番外編②-25 – 人間味
「部活の中では俺のことを皆んな『ゆづ』って呼ぶようになったんです。それは顧問の内倉先生も例外ではなく、授業以外では俺のことをそう呼んでました」
牧田は第三地区高等学校で男子バスケ部に入部しており、その顧問を内倉祥一郎が務めていた。DEEDの麻薬オークション数日前に
当初、杉本は横手の一般人、特に学生が巻き込まれているのを見て怒りを表明していたという証言から
しかし、正確には違った。
(もしかしたら、牧田の家庭のことから無理やり利用されていたという考えにも及んだかもしれないわね)
花は牧田の話と状況から推測を立て始める。
内倉は突如目の前に現れた元教え子に対して困惑し、思わず口について出た言葉が『どうして……ゆづ』という言葉だったのだ。牧田のことを『ゆづ』と呼ぶ者は当時男子バスケ部に入部していた部員やマネージャー、そして顧問である内倉祥一郎だけである。
「内倉せんせ……
牧田の言葉を聞いた後に花は1つ質問する。
「どうして……警察に連絡してくれなかったの?」
牧田は少し
「その……学生時代すごくお世話になった面倒見の良い先生で……今回も助けてもらえて……言えなかったんです。それに違う人かもしれないし……。あとは単純に脅迫されていたのも理由です」
花は「なるほど」と呟いた後に瀧への伝え方について考える。
(瀧は明らかに私の動きを気にして本気を出していない。ただ周辺住人の避難完了の知らせがあいつにも送られているはずだからこのビルから出て戦闘を始めるはず)
花はこの1ヶ月の捜査期間中、瀧が
(瀧は明らかになるまで本気を出せない気がする。かと言ってこの事実を知って内倉に情が移るのもまずい)
––––花は瀧との会話を思い返す。
「杉本警部の考えが正しかった場合、あんたちゃんと闘えるの?」
瀧は今回の事件に関するマテリアル・タブレットをスワイプしながら答える。
「たりめーだ。こいつらがやってる事は許されることじゃねーだろ。ただコイツだけ少し異質じゃねーか。気になるんだよ。それだけだ」
#####
「あの言葉、信じるわよ、馬鹿」
花はそう小さく呟くと瀧に向けてメッセージを作成する。
#####
––––ビッ
瀧のポケットの中に入っている警察手帳端末のバイブが鳴る。警察手帳端末(単に警察手帳、警察手帳タブレット、カード等と呼称される)は警察組織に所属しているという身分証明、データの送受信、機密コードの付与などその機能は多岐に渡る。しかし、より高度な操作が必要な場合は花のように
(避難完了か)
瀧はそのバイブの振動パターンで周辺住民の避難が完了したことを悟った。
––––ドオォン!!
瀧はD–2ビル1階の壁を右拳で殴り、大きな穴を開ける。
「おい、場所変えねーか?」
瀧は
「周辺住民の避難が完了したんだ。外の方が広く暴れられる。そうだろ?」
(徳田の方は終わったみたいだな)
瀧は外へ歩きながら〝
––––ビッ
瀧の警察手帳のバイブが再び鳴る。その送信者が花であることを理解した瀧は2回瞬きをする。二度の瞬きによって装着しているスマートコンタクトの
「お前、徳田のこと知ってるな」
「お前は第三地区高等学校に勤務する教師、内倉祥一郎だな?」
それでもなお、反応を示さない
「安心しな。お前が気になっていたであろう牧田佑都くんに関しては徳田が既に保護した」
「4年前の資料といい、今回の件といい俺はお前から他の十二音の連中とは違う、人間味を感じてた。それで徳田の制圧が終わるのを待ってたわけだが……」
ここで初めて
「本気を出さずとも俺を殺れると?」
その言葉を聞いて瀧は「フッ」と笑う。
「お互い様だろ。〝
「如何にも。俺の名は内倉祥一郎だ」
内倉は落ち着いた声で告げ、真っ直ぐに瀧を見据える。
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