第6話

「ごめん、僕にはやっぱり分かんないよ」

 ぽつりと呟いた言葉にレティはほんの少し顔をしかめる。

「どうしても君たちが人殺しをしているようにしか感じられないんだ。どれだけそれで救われる人がいようとも」

 沈黙。僕も彼女も、ただただ黙っていた。

「……私、思っていたのです。もしも草太さんが一緒にお仕事をしてくれたら楽しいだろうなって。お兄ちゃんはあんまり乗り気じゃなかったんですけど」

 君の兄貴は確実に君に男を近づけさせるのが嫌だから乗り気じゃないんだと思うよ、とは言えず。

「ノン・メイアも仕事が出来るの?」

「はい。お客様に対していろいろ説明したり、私たちがお仕事をするための計画を考えるのを手伝ってくれたり。事務的なことが多いですけど、死体運びをやってくれる方もいますよ。草太さんと初めて会った時に私がお仕事をする予定だった人は死体運びが専門の方です」

 死体運びが専門というパワーワード。

「そうなんだ……。ごめんね」

「いいえ、気にしないでください。価値観は 人それぞれですし」

 そう言ってくれるが、やはり目に見えて落ち込んでいるレティに胸が痛む。

「あのさ、君たちと仕事をすることは出来ないけど、友達にはなれると思うんだ」

 おずおずと言うと途端に目を輝かせるレティ。心なしか周りに花が飛んでいるように見える。

「本当ですか!?是非ぜひ!是非お願いいたします!」

「え、ああ、そう?あ、ありがとう……」

 前のめりで大興奮なレティに若干引きながら僕はお礼を言う。こんなに喜ばれると二度と会いたくないとか考えていたのが申し訳なくなってくる。

「お兄ちゃんに報告しますね!」

「いや止めて。全力で止めて」

 スクエアで兄と連絡を取ろうとしている彼女を必死で止める。あのシスコンにバレたら何されるか分からない。








 ▽









 ▽











「お気をつけてお帰りくださいね」

「うん、ありがとう」

 随分と話し込んでしまった。家を出てから2時間ぐらいは経っている。ログパスで親に連絡は入れてあるので大丈夫だろうけど。

 ビルの出口で手を振っているレティに僕も手を振り、背を向ける。

 今日僕は多分一生理解出来ない価値観の持ち主と友人になった。だけど、どうにかして彼女を理解したいと思う。

 彼女に近づきたいと思う。






 僕は今日を絶対に忘れられない。










 忘れない。














  氷菓幻惑遠雷少女 【完】

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