第5話 加速していく関係は――
家のベットに突っ伏して一人悶える。
今日のわたしはだいぶおかしかった。
いや、割といつもそうかもしれないけど……。
視野が壊滅的に狭かった。一度考え込むとすぐこうなる。
悪い癖だ。直すつもりは無い。多分一生こうだ、わたしは。
でも成果はあった。どうやら沖野さんはわたしが近くで
――断じてストーカーなどではない。
それに彼女はこういったのだ『いいよ、許す』と。
それに『ストーカーまがいのことやめて』とも。
つまりだ。堂々としていればいいわけだ。
堂々と隣で観察してていいよ! って言ったとわたしは解釈する。
総合的にはわたしの勝ちだな。フフフフフ……。
「あきー! 足バタバタしないでうるさい!」
お母さんに怒られた。……ごめんなさい。
あ、そう。勝負といえば。
彼女はわたしと似ているのかもしれない。
いや全然似てないけど。
何言ってんだわたし。
そうじゃなくて、彼女は『めんどくさいことが世界一嫌い』って言った。奇遇にもわたしだってそうだ。
これは勝負にできるのでは……って思ったけど、どっちが如何に怠惰か……ってのを争うのは何か違う気がする。
それにこれ、一方的な勝負だから自己満足でしかないしね。
ただ依然
朝目が覚めて、いつも通り準備をしたあとバス停で待機する。
バスに乗る。彼女はわたしより後に乗ってくるからまだいない。
今日はバスで声をかけようかなって思ってたんだけど、相変わらずわたしと同じ中学だった人がいるから目立ちたくない。
中学にいい思い出はない。だから、できるだけ関わりたくない。というか、わたしの存在を意識させたくない。
前もこんなこと思ったっけ。
結局チャンスは電車だな。
電車を乗り換え、ようやく沖野さんに話しかけるチャンスができた。
相変わらず沖野さんはウトウトしながらその綺麗な茶色の髪を指先で弄っていた。
あまり丁寧に梳いていないのか、所々ボサボサだ。
だけど、それでも彼女には似合っているような、ピッタリな気がする。
いつ見ても惚れ惚れするような美人さんだ。
でも、身長的にとても高校生には見えない。
可愛い、のほうが彼女にはお似合いな気がした。
「おっおはよう、沖野さん」
「ん」
え、そんだけ? ……うそでしょ? ま、まあいいや。小さな進歩……だよな?
出鼻をくじかれた気分。
「んー。そういや、『沖野』じゃなくていいよ。かえで、でいい。同年代から苗字で呼ばれるの好きじゃない」
「わ、わかった。じゃあ、おやすみ。かえでさん」
「さんもいらないんだけど。まぁいいや、おやすみ〜起こしてね」
そう言って彼女は眠ってしまった。名前呼び……ふむ! 素晴らしい進歩だ。
嬉しくて思わず隣のかえでさんを見る。
スヤスヤ言って寝てた。速いな。相変わらず。
そして『起こしてね』とはわたしを信頼してくれたのではないだろうか。
――断じて便利屋……ではない。
ないよね?
『間もなく~……』
車内放送が響く。普段だったらこれのちょっと前に彼女は起きるんだけど、今日は起きない。わたしに起こされると信じているらしい。
というか人に起こされること前提で寝れるんだ。器用だな。
さて起こしてあげるとしようじゃないか。
「かえでさ……」
そういや――と思いだし言い淀んだ。
敬称いらないって言ってたよね、つまり呼び捨てで呼んでってことだよな。じゃあ遠慮なくそうするけど。
ご、ごほんっ。咳払いして気を取り直す。
「かかか、か、かっ、かえで! おっ起きて! そろそろ降りな、きゃ」
「ぷっ、ふふ、ふふふふ。そんな緊張しなくていいのに。はいはい起きたよ。おはようさん」
かえでさ――かえで起きてたんだけど。
小さな口をこれまた小さな手で隠しながらかえでは笑っている。
何をやっても絵になるのが凄い。
「べっ、別にき、緊張なんてしてない……。ほっほら、いこ」
思わず声が上擦ってしまう。
問答無用で彼女の手を引き、座席から立たせる。
「ん~。……ぷっ」
「わらうな!」
ほんとに緊張なんてしてない! 断じて緊張なんてしていない! ちょっと口内炎が痛くて喋りづらかっただけ!
く、くそお……。
予想通り。便利で面白い子に気に入られているらしい。それに紅くなると可愛い。
手懐けることにも成功した。
ちょっとツンツンしてるけど、それは素直じゃないだけだと思う。
これからは気持ちよく、躊躇ない二……何度寝だ? まあ睡眠がとれるわけだ!
あわよくば彼女も睡眠仲間に入れてあげようかなと思う。
伊藤……あれ、下の名前なんだっけ? あき? だっけか。
間違えたらどうしよう。
聞いてみたほうがはやいか。
都合よく彼女は私の隣にいる訳だし。
「君、下の名前なんていうの」
「あ、あき……だけど」
「へー、かわいい名前してるんね、じゃ、これからも私のこと起こしてね、あき」
「べっ別にかわいくはないけど……ってわたしは便利屋じゃない……」
「じゃ一緒に寝る? それでも私はいいけど」
「い、一緒に寝てほしいんだったら、そ、そそ、それでもいいけ――」
「じゃあ、私のこと起こしてね。お願い」
「いや一緒に寝よう! いいことは二人で共有したほうがいいと思う……!」
「ふふ、まあいいけど」
うん、やっぱり素直じゃないだけだと思う。ちょっと試してみた。
でも一緒に寝るって言ってもどういうこっちゃねんって感じだけどね。
そもそも私はかなりの頻度で寝るのだ。それに彼女はついてこれるのだろうか。
それにそれに、そもそもの話、どこで一緒に寝ると言うんだ。まさか狭い机で一緒に寝るわけじゃあるまい……。
そこまで彼女は抜けてないと願いたい。
ま、そうなったらそうなったで何とかなるでしょ。今考えてもめんどくさいだけ。
学校についてからの私に任せまーす。
電車で寝ていたにもかかわらず、今日の私の足取りはずっと真っ直ぐだった。
何故なら彼女が――あきがずっと手を離してくれなかったから。
そんなのも悪くはないかな、なんて思う。
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