第55話 - 欠席
「委員長が欠席だなんて良いご身分だねぇ。江藤くん、野本さん。人気者とは言え少々甘やかし過ぎではないかい? 日月党さんは」
超能力者管理委員会を欠席している葉山について白井が嫌味を江藤、そして新たに日月党より派遣された
「すみません、白井さん。しかし、彼が超能力者管理委員会の委員長になったばかりのタイミングで相次いで大きな事件が続いたのをご存知ですよね? 警察や内務省と連携を深めていかなければならないんですよ」
経験が豊富で、ベテランの野本が白井に答える。
(さすがは野本さん。上手いこといなすなぁ)
江藤は野本の冷静な対処に感心する。
#####
––––委員会前日
「なっ! お前明日は委員会欠席するって何でだよ!? ここまでお前の考え通りに動いてるじゃねーか! これから管轄地域の取り合いになるところを有利に進めるんじゃないのか!?」
江藤が少し興奮気味に葉山を問い質す。
「落ち着いて下さいよ、江藤さん、怖いなぁ」
葉山は少しおちょくる様な声のトーンでなだめようと試みる。
「江藤くん、冷静に。葉山くんも先輩に対する態度を改めなさい。それで何か考えでもあるの?」
様子を見ていた野本が2人を制し、葉山に尋ねる。
「さすがは野本さん、冷静ですねぇ〜。早野総理にリクエストした甲斐がありましたよ」
葉山は野本に押さえられながら、なおも睨みつけている江藤の方を見て声を上げて笑いながら続ける。
「いえいえ、僕は江藤さんのこと尊敬してますよ? ただあまりにも予想通りの反応をしてくれるのでおちょくりたくなるんですよぉ」
「この……」
野本が再び止めに入る。
「はいはい、そこまで。で、葉山くん聞かせてくれるかしら?」
江藤は葉山を睨み続け、葉山はその様子を明らかに楽しんでいる。
「おそらく各党は、最近の先天性超能力者出生率の伸びや各地域の面積を考慮して派遣地域を希望してくるでしょう。各地方の管理委員会はお互いに連携していくことで一致しましたが、それがより色濃くなるのは北海道地方と東北地方でしょうね。単純に面積が広いですし、先天性超能力者の出生率が近年では大きく伸びていますから。ある意味で第2の関東超能力者管理委員会となるでしょう。あとは関西……近畿地方ですね。あの地域は長年、率が高い」
「北海道地方と東北地方はそれぞれ枠は2名ずつで計4名。各党1名としてもどこかの党が外れるな。そして近畿地方は2名か」
冷静さを少し取り戻した江藤が、葉山の方を見ずに静かに不貞腐れたように呟く。それを見て葉山はにこやかに頷く。
「あなたはどこの党が外れると読んでいるの?」
野本が葉山に尋ねる。
「日陽党は確実に1名入れ込むでしょう。元々超能力者第一主義としての基盤のある異能共生党も同じく。そうなると非超能力者の権利を訴える国民自由党は黙ってはいませんね。残り1枠ですが、日陽党を抑制する観点から我々も滑り込みたいところですね。しかし、超能力者と非超能力者のバランスを考慮する日光党もこの事態を放ってはおけない。日光党はバランス感覚の優れた党です。ですので彼らを信じて無理はしなくて良いと思います。その代わりに僕たちはもっと重要な地域を押さえに行きます」
野本と江藤が一瞬顔を見合わせる。
「一体どこ?」
葉山がにこやかに答える。
「九州地方です」
「なっ……九州地方って最も先天性超能力者出生率が低い地域だぞ? それに後天性超能力者もそんなに多くないはずだ。なぜ九州地方が重要なんだ?」
少し考える時間を取って、何かに閃いた表情を浮かべた野本がおそるおそる呟く。
「月島姉妹の出身地……」
葉山がニンマリと笑う。
#####
超能力者管理委員会は葉山の予想通り、まずは北海道地方と東北地方の管轄から話し合いが開始された。
(葉山委員長がいないことで彼の言動が直接聞けないのは残念だが、江藤議員も野本議員も基本的に彼の考えに沿って動くはず。注視しなければ……)
日光党の石野は日月党の2人の言動に注目する。その時、石野の脳内で別の可能性が浮上する。
(葉山委員長ならば管轄の話し合いで北海道地方と東北地方、そして近畿地方が最初に話し合いが行われることは予想できたはず!? やろうと思えば予定なんてずらせるはずだ……彼の中でこの地域に興味がない? それともそれを捨ててまで重要な用事なのか? 俺の考え過ぎか?)
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月島宅では非番の玲奈と愛香、翔子がコーヒーを飲みながら談笑をしている。玲奈がふと2階へと続く階段を見て思い出したかのように愛香に尋ねる。
「みずは?」
ここ最近、瑞希の送り迎えをすることが増えて、より関係が近くなった玲奈は瑞希の2人目の姉のような存在になっている。それは瑞希の呼び方の変化に如実に表れている。翔子はそれを大いに歓迎しており、微笑ましく思っている。
「ずーっと友達の女の子たちと話してるわよ。もうすぐ2時間くらい経つんじゃない? 何の話してるか知らないけど」
「まぁ高校生なんてそんなもんでしょ」
愛香と玲奈の会話を聞きながら翔子はキッチンへと向かい、コーヒーの追加を注ぐ。
「!!」
翔子が気配を察知する。
––––〝
第六感とは人間に備わる感覚器官(五感)を超越してものを直感する感覚である。古くからこれは勘、霊感、インスピレーション、虫の知らせといった言葉で表現され、具体的に捉えられることは困難とされていた。
しかし、サイクスを持つ超能力者の出現によってこれは解明されつつあり、〝アウター・サイクス〟の応用として使用される。具体的には使用者の必要な範囲までサイクスを広げてその範囲内で起こった動きを感知し、把握する。
非超能力者であっても第六感が観測されることがあり、それがより正確で回数が多いほど後天的にサイクスが発現する可能性が高くなる研究結果が示されているが、その謎は未だ解明されていない。
若くして要人の護衛を任されてきた翔子は〝
(車が3台こちらに向かってくる!? 全員超能力者? 敵意は感じないけれど)
翔子は事態を玲奈と愛香に伝えて警戒させる。数分後、インターホンが鳴る。カメラに映る姿を見て3人は驚き、顔を見合わせる。
「突然伺ってしまって申し訳ありません。衆議院議員の葉山順也です」
そこには葉山は愛想の良い笑顔を浮かべながら立っていた。
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