? 運動できてちょっと下手な私、かわいい! とか思ってバド部やテニス部に入るって雑誌に書いてあったの見たぞ?
じっと見ていると気に食わなかったのかギヌロとスゴイ眼圧で睨んできた。こいつ本当に教室でキャッキャしている月見里かよ。
「いいですね! バラ3! 大好きですよ、出だしの部分から全部!」
「ま、まぁ弾けなくはないけどよ、別に」
「じゃあ決定ね」
両手を指揮棒のように振りながらタータタタタタッタター、と出だしを口ずさむ宇賀神。月見里は楽譜を持ってきた。それを「んっ」と無愛想に突き出してくる。
「てっきり投げてよこすのかと」
「ショパンにそんなことしないわ」
適当に礼をいい10ページはあろう楽譜を流す。いわゆるおたまじゃくしが譜面いっぱいに並んでいて美しいと感じた。どうやら譜めくりは無しらしい。月見里はそのまま宇賀神のほうへ戻っていく。そしておもむろにスマホを固定し始めた。
「え、何やってるの?」
「録画。別に拡散するつもりないしいいでしょ? それとも宣伝のために流して欲しい?」
「俺オーケーしてないんだけどなー」
俺の呟きをスルーしないで欲しいんだけどな~。宇賀神鼻歌でテンションマックスだし。
もうどうでもいいや。俺はもう知らん。
手を一旦開きそして軽く二、三回グッパする。手首を回し胸の前で指を開きながら合掌。そしてもう一回グッパ。グッパグッパナッパ。よし、大丈夫。
手をゆったり鍵盤の上に置くと宇賀神の鼻歌は止み、かわりに録画のポロンという音が響く。
落ち着くように息を鼻から吸い俺は鍵盤を押した。
『ショパン/バラード 第3番 Op.47 CT4 変イ長調』
出だしのミ♭が響き渡った。
★☆★
読んでいただきありがとうございます!
ショパンのバラードのなかで一番簡単だといわれている曲です。
いや、本当にむずいからね!作者も一応弾けます(ドヤッ)
本当にいい曲なので聴いてほしいですねぜひ!七分くらいなので作業中にでも。
次話で解説もちょっといれるので待っていてください。
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