第51話 - 夏季休業
7月の末を迎え、各教育機関は夏休みへと突入する。
「今年度は非常に危険な事件がありました。我が校も不幸なことに恐ろしい事件に二度、巻き込まれてしまいました……」
東京第三地区高等学校においても現在、体育館で終業式が行われ、校長が生徒たちに向けて話をしているところである。
「ねぇ、みずちゃん」
生徒たちは男女別に名前順に整列しており、瑞希の後ろにいる豊島萌が小声で話しかける。
「何?」
「夏休みは何するの?」
瑞希は一瞬考え込む。戸田との診察が終了し次第、サイクスの訓練が再開される予定である。しかし、瑞希自身も学校の友人たちとも遊びたいという気持ちもあるのだ。
「今のところは無い……かな?」
その言葉を聞いて萌の目が輝く。
「それじゃさ、皆んなで遊びに行こうよ! 志乃ちゃんたちも誘ってさ」
「もちろん! 後で教室で皆んなで話そ」
「オッケー」
最初に萌から聞かれた段階で少し期待していた瑞希は、嬉しそうに萌に答えながらニッコリと微笑んだ。クラスマッチを通してクラスメイトとの距離感が確実に縮んできていたのだ。
「……それでは皆さん、くれぐれも安全にそして節度を持って夏休みを過ごして下さい」
ちょうど校長の話が終わると、閉会の挨拶がなされる。その後、クラスごとに体育館を退出し始め、各教室へと戻った。
#####
教室に戻り、瑞希、綾子、志乃、萌、長野結衣の5人は一緒に集まって夏休みについて話し合う。そんな中、志乃が全員に向けて提案する。
「うちの家とか泊まってって良いよ」
「お泊まり会良いね! でも迷惑じゃない?」
綾子が少し心配して志乃に尋ねる。綾子はよく周りのことに気を遣うことができて、心優しい性格なのだと瑞希は彼女と接するうちに感じていた。
「うちは構わないよ」
「志乃ちゃんのお家大きいもんね〜」
志乃と幼馴染みの萌が横から口を挟む。
「じゃあ4人だね。それぞれの予定分かったら連絡して」
「了解」
「志乃ちゃん、〝会議室〟作っちゃおうよ」
萌が志乃の方を見て少し意味ありげに笑いながら提案する。
「いやわざわざ作る必要ある?」
「皆んなの顔見れた方が楽しいじゃん! 夏休みだと学校で会えないし」
「〝会議室〟って何のこと?」
瑞希の質問に対して少し間を置いてから志乃が答える。
「私の最近できた超能力のことよ。簡単に言えば、自分の姿を仮想空間に飛ばして会話できて、私を除いて最大で5人が参加可能なの」
「へー! 志乃ちゃん固有の超能力できたんだ! 凄いね!」
「いや、携帯のグループチャットとかVR空間とかあるから意味あるのかな? って」
「でも仮想空間内で想像したもの作って説明したりできるし便利じゃん」
志乃の超能力について話が盛り上がる。
「……じゃあ作ろっか」
「やった!」
志乃が右手の平を出して全員に手渡す。
「皆んなこのイヤホンに自分のサイクスを流し込んだ後に耳に付けて」
萌以外の3人は言われた通りにイヤホンにサイクスを流し込み耳に装着する。
「OK。これで準備完了。じゃあ作るよ」
––––〝
瑞希の視界が二画面になる。1つは現実世界。1つは今しがた志乃が作り出した仮想空間である。
「こっちに集中し過ぎて現実世界で人とぶつかったりしないように注意ね。今は多分視界が二画面になっていると思うけど、どちらかに集中したい時には一画面だけにできるよ。例えば現実世界に視界は集中させたい時は……」
志乃の仮想空間での姿がクマの姿に変わる。
「設定したアバターに変化する。仮想世界に視野を限定した場合、現実世界ではその場から動けなくなるから注意ね」
瑞希は既に自分のアバターを作り出していた。
「瑞希ちゃんもう作ったんだ。それ何かのキャラ? 猫可愛いね」
「あ、これ? 私の超能力のマスコットのピボットだよ」
「へー、勝手に話したりするの?」
「うん。少し変わってるけど」
「でもサイクスが自分の意思を持つのって珍しいって言うよね」
瑞希以外の2人もそれぞれアバターを設定した。
「よし、これでいつでも使えるね。ちなみにイヤホンは失くさないようにしてね」
「オッケー!」
5人は会話を終えて解散しそれぞれ下校した。
#####
戸田の診察を終えて帰宅した瑞希は愛香に声をかける。
「お姉ちゃん、夏休みに皆んなと遊ぶ!」
「あら良いじゃない」
「うん! 志乃ちゃんのお家にお泊まり行くんだけど、いつでも良いよね?」
「構わないわよ」
「オッケー!」
瑞希は返事をすると2階の自分の部屋へと向かい、4人に連絡し始める。
「何だかんだお友達も多そうで良かったわね」
様子を見ていた翔子が愛香に声をかける。
「はい。高校入学して前期は色々なことに巻き込まれたから、特にみずの気持ちの面で少し心配だったけど何とか大丈夫そうかな」
「瑞希ちゃん、とりあえず見送られたんでしょ?」
「うん、とりあえずは。サイクスの応用的な扱い方については引き続き訓練されるみたいだけど。霧島君は本格的に事件捜査に関わっていくみたいです」
「なるほどねぇ」
#####
「お祖父ちゃん」
霧島和人が祖父である霧島浩三の前で正座し声をかける。
「僕、政府が新しく組織するTRACKERSに所属しようと思います。本格的に活動が始まるのは2、3年後のことになると思いますが」
浩三が答える。
「両親には?」
「もちろん、既に伝えてあります。危険な任務が多くなることは承知していますが、幼い頃から学んでいる武道、そして僕の
少し間を置いてから浩三が話を始める。
「お前はまだまだ幼く、15歳。武道にしても精神的な面でも学ぶべきことは多い……」
「はい」
「だが、自分の力を人々のために役立てようという心意気は見事だ。その新組織、慎也もいるんだろう?」
「はい、瀧さんも所属されると思います」
「ならば心配はあるまい。慎也は非常に優秀だ。彼からも学びなさい」
「じゃあ……?」
「自分の行く道を信じて進みなさい」
「ありがとうございます!」
和人は浩三に頭を下げて礼を言った。
霧島和人は高校1年生ながらサイクスの訓練を受けつつ捜査一課と合流し、超能力者が絡む事件の捜査に参加することが許された。
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