第125話 - 忠告
「瀧さんですか? 柚木が不協の十二音と何らかの繋がりがある可能性が出てきました。これから彼女がいる待合室へと向かいます。玲奈から端末にデータを送っています。確認の上、急いで来てもらえますか?」
「了解だ」
愛香は玲奈に車椅子を押されて移動している間、瀧に連絡を入れて柚木の元へと向かうことを指示した。
「愛香は柚木が十二音の協力者だって思ってるの?」
「いいえ」
愛香は玲奈の問いに対してすぐに答える。
「柚木は物質刺激型超能力者。映像の中で溢れたサイクスは黒。おそらくは
玲奈は頷き、そのまま廊下を通って柚木が待機している部屋へと向かう。愛香と玲奈の纏うサイクスが力強くなる。
––––ザッ
「!!」
愛香と玲奈の目の前に柚木が現れる。その表情からは生気が感じられず、黒いサイクスが身体から溢れている。その背後には事情聴取を行っていた1人の警察官と警護アンドロイド2体が無力化され、持っていた拳銃が奪われている。
「止まりなさい!」
玲奈は愛香を背に柚木に向かって拳銃を構える。柚木は無表情のまま左手に持った拳銃で倒れている警官に銃口を向ける。
––––〝
愛香は〝
#####
「基本的に何らかの超能力によって操作される場合、大きく2種類に分けられる」
捜査一課長・藤村洸哉が愛香と玲奈にそう告げながら
①共生型操作:対象者の体外には操作している者のサイクスが溢れ、体内には対象者のサイクスが流れる。この場合、操作されている者の癖が反映される。
② 寄生型操作:対象者のサイクスが利用される。この場合、対象者の超能力を利用できる可能性が高い。さらに一度に操作する数が多くなる場合が多い。
「これらを判断するためにはどうするか分かるな?」
「〝レンズ〟ですね」
「その通り」
藤村は愛香の返答に頷いて説明を続ける。
「寄生型の場合、お前たちは逃げることを優先しろ。対象のサイクスをリソースとして利用しているにしても、相手を操作し、かつ、その超能力を利用するとなると相当なサイクスと集中を要する。それが可能なほどな使い手ってことだ」
藤村はここで一呼吸入れた後に共生型に関する説明に移る。
「一方で共生型の場合はチャンスがある。攻撃は基本的に打撃や〝
藤村はタブペンを玲奈の正面に向けて投げる。玲奈はそれを右手で弾き、タブペンは地面に落下する。突然のことに少し苛ついたのか、玲奈は藤村を睨む。
「今、俺は予告なしに坂口に攻撃を仕掛けたわけだが……」
藤村は玲奈の視線を無視して言葉を続けながら〝
「予想外の攻撃に対して坂口は反射的に右手で弾いた。お前、右利きだろ?」
「はい」
藤村は再び空間に浮かぶ図を示しながら話す。藤村の背後では、藤村に向かってペンを投げようとしている玲奈を愛香は必死に制している。
「共生ってのはその名の通りだ。操作されている対象者は完全に意識を乗っ取られている訳じゃあない。潜在的には残ってるのさ。だから咄嗟の判断には操作されている者の癖が反映される」
藤村は愛香と玲奈の方を向き直り、2人の様子に気付いた藤村は少し咳払いをしてから言葉を続ける。
「坂口は月島を背にして近接戦を、月島はその間に相手の動きを観察しながらサポート。これが基本的な形だろうな、お前たちの。いつも瀧がいるとは限らねーぞ。少しは闘えるようになんねーとな」
#####
(柚木は右利き)
愛香は面会時の柚木の行動を記憶の中から右利きであることを知っている。愛香は飛ばしたアンドロイドの部品が柚木に直撃する手前で〝
(拳銃を左手に持っていたことから予想はしていたけど、やはり操作している者は左利き……! 体外のサイクスと内部のサイクスのバランスが崩れた)
玲奈はその隙に距離を詰めて左側頭部に向けて回し蹴りを繰り出す。柚木はそれを左手で防御する。
––––ゴッ
愛香は〝
その歪みを玲奈は逃さなかった。
玲奈は左脇腹に蹴りを炸裂させる。
(チッ、硬い)
柚木が反撃を繰り出そうとした直前、2人の背後を風が切る。
「よくやった」
瀧の右拳が柚木の
「上野菜々美ハ……ドコ……ダ……」
そこから〝
「弱点、分かりやす過ぎだぜ」
瀧はそのままそれを破壊した。柚木から黒いサイクスが消滅する。
玲奈は意識が戻って震える柚木に近付いて話しかける。
「柚木さん、私たちはあなたがこれらを自発的に引き起こしたとは考えていません。しかし、念のために異不錠と手錠を装着します。ご理解下さい」
––––ズズズズ……
柚木が頷き、両手を差し出した瞬間、またも
「月島姉、オ前ガ意外ト動ケルコトガ分カッタノハ収穫ダ。私ハ
攻撃を仕掛けようと構えていた瀧に対して〝
「コノ〝
〝
「コレカラ我々トノ接触ハ増エルゾ。オ前ガ松下隆志ヲ追ウノナラバナ」
愛香の顔がより一層険しくなる。
「ソシテオ前ノ妹ノ件モ……」
––––パンッ
乾いた銃声が鳴り響く。
愛香から放たれた無慈悲な銃弾は〝
柚木はそのまま意識を失ってその場に倒れ込んだ。
––––妹のこと、守りたいんだろ?
ライターを開閉させて冷たい金属音を鳴らしながら語りかける藤村の言葉が愛香の頭の中を駆け巡る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます