第13話 姉妹

 時間が経つのは早い。

 それは時間が戻ってくるものでは無いからそう感じるだけなのかも知れない。


 ベッドに突っ伏したまま思考を続ける。

 実際、私は今十五歳だけど、今までの十五年間をもう一度繰り返したらあーっという間に三十歳だ。

 案外いつの間にか死んでるかもな――なんて思う。

 身寄りがないから私が死んでも困る人なんていなそうだけど。

 もしかしたらあきは悲しんでくれるかもしれないな。




 そういや、今日は土曜日。

 これまた時間が経つのは早いもので……。

 ベッドから顔を起こし、携帯を手繰り寄せ時間を確認する。

 現在八時。あと三十分もすればあきが来るはずだ。

 どうしようか。

 私、私服なんて持ってないんだよな。

 多分あきはそういうの結構気にしそうだけど。


 第一何をするんだ? 今日は。

 あきは『その日のお楽しみ』って言って何も教えてくれなかった。

 電話で作戦会議――みたいなのはしたけど、あきが白旗をあげてしまった。

 電話越しでも耳が限界らしい。

 スピーカーにしたら? って言ったら、それはそれで音の圧を感じるから無理って言ってた。


 どういうことだよ。

 まあだから、大したことは話せなかった。

 本当に何をするんだ……。

 とりあえず、朝の準備、しますか。




 朝の準備終了。

 ていっても、顔洗って肌を少しケアしただけなんですけど。

 女子力皆無だ。

 

 洗面所を出る。そのまま階段をのぼり自分の部屋のベッドへと向かう。

 ベッドに飛び込み、先のことを考えてみる。


 着替え――はどうしようか。

 私、パジャマと制服しか持っていないんだけど。

 うーん……、あ。

 あきに選んでもらえばいいか。

 お金は余ってるし。

 私服は持っといた方が何かと便利だろう。

 この際あきに選んでもらおう。

 でも、あきのことだから計画をだいぶ練っていそうだ。

 なんやかんや対応してくれそうではあるけど。




 少し仮眠――というか寝落ちしていたら、携帯から軽快な効果音が響いた。

 あきかな? 


『家に着きました。入っていいですか』


 丁寧だなあ。真面目ちゃんだ。


『ダメ』


 断ってみた。あきはどうするんだろう。

 ベッドから立ち上がり、窓から外を見てみる。

 いたいた、あきだ。

 目が悪くてあんまりよく見えないけど、あたふたしているのが分かる。

 困った時左回りする癖があるのかな。


『ダメ……ですか』


 まあ、冗談はこれまでにして。

 おうちに入れてあげようじゃないか。


『ジョーダン。裏口からおいで』


 窓からこっそり覗く。あきは嬉しそうに歩き始める。

 一人の時もあんなんなのかな。一人の時はクールなイメージだったんだけどな……。

 まるで本当に犬じゃないか……。


 ドアの開く音がした。さて、寝たフリでもしておくか。

 ただ迎えるのも面白くないし。

 思い立ったら即行動。

 再びベッドへ飛び込み、臨戦態勢になる。

 階段を上ってくる音がする。そろそろ来るぞ。

 突然足音は私の部屋の前で止まる。

 んー? どうしたんだ?


『部屋、入っていいですか』


 なるほど、ほんとに真面目ちゃんなんだな。


『今無理』


 もちろん最初は断るけどね。

 ゲームだって『YES』と『NO』があったら最初は『NO』を選びたくなるでしょ?

 

 既読が着くと同時に扉が開く。


「お、お邪魔します」


 少し遠慮がちなあきが入ってくる。


「いらっしゃい。無理って言ったじゃん」

「だってここまで来ちゃったし·····」


 どういうことだよ。まあいいけど。


「おおーー」


 思わず感心してしまった。


「な、何……」


 あきはわかりやすくモジモジしながら、その場で左回りし始める。

 やはり癖か。

 いや、それにしても凄い。

 なんか女子って感じの服装だ。かわいい。

 いつものロングヘアをハーフアップにし、夏って感じの涼し気なノースリーブ。

 生憎私は女子力の欠けらも無いので、服の種類なんて分からないが。

 

「かわいいじゃん」


「かわいくない……かえで髪ボサボサ」


 素直じゃない奴め。可愛いから許す。


「めんどくさくてさ〜。櫛あるから髪梳いてよ」


「報酬は?」


「えー、あ! 私の服選んでよ」


「わかった!」


 あまりにも自分勝手な報酬で苦笑が漏れる。あきが嬉しそうだからいいけど。

 ベッドに腰掛けたまま、あきをおびき寄せる。


「す、座っていい?」


「んー」


「し、失礼します」


 恐る恐ると言った感じであきが隣に座る。

 何を今更そんなに緊張してるんだ、って感じだけどね。

 

「ん!」

 

 あきに櫛を差し出す。

 あきは素直に受け取って、私の髪を梳きはじめてくれた。

 私はあきにもたれかかって、安静にしてるとしよう。


「かえでやりづらいよ……」


「んー。お願いおねーちゃん」


「おおお、お、お姉ちゃんか」


「自分でお姉ちゃんって言ってたでしょ〜」


 なんやかんやあきはお姉ちゃんなのかもしれないなあ。

 やりづらいとは言いつつも手は止まってないし。

 

「かえでってさ」


 髪を梳きながら、あきが私に尋ねる。


「んー?」


「髪長いよね」


 何を今更。

 

「そーね。でもあきも長いじゃん。お揃いだ」


「お揃い……!!」


 あきにもたれかかってるからあきの顔は見えないけど、きっと今その顔は秋の楓のように紅くなってるか、目がキラキラしているんだろうな。

 いや両方かも。

 想像したら笑ってしまった。


「それで?」


「あ、なんで髪長いの? めんどくさいから?」


「御明答。私の事よくわかってるじゃん」


「でも、髪梳いたり、洗ったりするのめんどうじゃないの?」


「うーん。楽しいから別にいいかなあ、めんどくさいけど。今みたいにあきが私の髪梳いたり、洗ったりしてくれたら楽なのに」


「いつか、ね」


 これは本音。

 人に髪を梳かれる……というのはなかなかに気分がいいものだ。

 私はあきにもたれかかってるだけだし、楽でいい。

 あきも嬉しそうだからウィンウィンだ。


「寝てていいよ。終わったら起こすから」


「私のことよくわかってるねえ。お膝を頂戴いたします」


「なっ?!」

 

 あきの膝を枕にする。上を見てみると、やっぱり秋の楓みたいに、紅くなってるあきの顔が良く見える。


「かかかかか、か、かえで!」


 顔を真っ赤にしながら、あきは抗議するように手をあたふたと動かす。

 でも、あきは押しに弱いから押せば行ける気がする。

 なんやかんや満更でもなさそうだし。

 

「終わったら起こすって言ったじゃん。おやすみ、あき」


「お、おやすみ、かえで」


 それじゃ、おやすみなさい。

 いやあ、いいね、こういうの。

 人肌最高……。

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