流派侵略剣聖流普及計画


 

 馬車に揺られてしばらく。


「お前たち、もう着くぞ」


 俺は膝のうえで眠りこけるカーとスーを揺り起こす。


「そう言えば、アガサ様は帝都で何をしようと言うのですか? 国家転覆ですか?」

「剣聖流剣術の普及だ」


 そのために帝国剣術を打倒する。

 目指すべきは、騎士学校のなかでも最も優れた騎士を輩出すると言われている名門・大ゲオニエス帝国剣術修練学校だろうか。


 そこで、手始めに剣聖流の合理でもパフォーマンスしよう。

 のちに、道場を構える。

 

「でも、帝国剣術はゲオニエス皇帝と切っても切れない関係にありますよ? ねえお兄さま」

「帝国剣術の打倒はゲオニエス帝の暗殺も含むのでは? ねえお姉さま」


 言われてみれば、そうなのか?

 俺は剣の常識を変えることが目的なのだが、そのためには帝国すべてを変える必要があるのか?


 だとしたら、ちょっと面倒くさくなってきたな。


 カーとスーとあれやこれや相談して、計画を練り直した。


「生かした剣聖、その芽をここで回収するのですよ。ねえお兄さま」

「それが効果的でしょう。最もリソースをうまく利用できてます。ねえお姉さま」


 カーとスーの提示した効率重視の計画は以下の通りだ。


 ①生かした剣聖を剣聖流の門弟として回収


 これにより、帝国剣術は剣聖という精神的支柱を奪われたことで瓦解する。ただ、打ち倒すより、よほど大きな効果を得られると言う。


「それと帝国外へ剣聖流剣術を浸透させます。まわりの国がみんな剣聖流を使い出せば、勝手に帝国も流されていく算段です、アガサ様」


 ②帝国外で勢力を拡大

 

「国外の剣の達人を取り込めれば、さらに勢いは増すということですね、ねえお姉さま」

「ほかの流派を飲み込むというわけね、ねえお兄さま」


 ③他の流派の師範クラスを引き入れる


「まるで帝国の侵略みたいだ」


 ①生かした剣聖を剣聖流の門弟として回収

 ②帝国外で勢力を拡大

 ③他流派の師範クラスを引き入れる


 これこそ『流派侵略剣聖流普及計画』だ──と、自慢げにカーとスーにプレゼンされた。

 

 悪くないと思う。

 採用しよう。


「ただ、アガサ様は有益な人材ほど殺してはいけないです。敵は殺すより、引き入れるの、おじいさまはそう言っていましたしね、ねえお姉さま」

「その通りね、私たちってちゃんとおじいさまの言うことを理解してて賢くてえらい悪魔だわ、ねえお兄さま」

「善処しよう」


 敵対者には殺すべき人間と、殺すべきではない人間の2種類だけがいる。

 たいていは殺すべき人間なのだが。


「それじゃあ、わしはここで。アガサ君の躍進を期待しておるぞ」

「助かった。この恩は覚えておく。何か必要があれば、俺を頼るといい」


 商会のまえでじいさんと別れた。

 もう外は真っ暗である。

 何か行動を起こすにはちょっと遅い時間帯だ。


 本日は敵情視察だけすることにした。


 ──しばらく後


 大ゲオニエス帝国剣術修練学校がみえてきた。


「ッ! と、止まれぇえ! 貴様、剣鬼アガサだな?!」


 正門前の騎士に呼び止められた。


 なんで分かったのだろう、と不思議に思っていると、指名手配者一覧の掲示に、俺の似顔絵が載っていた。


 かなり目つきが悪くされてるおり、目元の影が濃すぎて寝不足みたいになってる。


「ついに帝都まで来ていたのか……!」

「だったらふどうする」

「ここで成敗する!」

「無謀だと思うが。勝てない戦いは逃げろよ。命を無駄にすることなんて誰ものぞんでない」

「すべては皇帝陛下のためにィィ!」


 ほうっておいたら斬りかかって来そうだ。

 と、その時、俺たちの後ろから大きな馬車がやってきた。

 

「どけどけぇえ! 我々は正義を為すものなりィィィイ!」


 馬車にはビリビリに破かれた帝国旗が付いている。

 なんのパフォーマンスだろうか。


 ひょいっと横にどくと、馬車はそのまま校門を突き破って学校敷地内へ侵入していった。


 俺と門番の騎士は顔を見合わせる。


「え、えっと……」

「あれ、放っておいていいのか。俺より頭やばい連中に見えるが」

「っ、こ、ここで待っていろよ! 敵襲だぁああぁああああああ!!!」


 門番は慌てて敷地内へ入っていった。


 壊れた校門へ続々と赤いハチマキの武装集団が入っていく。

 最初の馬車は門をぶち破るための槌で、本体はこっちらしい。


「むむ? あなた様は……ッ!!」

「ん?」


 赤ハチマキのあまり関わりたくない感じの男に話しかけられた。

 すごくキラキラした眼差しを向けてきている。


「同志アガサ・アルヴェストンではありませんかッ!」

「っ、おお、なんと我らの英雄よ!」

「帝都へ近づきつつあるとは聞いておりましたが、まさかこんなにはやく! 人民党の革命を聞きつけ参上なさったのですね!」

「同志アガサ・アルヴェストンへ敬礼ッ!」


 カーとスーは俺の袖をひっぱり、羨望の見眼差しで見あげてくる。


「流石です、アガサ様、まさかすでに自らの勢力の拡大に成功してなんて!」

「アガサ様はインテリジェンスな戦いにおいても僕たちを上回る存在……悪魔の浅知恵などなくても、アガサ様はとっくに策をめぐらしていたわけですね、流石です、アガサ様」


「同志アガサ! してなぜこちらへの戦場へ赴いたのか説明を求めてもよろしいでしょうか!」


 まずはお前が説明しろ。

 これはどういう状況だ。

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