18話・前編 卵

 それはもう、主役はレオンだった。質問攻めにあえばそつなく答え、後からまた人が来ればそのたびに皆で口裏を合わせ、ドッキリを仕掛けて大成功。


 盛り上がりの中で分かったけど、白人女性はロシア人で宇宙船のパイロット採用。インド人ぽい人はやっぱりインド人で、ガウリさんに憧れて独学で錬金術を勉強してきたとか。

 後からきたのは二人とも若い男で、黒人の方が錬金術師志望、白人の方が技術者らしい。


 少人数なのは不慮の事故を想定してグループを分けるからで、わたし達は先の方だった。


 時間はあっという間に過ぎて、その時間いっぱいレオンは答えて、応えて。

 やがて、アナウンスが流れてきた。


「おっ、来たらしい。さあ皆、宇宙に行こうぜ!」

 声を弾ませてレオンが言うと、誰もが足取り軽くそれに従った。


 ミコトは、案内する職員さんの仕事を奪って先頭を切るレオンのすぐ後ろ。わたしは最後尾。いや、だって、皆は知らぬが仏でわたしからしたら種の割れた手品よ、これ。そんなにテンション上がんないから。

 

 そんなわたしでも、それが目に映ったときは、痺れた。


 不意に広い空間に出たと思ったら、それはあったのだ。飾り気ないシンプルなシリンダ状の物体は、しかし瞬間、軌道エレベータの『籠』と理解させられる説得力に満ちていた。


「真っ白……」思いがけず日本語を漏らすと、

「綺麗だろ? ここじゃ『卵』って呼ばれたりもする」

 レオンはちゃんと拾ってくれた。


 本来の案内役の人がようやく仕事をさせてもらえて、わたし達は籠に近づいていく。すると、今見えているのが籠の全景じゃないことが知れた。


 床に穴が開いていて、籠はそこに収まっているのだ。わたしはレオンと見比べてて……今見えている部分だけでも、高さは二十メートル近いんじゃないかと思った。


 見上げるとここが外から見た塔だと実感する。高く伸びた先の天井は開閉式で、あんなに細く見えていたケーブルが、力強く、いっそ怖いくらいに存在感を放って籠の中心を貫いているのだ。


「もう煩わしい手続きもない。遠慮せずにのんな」

 レオンの声で目を横にやると、みんなが同じことをしてたらしい。我に返って、順々に籠の開口部から乗り込んでいく。


 わたしはまた最後にした。ここに来てなんだか名残惜しくなってしまったのだ。初めて来たこの場所さえ、懐かしさを感じそう。


 振り返ると、入り口でミコトが待ってくれていた。

「マリ……寂しいの?」

「そっ……!」


 反射的に出かかった言葉は、わたしの意思と違っていて、喉の奥で詰まったけど、

「そうかも、ね」

 一瞬置いたら、融けてすとんと胸に落ちる。


 気がついたらわたしの足は、わたしの頭は、籠に乗ることで意見を一致させていた。

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