第28話 - クラスマッチ開幕

 3122年6月26日


 東京第三地区高等学校は今年度のクラスマッチ初日を迎える。東京第三地区高等学校は全国的に有名な学校で、優秀な生徒が集まる。特に超能力者による競技はレベルが高いゆえに注目度が高く、生徒の保護者を含め地元からのギャラリーも集まる。


「結構、観に来る人いるんだね」


 更衣室で着替えながら大木志乃が隣の瑞希に話かける。


「うん。体育祭ならまだ分かるけど、クラスマッチでこんなに人が来るなんて思ってなかったよ」


 体操着に袖を通しながら瑞希が答える。瑞希は少し乱れた髪をバサバサと頭を振って整えている。


「月島さんのお姉さん今日観に来るの? ロングヘアだけど、月島さんにめっちゃ似てて美人って聞いたよ」

「ううん、お姉ちゃんはお仕事忙しいから来れないと思うよ」

「えー、残念」

「でもお家のお手伝いさんは来てくれるって言ってた」


 後ろで聞いていた豊島萌が会話に加わる。


「お手伝いさん!? 月島さんってとんでもなくお金持ち!?」

「いや、そういうわけじゃないけど……お姉ちゃん、車椅子生活だから」

「そうなんだ。大変なんだねぇ」


 着替え終わった瑞希たちは更衣室を後にし、校庭へと向かい始める。


「バレーボールの参加チーム少なかったねぇ」


 バレーボールに参加する西川にしかわ 美奈みなが呟く。


「確かに。1年生私たちだけだもんね」


 萌が伸びをしながら答えた。

 東京第三地区高等学校のクラスマッチは全学年合同で開催される。1学年5クラス存在する。参加チーム数によって変わるが、基本的には予選が行われて、その上位4チームでトーナメントが開かれて優勝を争う。

 女子超能力者サイキックバレーボールは2年生から2チーム、3年生から1チーム、1年生から1チームの計4チームのみが参加することになっている。そのため、予選は行わずトーナメントが実施されることとなった。瑞希たち1年1組は2年3組と準決勝を行う。


「私たちバレーは14時からだね。女バスの予選1試合目が10時からだから応援しに行くね、頑張って!」


 バレーに参加する田上たのうえ 由紀ゆきが右手を握りながら瑞希たちを激励する。開会式の後、瑞希は体育館へと向かい、先に始められる女バスの予選を観ながら準備運動を始める。

 女子超能力者サイキックバスケットボールは全クラスが参加、5チームずつ3組に分かれて総当たり戦を行い、上位2チームは自動的に突破、3位チームの中から成績を考慮して2チームが決勝トーナメントに進出する。男女混合超能力者サイキックドッジボールは8チームの参加となり、同じく2組に分かれて予選、その後トーナメント戦となる。


 女子超能力者サイキックバスケ第1試合・2年3組と3年1組の試合は2年3組の勝利、次いで1年4組と2年1組の試合は2年1組の勝利となり、第3試合1年1組と1年5組の開始時刻となった。

 バスケットボールは男女ともに前後半5分、ハーフタイム2分で実施される。敵選手に直接影響を与える超能力は禁止され、〝超常現象ポルターガイスト〟によってボールの軌道を変化させることも禁止されている。

 1年1組のメンバーは大木志乃(4番)、西条綾子(5番)、長野結衣(6番)、月島瑞希(7番)、豊島萌(8番)。全員が緊張した面持ちで整列し、互いに礼をした。


 ジャンプボールは168センチとチームで最も身長の高い志乃が務める。


––––ピッ


 審判が笛を鳴らした後、トスアップでボールが宙に舞い、志乃が跳ぶ。志乃は蝶のように舞い、空中で一瞬止まったかのように見えた。そしてそのままボールを自陣に弾く。


 志乃は着地前にボールの行方を横目に確認し、一瞬笑みをこぼす。


 ––––視線の先には既にシュートモーションに入っている瑞希。


 ボールは1バウンドして瑞希の手元へ向かう。体育館にいるギャラリー、敵選手、隣のコートで行われている別試合の選手たちでさえもその視線は瑞希に集められた。

 ボールはワンハンドシュートのフォームにすっぽりと嵌り、瑞希は手の平に込められていたサイクスをスムーズに前腕、肘へと移動させ、あらかじめ足に溜めておいたサイクスも利用して滑らかにジャンプシュートを放つ。放たれたボールは一定のリズムで回転しながら美しくも力強く放物線を描きながらバスケットゴールへと向かって行った。



––––瑞希に注がれていた視線は一斉にボールの軌道を追う。



 1年1組女子バスケットボールチーム以外の時間が止まる。


 ボールはそのままリングに触れることなくネットを通過した。


「スウィッシュだ……」


 観に来ていたギャラリーの1人が呟く。ボールがバウンドを繰り返しコートの外へと転がっていく。


「すげぇ!!!」

「何てシュートだ!!!」


 静まり返っていた体育館が嘘のように歓声に包まれる。


「あのショートカットの子、だれ!?」

「あの子じゃない!? あの、1年生の凄い子!!」


 周りの興奮した会話が止まない。応援に来て2階席に座る阿部翔子もたった今、瑞希が見せたシュート、そしてそのサイクスの〝フロー〟に驚きを隠せずにいる1人だった。〝レンズ〟を発動しながら瑞希のサイクスをより正確に観察する。


(会場の空気を一気に自分に持っていった。しかもp-Phoneを発動させたサイクスの少ない状態で。完璧なサイクスの配分。そして〝アウター・サイクス〟も同時に行いながら無駄な消費も抑えてる。そして何より驚くべきは……)


 既に守備陣形を整えている1年1組の様子を翔子は眺める。


(あの〝フロー〟の速さと滑らかさ。そしてその静けさ。さらに訓練と経験を積めばサイクスの流れを読み取ることは不可能になる)


––––恐ろしい


 翔子は賞賛と同時にその才能に畏怖した。


 対戦相手の1年5組は流れを変えることができずに、そのまま32対8のスコアで1年1組は勝利を収めた。そして瑞希たちは勢いそのまま初日に行われた予選2試合目も2年5組にも勝利し、連勝を飾った。

 瑞希は気分が乗ったまま14時から行われる女子バレー準決勝に向けて〝インナー・サイクスでサイクス〟の回復に努めた。



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