第5話 面倒事

「おはよう!」

「………」

「………おはよう!」

「………」


 さて問題です。

 目立ちたくないときにクラスの中心人物の女子(かわいい)が話しかけてきました。どう対処すべきでしょう。

 ちなみに自分は昨晩妹をなだめるのに労力を使い、疲れています。あの後本気の抵抗をしてきた妹はホラーでした。


 はい、答え。無視。または首肯のみを返す。

 こいつに挨拶を返す義理はない。よって俺は無視を貫くのだ! 


「………」


 俺が無視してスマホをいじっているとその女子、月見里は微笑みながらこめかみをひきつらせた。怖い。女子怖い。


「なぁ、なんで月見里さんあの陰キャに話しかけてんだ?」

「バカ! 察してやれよ。陰キャ過ぎて可哀想だからに決まってんだろ」

「そうか! ああ、今日も天使様! フォーリン、マイ、エンジェル!」


 ちげえよ。てか最後のそれ堕天使じゃねぇか。この状況にはあっているといえるのが恐ろしいのだが。それに好きで陰キャやってんじゃねぇよ。

 これ以上注目を浴びても厄介なので挨拶だけ返すことにする。


「おはよう」

「やっと返してくれた~」


 早くどっか行けよ。語尾延ばしまくるやつ来たら面倒だろ。

 しかし人生望まないことが起こるのは当たり前。はい、来ましたね。注目を浴びたい人は来るんだよね。うん、知ってた。

 フラグを立ててしまった事に後悔しながらどうあしらおうと思っていた時、月見里は俺の席から離れていった。そのままリア充グループのほうへ行ってしまう。来かかっていた語尾のび男(俺命名)はその尻を追いかけていった。フツーにストーカーだろ。

 どういうことだ?

 俺は思い出そうとしなかった昨日のことを思い出していた。


 ♪♪♪


「あんた、音楽部に入りなさい」

「はぁ?」


 教室とは全くもって異なる口調でそう言われた。月見里の顔は夕日のおかげか紅潮していて心なしか俺に向かって指している人差し指は震えている。


 ・・・・・・はぁ?


 YouTuberのことがバレた。そこまではオーケー。で? 何故にそこで部活の話が出て来るんだ?

 うちの学校は偏差値もそこそこ高く県内で1、2を争う進学校だ。そして文武両道を掲げているので部活は必須。

 ただ一人暮らしをしていて金が無い人に限ってそれは免除されバイトしてもいいことになっているのだ。俺もそこに含まれているので部活には入っていない。その時間を使って「駅ピアノ」でバイトもとい撮影をしているのだ。

 だが月見里はなんと? 部活に入れ? 冗談じゃない。時間がなくなるだろうが。俺の生活費がかかってんだぞ! そこまで重要じゃないのは確かだが!


「え、断る」


 俺が断ると月見里は不敵の笑みを浮かべた。うざ。顔がむかつく。けどそれもなぜか様になっていてかわいい。


「あなたは断れないわよ」

「人権ないの? 俺」

「これ、流されていいのかしら?」


 そう言って掲げてきたのは俺の動画(再生中)。・・・・・・うん、やっぱりここの音ミスってるな。恥ずかしい。

 だが流されていいのかしら。っていわれてもなぁ。


「別にいいんだよなぁ」

「そうよね、よくないわよ・・・・・・っていいの? 本当に?」

「ああ。再生回数伸びるの俺にとっても悪い話じゃない。それに俺がその中身だってクラスの連中に言っても信じる奴は少ないしな」


 そう。俺に害は無い。むしろ広告収入が入ってきて最高だ。


「顔写真付きでネットの海を――」

「犯罪だから、それ。事務所に伝えたら俺の勝訴間違いないな。うん」

「・・・・・・ッ」


 悔しそうに唇をかむ月見里。くそ。そんな目で見ないでくれよ! かわいいじゃねぇか。心が、心が揺らいでしまう!

 だがここはかっこよく行かなければならない。それが男気ってもんだ。

 キリッとした顔をつくりカバンを背にかけ月見里の横を通り過ぎていく。彼女は何も言わなかった。俺は屋上の扉に手をかける。


「まぁ、なんだ。部活関連で危機に陥っているんだったらクラスのリア充連中に名前貸してもらえ。俺はゴメンだ」


 ♪♪♪


 ってなわけで・・・・・・。やっぱ原因これなんだろうな。いやだなぁ。

 俺は窓際で楽しそうに話をしている月見里を横目で見ながらため息をつく。その時編集していたため手に持っていたスマホが振動した。ラインがきた証拠。

 とりあえず開いてみるとそれは月見里からのものだった。 

 え・・・・・・。いつ操作したの? え、後ろ手で? そんな事可能なの? リア充何者なの?


 そこには―――


『語尾のび男に画像送られたくなかったら音楽室来なさい』

「……」


 語尾のび男ってあだ名意外と広まっていることに驚きながらも、


 俺は音楽室に行くことを決意した。


 

 ★★★

 なかがき―――


 やっとここから物語が動き出すー。ここまでがまんしてついてきてくれた読者の皆様。誠に感謝!  

 今までは作中のキャラ説明みたいな感じになっていましたがここからやっと本番って感じです。進んでいきます、というより進ませます。はい。

 あとここからピアノを弾く場面が多くなっていきます。ので分からない単語等ございましたらお気軽にコメントください。あとクラシックをはじめ、音楽に興味を持ってくださったら嬉しいです。

 これからも応援よろしくお願いします。

 ―――よんでくださることを祈りつつ。

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