第129話 - 退屈しのぎ
「さて、話題を松下さんの方へと移しましょうか」
葉山は今しがた内倉に対して行った残虐な行為を何事も無かったかのように流し、次の話題へと移す。他の面々も元仲間である内倉に対して何の感情も無い様子で葉山の方を注目する。
「奴の居場所が分かったのか?」
「いえ、正確な居場所は分かっていません。ただ手掛かりがあったようです。順を追って説明してもらいましょうか。
「僕は頼まれたように入学以降、
「ほう、視線に気付いていたのか」
「はい、そのようです。ちなみに前に説明しましたが、上野さんを監視対象に入れたのは月島瑞希さんを覚醒させるために利用しようと考えていたからです。瞳教授は僅か7歳で覚醒維持を引き起こしていましたが、彼女は固有の超能力すら発現していませんでしたので」
「月島瞳ほど強力な超能力者ではないということか」
葉山が説明している途中で
「
葉山は笑顔で
「〝
「その辺りの話は大体把握している。その話が松下と何の関係があるんだ」
それまでの話は既に聞かされていることばかりだからか、
「上野さんが自身の超能力の実験と称して一般人を襲っていたのはご存知ですよね? その中でただ1つ、東京第三地区高等学校で発生した3名の遺体への関与を一貫して否認していました」
「だが警察が上野の仕業だって確定していたくらいだ、証拠はあったんだろう?」
「えぇ。首筋に注射の跡がありました」
「それなら嘘じゃあないの? あの超能力を使えるのってあとは月島って子だけでしょ? 時系列的におかしいじゃん」
葉山の返答を聞いて
「そこで先日あった
葉山がチラッと
「〝
葉山は「ありがとうございます」と軽く礼を言った後に話を続ける。
「僕は上野さんが関与していないという3つの遺体に松下が関連しているのではないかと考えています」
部屋の中でしばしの沈黙が流れる。
「それこそ証拠が無いんじゃあないの?」
「それに奴の超能力は他人に超能力を付与するというものとして判断していただろう。なぜ奴が上野菜々美の超能力を使用できる?」
月島夫婦殺害において実行犯として逮捕された男の名は川田洋。彼は愛香の超能力である〝
––––その後、獄中にて川田は謎の死を遂げる。
「皆さん、川田さんがどのようにして亡くなったかご存知ですか?」
「表向きは自殺ということになってはいますが、川田さん、月島ご夫婦と全く同じ死に方をしたんですよ。手足をもがれてそれらを謎の魔法陣の上に並べられていたんです」
「つまりはその川田って人と全く同じ超能力で死んだってことかい?」
「はい。実はこの殺害方法、警察内部、政府関係者でも知っている人は限られているんですよ。白井さんが中心となってこの事実を握り潰したので。『人に超能力を与える』。この神にも等しい行為を利用したいんでしょうね。彼は狙ってますよ、松下さんのことを」
ここで葉山は一呼吸入れて話を続ける。
「これらの事実から僕は、『彼は他人に超能力を付与し、かつ、その与えた超能力を利用できる』と推測しています」
「そうなると上野は事前に松下と接触したということになるわね」
それまで黙っていた
「上野さん、また別件……4年前の件で月島さんたちに自分の日記を見るように告げていたようです。
「アァ。気付イテイタ」
葉山の問いかけに対して
「おそらく日記の中にそれに関する情報があるのでしょう。そして自ら松下隆志の名を挙げることで僕らが彼女に注目するよう仕向けた。ちなみに彼女とは〝
「もしそうだとして上野は警察に協力しようと考えているってこと?」
葉山は少し考えた後に返答する。
「ん〜、僕らのように気紛れなのか、〝
「瑞希さんへの愛なのか」
その答えに「あら」と
「それじゃあ」
「その日記を奪いに行くってことかな?」
「別に放っといても良いんじゃあないですか?」
葉山が即答する。
「僕らも『人々を超能力者にしたい』という目的があります。それで松下さんの足取りを追っていますよね。サイクス遺伝学からのアプローチを考えていますが、それと彼の超能力を組み合わせればさらなる効率性が増しますし」
そして葉山はニッコリと笑って全員に告げる。
「それに月島さんたちと競争するのも楽しいじゃないですか。そんなに急いでる訳でもないので暇潰しになって退屈しなくなりますよ」
それを聞いて
「一方的にこちらが有利でも面白くないからねぇ〜。それにTRACKERSってのも近くできるんだろう? 退屈しのぎにはなりそうだ」
葉山は頷いた後にアハハと上機嫌に笑った。
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––––東京都第3地区
4番駅地下街にて1人の男が人混みの中を静かに歩く。
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