5-3話 文化祭1日目
2組の教室の前で、受付をしている
「お客様、ようこそいらっしゃいました。本日は、皆様を不思議な世界へお連れします。しかし、ここから先は危険な怪異の溢れる世界。どうぞお気をつけて……ふっふっふ」
日菜菊は演劇部直伝の不気味笑いを発し、異世界ゾダールハイムのゲート監視所で
日菜菊は舞台袖に引っ込み、客が前進を始める。そこから先は阿鼻叫喚だった。
「「ぎゃああああああ!!」」
最初の客は、同じ学校の上級生カップルだったのだが、二人揃って大声を上げている。
脅かしではなく生理的恐怖感を演出する、エマの鬼火と照らし出されるクモの妖怪。井戸の中から這い出てくる怪物。伸びた首が動き回るろくろ首。ガラス越しに不気味な動きをするリアルなゾンビ。また、他にも仕掛けられた各種の魔具などがある。
すべて完璧に機能し、上級生のカップルは青い顔をして退出していった。手応えを感じ、日菜菊は教室内のクラスメイトやエマたちとハイタッチをする。
本物の怪異を投入し、さらに他のお化けや仕掛けもそれに負けじとクオリティアップを図った2組のお化け屋敷は評判を呼び、大きな行列を作ることになった。客を
日菜菊の当番が一旦終了する回に訪れた客は、他校の制服を着た女子と、小さい男の子だった。日菜菊のよく知っている二人だったので、始める前に日菜菊はウインクをした。
その二人も大いに叫びながらお化け屋敷を終えることになった。日菜菊は白装束姿のまま教室を出て、その二人に会いに行った。
「姉さん、来てくれたんだ」
「日菜菊……。いや、このお化け屋敷、怖すぎでしょ……」
他校の制服を着たその女子は
「いやー、頑張って作ったもん」
「
芹香に抱きついている小学生の男の子は成戸桔平。日菜菊の歳の離れた弟だ。
「日菜菊お姉ちゃん……怖い……」
「ふふ、男の子は強くないといかんぞ!」
白装束姿の日菜菊を怖がっている様子の桔平の頭を、日菜菊はクシャクシャと撫でた。
「芹香さん、おはよう!」
「あ、莉子ちゃん、お久しぶり!」
莉子も当番が一段落するので、芹香たちに話しかけてきた。
「桔平くんも。お化け屋敷どうだった?」
「ふん……。日菜菊お姉ちゃん以外は怖くなんか無かったやい!」
桔平が意地を張って言った。
(これは照れてるな……)
満更でもない様子で莉子に頭を撫でられている桔平を見て日菜菊はそう思った。
「今後、莉子に惚れたりしないように手を打っとかないといけないな」
ゾダールハイムから戻って来た拓海が合流して言った。
「お、男日菜菊も来たね。どこにいたの?」
「まだその呼び方使うのか、姉さん。俺も重要な役目があってさ」
「ふーん。どんなことやってたの?」
「「そいつは秘密!」」
日菜菊と拓海が人差し指を口の前に立てて声を合わせた。
拓海は桔平ともしばし談笑し、やがて芹香と桔平は去っていった。日菜菊は肉体の疲労回復のため休憩部屋に移動し、文化祭を回るのは拓海と莉子ですることになった。
◇◇
拓海は文化祭のパンフレットを広げ、莉子に声をかけた。
「どこから回ろうか?」
「次の当番までの時間で回らないといけないもんね。どうしよっか」
「3年生の劇にでも行ってみる?」
「うん、それが良いかも」
ホラーや恋愛もの等、色々あったが、拓海たちは冒険活劇を選んで見に行った。
大抵3年生は劇をやっている。最後の文化祭だけあって気合いも入っており、拓海たちはその劇を楽しむのだった。終演後は、他の観客と共に、拓海も莉子も拍手を送った。
喫茶店をやっているクラスに入ってお腹を満たすと、次の当番までの時間も近いため、拓海と莉子は新しく出し物に並ぼうとはせず、時間までをブラブラと歩いた。
やがて、2回目のお化け屋敷の当番となり、莉子は教室に向かい、拓海は異世界ゾダールハイムに移動した。
お化け屋敷は大反響となっており、文化祭1日目の終了時間になっても並んでいる客がいたので、1年2組の出し物は延長戦をこなすことになった。客を捌き切った時には、教室内から歓声が上がった。
◇
文化祭1日目は滞りなく終了となった。
「お疲れ様~」
「じゃあ、また明日な」
「明日も頑張ろ~」
などと言いながら、2組も解散する。前日と違って遅い時間まで残っていたわけではないので、みんな次々と下校していく。
しかし、拓海たち怪異研究会にはまだ仕事が残っている。この日、地球を訪れるクラリスの友人、シャロンを歓迎しなければならない。シャロンは、クラリスと同じく
なお、日菜菊にとっては遠い場所になってしまうので、日菜菊は第2寮の自室に帰っていった。
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