帝城制圧作戦
彼こそが維新人民党13人の幹部のなかで選挙が行われ選ばれたリーダー、総統の名を冠する革命者ランカその人である。
ランカはかつては騎士団の団長を務めるほど本部からの信頼が厚く、古い時代から生き残って来た戦士として尊敬を集める騎士だった。
御年50歳。
もう戦士として活躍するのは限界な年齢だ。
そのため、彼はもっぱら参謀として党の精神的な支柱となり、そのキャリアを活かし、維新人民党を勝利へと導こうとしていた。
「さあ行くぞ、同志諸君! 帝の首を落とすのである!」
ランカとそのほかの序列1位を除く幹部6名。
党員のなかでも特別に維新人民党の理念への信仰心の厚い精鋭が200名。
人間に攻められたことも、怪物に攻められたこともない無傷の牙城は、たやすく侵入者たちの侵攻を許してしまっていた。
四ノ丸はたやすく駆け抜けられ、三ノ丸の門は閉じる前に突き破られた。
ゆえに、本丸の一歩手前の二ノ丸が実質的な帝城戦力との衝突場となった。
「皇帝陛下のためにッッ!!!!」
「バンザーイ!!!」
帝城を守護する精鋭騎士たちによって、侵入者たちは蹴散らされていく。
最初こそ奇襲にあったが、正面衝突すれば、エリートで構成された騎士団側が優勢だった。
「ぐはああ!!」
「つ、強いッ、流石に精鋭だ……!」
維新人民党、序列9位、秘剣ソーサーが騎士団騎士に叩き斬られる。
光の屈折を応用した『見えざる剣』を試作奥義とし、それ以外の小手先の技は使わない実直で、堅実な剣士であった。
それほどの実力者を討ったのはだれか。
維新人民党の視線が一箇所へ注がれる。
「ガドリン卿だ!」
「元・剣聖、やはり強いな」
ソーサーを一太刀で斬り捨てたのはガドリンと呼ばれる伝説の騎士のひとりであった。
ガドリンは一歩前へ踏み出すと、その分厚い胸を張り、凄まじい人間圧をはなった。
維新人民党のなかでも練度の低い剣士たちは、みな膝を折り、その場に崩れ落ちる。
「老いて剣聖の名を皇帝陛下へ返上したが、このガドリン、叛逆者に敗れるほど耄碌はしておらなんぞ」
総統ランカは冷汗を流す。
帝城に元・剣聖が仕えていることは知っていた。
だが、さほど問題視していなかった。
あらたなる剣聖たる実力者でそろえた維新人民党幹部ほどの面々が、プレッシャーを感じるほどの戦士がいるとは思っていなかったのだ。
「ジェンス、やれるか」
「お任せを、総統殿。──伝説の騎士殿、この新しき剣聖ジェンスのお相手を願おう」
「新しき剣聖だと。戯言もほどほどにするのだな」
維新人民党、序列4位ジェンスは伝説の剣士へ斬りかかっていった。
ジェンスと党員たちが城の戦力を止めているうちに、総統ランカは20名の党員を連れて、二ノ丸の門を破った。
ついに維新人民党は本丸へたどり着いた。
さあ、ここからは天守を登る時間だ。
電光石火の進撃で城の内部へ侵入した維新人民党は、城内に隠れていた非戦闘員を次から次へと斬り捨てたり、捕虜としてとらえたりしていった。
ランカたちが皇帝陛下の血縁者を広場に集めていると、やがて二ノ丸で戦っていた党員たちと幹部が追い付いてきた。
無事にガドリンを破り、城外の戦力を制圧してきたらしい。
「ジェンス殿は、革命の礎となられました!」
党員のひとりが涙をのみながら総統ランカへ報告する。
「そうか。彼の最後は?」
「立派に戦いぬかれ、最後の瞬間まで朝日の昇る大ゲオニエス帝国の夢を抱き、勇敢にあられました! ぅぐぅ!」
「そうか。同志諸君! 戦い抜いた帝国の英霊・同志ジェンスへ敬礼!」
ランカはビシッと新・帝国式敬礼をする。
「諸君ら、ここにいる皇帝の血をすべて絶やすのだ! 革命が成功しようとも、新しい指導者が現れては意味がない! 維新人民党に心血を捧げた同志ジェンスのためにも、必ずやこの革命は成功させなければならない!」
「ははア!」
と、新しい意気込みを入れる維新人民党たちのもとへ、悲鳴が聞こえてくる。
「いやああ! やめてください!! わたしたちは関係ないんです!」
党員たちが、城に仕えていた使用人たちを見つけたらしく、皇帝の血族の従者をしていたしていたらしき少女の髪を乱暴につかみ、引っ張り出していた。
少女は悪夢を呪う。
いつものように平和な城の中で、敬愛すべき皇族の方々に仕えていただけなのに。
幼い頃から教育を受け、剣術三段を取得して、皇帝陛下への忠誠を示した。
血反吐を吐きながら頑張ってきたから、人類の生存圏で一番安全な場所で寝て、一番いい暮らしをする権利を手に入れられたのに。
こんなのあんまりだ。
こんな訳の分からないイカれた集団に殺されるなんて。
お願いだから誰か助けて!
「貴様らの中にも誉を失った血が混じっているかもしれない! 全員殺す! それが総統閣下の御意志であるぅ!!!」
総統ランカは幹部のひとりに処刑場での作戦行動を任せ、残りを連れて天守へと登っていった。
「どうせ殺すのだ。楽しんでから殺しても構わんだろう」
「よいのでありますか!」
「よい。この娘たちは諸君らの献身への報酬である」
場を任された幹部は、使用人と若い皇族たちを『帝国の病』として、人として扱わず、国家の未来を暗闇に向かわせた呪われた血として、いかようにも辱める許可をだした。
武装した騎士の集団が相手だ。
剣もない彼女たちにできることはない。
ただ悲鳴をあげ、滂沱のごとく涙を流すことしかできない。
と、その時、あたりの空気が変わった。
使用人の少女が、みぐるみを剥がされかけた時のことだった。
どこからともなく、聞こえてくるのだ。
城の外から聞こえてくるのだ。
大地を揺らす足音が。
夜空を震わす合唱が。
「「「「バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!」」」」
「「「「バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!」」」」
「「「「バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!」」」」
「「「「バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!」」」」
「「「「バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!」」」」
「「「「バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!」」」」
「「「「バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!」」」」
「「「「バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!」」」」
「「「「バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!」」」」
「「「「バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!」」」」
「「「「バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!」」」」
「「「「バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!」」」」
「な、な、なんだ……この音は……」
虚無の悪魔の得意とする術。
それは、隙間を埋める秘術。
ぽっかり空いた虚空。
人間がナニカを必死につめこんで、満たされた気になっているものをひっこぬいて、無惨にも穴を削りだす。
そういうのが大得意なのだ。
騎士学校の生徒と党員。
騎士団本部の捕虜と党員。
いまや皆が真・維新人民党副総統となったフィリップの演説に感涙し真実の大総統への忠誠を誓い、敬愛をむけている。
少女たちが凌辱されようとしていた広場へ、2,000名からなる万歳の波が押し入り、そして、人混みが割れて、件の大総統がやってくる。
「貴様、何者だッ! この集団は──」
不可視の刃が維新人民党幹部の首をふっとばす。
「あとは天守か」
「アガサ様、殺してしまってよかったのですか?」
「もう今夜は十分なんだ。それより、さっさと革命を終わらせて、このぞろぞろついてくるやつらから解放されたい」
アガサはカィナベルとぺォスの頭をぽんっと手を置き、足早に上階へむかった。
さっそうと現れ、命を救ってくれた青年の去り背中を、服を抱き寄せる少女たちは、万歳の大合唱のなかで茫然として見つめていた。
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