第34話海へ行こう!






8月の中旬。


夏もこれからが本番と言わんばかりに太陽は紫外線と熱を撒き散らし、街中のコンクリートの地面を容赦なく熱する。


コンビニアイスの消費量がうなぎのぼりになる今日この頃。



「海に行きましょう!!」


香織が声を張り上げながら渚がキッチンで焼きそばを作っているところに飛び込んできた。



突然の申し出に渚が固まっていると、リビングでくつろぐ達也が香織に声をかける。


「どうしたんだ突然?」


「そ、そうだよ香織、何か悪いものでも食べた?」


いつもの香織のテンションではあり得ないほどのテンションの高さに若干引き気味の渚。



「達也、渚ちゃん気がついてる?」


「「何が?」」



渚と達也が頭に?を浮かべて顔を見合わせると、香織はくわっと目を見開いた。



「私たちは今年、高校生になったの!なのに...今年の夏休みにやったことは何!?」


香織が達也に詰め寄り、机に手のひらをペシッと叩きつけて問いかける。


「.....ゲーム。」


「そう!花の高校生最初の夏休みをゲームだけで終わらせる。そんなこと絶対にやっちゃいけないのよ!!!」


というわけで...と香織がガッツポーズでリビングの全員を見渡していた。







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というわけで




やってきました、海!!



「夏の思い出作りにはやっぱり海よね!」


パレオタイプの白いビキニに身を包み、麦わら帽子を被った香織が海を眺める。


「その意見には賛成だけど...」



香織の言葉に苦笑いしながら渚は自分の身体を見下ろした。


渚の身体には、なぜかぴったりサイズの花柄フレアハイネックビキニが。



「なんで僕は水着を着てるわけ?」


買ってないはずなんだけど、どこから持ってきたの?


ジト目で香織に視線を向けると、爽やかな笑顔で


「私からのプレゼントだよ。」


とサムズアップした。


色々と言いたいことはあるけど、まずは一言。



...なんで僕のスリーサイズ知ってるねん。


知らなきゃぴったりなんて買ってこれないでしょ。



「というか、水着ってこんなに布面積が少ないんだね...」



腕だけでは全身を隠せない。


羞恥で顔がリンゴのように真っ赤になっているのが自分でもわかる。


渚は耐えきれずしゃがみこんでしまう。


「おぉ!渚お姉ちゃんかわいい!!似合ってるじゃん!」


「渚ねえちゃんは素材が素晴らしいからね!なんでも似合いそう!」



そう言って更衣室から出てきたのは水色のワンピースタイプの水着に身を包んだ紗良と、ピンク色のオフショルダーの水着を着た皐月。


周囲の視線がやばい。



「なんだあの集団は...」


「眩しいっ!!目が!!目があぁぁぁぁっ!!!」


「これが私たち女性の完全上位互換か...敵わないな」


「美少女の水着姿...萌え...(バタッ)」


「尊い....(バタッ)」


「おい目を覚ませ!!」


「一緒に遊べないかな...」



確かに香織も紗良も皐月も全員似合っててかわいい。


...だけどなんだか自分も見られている気がして恥ずかしいな...








もういいや、こうなったら精一杯楽しもう。紗良と皐月も受験勉強の気分転換になるだろうし。



「それじゃあ...」


「ちょっと待て。」


香織が海へ駆け出そうとした瞬間、海パンをはき、上にパーカーを着た達也がその腕を掴んだ。


「なに?どうかしたの?」


香織は怪訝な顔を達也に向けると、達也は勢いよく喋り出す。



「どうかしたの?じゃねえよ!!!この状況で俺一人だけ残されたらどうなるかぐらいわかるだろ!!」


「おっぱいの大きいお姉さんにたくさん誘われるだろうね!いやんお兄ちゃんハーレム作れるよ!」


「やめろ皐月!というか今の状態で周りの視線がすでに怖いんだよ!!」


達也が周囲を見渡しながらそういうと、確かに周囲からは殺意のこもった視線を感じた。達也へ向けて。



「あんなにかわいい女の子に囲まれやがって...」


「イケメンだからって調子に乗ってるな。」


「いっそのこと、ヤルか?」


「おう、砂に埋めてやろうぜ。」


「あら、あの子いいじゃない。お姉さんと遊ばないかしら?」


「「「マジでぶっ殺す!!」」」



周囲の男性客の殺気立った視線を浴びて、身震いをする達也の背中を優しくさする渚。


その行動に周囲からの視線はさらに強まり、達也は冷や汗をかいていた。







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「そら!これで一点!(バシッ‼︎‼︎)」


「なんの!皐月!(レシーブッ‼︎)」


「任せてお姉ちゃん!スマッシュだ!(スマッシュ‼︎)」


「甘い!!」



ボールと砂浜の間に腕を滑り込ませ、得点を阻止した渚はそのまま紗良にボールを飛ばす。紗良はそのまま敵陣にボールを叩き込み、渚チームの得点となった。



「「いえい!!」」


「あぁ!また相手チームだぁ...」


「くそう、3回連続で負けたぁ..」



渚と紗良がハイタッチする傍らで香織と皐月が地面に膝をつきうなだれていた。



先ほどから渚たちは2VS2でビーチバレーをやっていた。チーム分けはもちろん、渚&紗良チーム、香織&皐月チームである。

化け物、怪物級の身体能力の渚と運動普通の紗良のチーム。

凄まじい身体能力の皐月とそこそこの香織。

いいチームわけだ。



それが終わると全員で海に入った。


「それ!」


「きゃっ!このぉ、お返しだ!」


「いきゃ!」


海面が膝くらいのところで水を掛け合っている間、渚は達也と一緒に荷物番をしていた。


当初は渚が一人で荷物番をやるつもりだったのだ。


達也が海で遊べていなかったから。


しかし、渚が達也に代わる旨を伝えたところ、断られた。



達也いわく、「俺が遊ぶと殺されそうだから」と言っていた。


どういうことだろう?



「はぁ〜疲れたぁ!!」


「久々にこんなに運動してヘトヘトだよ...」


海水浴組が達也の待つところへ戻ってきた。香織と紗良がそのままレジャーシートの上に倒れ込み、ビーチパラソルの日陰に入る。日光が遮断されることで暑さが軽減し、二人はほうっと息を吐いた。


「のど乾いたねぇ、お茶飲みたいなぁ」


皐月の呟きが耳に入った渚は、自分の上着と財布を持って立ち上がる。


「じゃあ全員分の飲み物買いに行ってくるね」


「お、じゃあ俺も行く。」


「そう?じゃあ一緒に行こうか。」


渚と達也はそう言って歩き始めた。


「渚くん、達也ぁ、ありがとぉーー気をつけてねー。」


後ろから聞こえた香織の声に手をひらひらさせて答えると、二人はそのまま近くのコンビニに向けて歩き始める。




「それにしても、お前が素直にその水着を着るとは思わなかったぞ。」


「だって、香織が僕のために買ってくれたものなんだし。着ないわけにはいかないよ。それに...」


「それに?」


「....僕もこの水着、かわいいと思うし...」


「っ!」


「「「「グハッッッッッッ!!!!」」」」



顔の前に両手を持ってきて人差し指どうしをツンツンする動作に、達也は思わず息が詰まった。思いがけずドキドキする心臓を気合いでおさめる達也。


周囲の海水浴にきた客も揃いも揃って胸に手を当てて崩れ落ちる。



「なんだあの破壊力は....」


「あんなかわいい娘が存在したなんて...」


「私が愛でてあげたいなぁ、そして今日は一緒に遊びたい」


「隣のやつ、もしかして彼氏か?」


「なかなかかっこいい人だけど...」


「あんな娘を独り占めするなんて...許せん」


「「「「「それな」」」」」







「どうしたの達也?顔色悪いよ?熱中症?」


「今日、俺が死んだら100%お前のせいだ」


「なんで!?」



達也の言い分に憤慨する渚だったが、達也は構わずコンビニに向けて歩を進める。


渚はそれに小走りでついていったのだった。














「そういえば、香織はお昼ごはんのことは考えていたのかな?」


「そうだなぁ、海の家で済ませるつもりだったんじゃないか?」


「あの海の家、ビールしか置いてなかったよ?」


「はぁ!?なんだそれ!海の家っていったら焼きそばだとか、カレーだとか、ラーメンとか、フランクフルトとかおくべきだろ!」


「だからわざわざコンビニまで買いに来たんじゃん」


カゴにおにぎりやらパンやらを次々に放り込みながら、渚と達也は話していた。


ここのコンビニは海水浴場に近いこともあり、客のほとんどが水着のまま買い物に来る。


そして、渚たちも同様である。


上にパーカーを着ているとはいえ、水着は水着。


その容姿は人目を引いた。


「ねぇ達也。」


「なんだ?」


「早く買って戻ろう?なんだかすごく見られてるんだけど...」


「....あぁ、そうだな」



手早く会計を済ませよう。


会計をする間、レジの店員も渚にチラチラと視線を送っているが気づいていなかった。


そうして渚と達也はレジ袋を持って海へと戻ったところ、



「お姉さんたち、俺らと遊ばない!?」


「いいものあるよ!スイカとか!」


「大丈夫です!というか離してください!!」



男たちに腕を掴まれ連れていかれそうになる香織たちの姿だった。





「香織ー!どうしたのー?」


渚が声を掛けて駆け寄ると、


「おいおい、邪魔すんな....よ...?」


「この子たちは俺らの....?」



男たちも振り返った。そして渚を視界におさめると



「「「おい、まじかよ。」」」


「あれ?何してんのこんなところで」


渚が男たちに声をかけると、男たちは途端に狼狽し始める。



「い、いや、なんだか暑そうにしてたから飲み物でもどうかな...と思ったんですはい...」


「そ、そうなんです!こんな暑い日はコーラが美味しいですから...」



香織たちがナンパに遭っているのかと思っていた渚は、気遣いのできる男たちに感心していた。


「そうなんだ、ありがとね。」


「うす、じゃあ俺たちはこれで....」



そう言うと男たちはそそくさと去っていった。



「....どうしたのみんな。そんな顔して」


「渚....あの人たち知り合い?」


「うん、ちょっと前にね」



全員が呆けた顔をしているので、渚は詳しく説明を始める。



「前に街中であの男たちに遊びに誘われたことがあってね、遊ぶ交換条件として僕に勝てたら遊んであげるって言ったんだよ。」



渚の説明に達也は何かを察したようだ。納得したような表情をしている。



「だから道場まで連れていって、その場で師匠立ち会いのもと喧嘩をしたんだ。それでボコボコにした。」


「あぁ、なるほどな。」



達也は目元を手で抑え、空を見上げながらそう言った。



「それ以降見てなかったんだけど、今日見たら気遣いができるようになってて!いやぁ改心したようで本当によかった!」



「...そうだな。そういうことにしよう。」


「?」





その後彼女らは海を満喫し、ヘトヘトになって家に帰ったそうな。








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ー『Liberal Online』内のとある遺跡にてー




「これでだいぶ準備は整ったな。」


彼はそうして天井から目の前の祭壇を視線を移した。


そんな彼の脳裏に浮かぶのは、以前見かけたある少女。



「今は半覚醒状態だからな。完全になる前に移さなければ。」


そう言って●●●は祭壇に横たわる亡骸を見る。


復活のため準備するのは残り1つ。



《大天使の羽根》だ。



たまたま見つけた素材が、まさか奴の転生体だったとは。


以前は奴らに邪魔されたのでカケラすらも手に入らなかったが、今ここには奴らはいない。今がチャンスだ。



記憶が戻る前に、再度殺さなければ。




「あいつの肉体を今度こそ手に入れてやる....!!」


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