4-3話  天狗からの誘い

 莉子りこぎくの部屋に泊まった翌日。


 拓海たくみたち怪異研究会の面々は、異世界ゾダールハイムのゲート監視所に来ていた。相変わらず浩太とキマロの契約解除が試されてはいるものの、この日も全く上手くいかない。


「ふん、何をやったって無駄じゃ! 外部から契約を解除できるものか」

「はぁ……。私、いつになったらゾダールハイムに帰れるのかしら」

「何言っとる。クラリスとてチキュウでの生活を楽しんでおるじゃろうが」

「そりゃ、楽しくないわけじゃないけどさ」


 クラリスだけでなく、ゾダールハイム側も諦めムードで、拓海たちがゾダールハイム人と交流する時間の方が多くなって来ていた。この日は、魔術をお化け屋敷に応用できないか調べる目的もあった。どうせなら幅広く相談に乗ってもらおうと思い、ゲート監視所の兵士にも事情を説明した。


「面白そうじゃないですか」

 ゲート監視所の兵士が言った。


「学生の頃に怪談の朗読を魔術で演出しながらやるイベントに参加したことがあります。例えば、怪談と同時に不気味に髪の毛を伸ばすとか評判良かったですよ」

 兵士は右手を拓海に向け、呪文を唱えた。兵士の右手が発光する。


 すると、拓海の髪の毛がゾワゾワと伸びだした。魔術が同時に効果を発揮する日菜菊の髪にも同じことが起こった。


「うわ、凄い!」

 莉子が言った。拓海と日菜菊はお互いを見て、髪の毛が異様に伸びているのを確認した。


「それは魔術で作られた偽物の髪なので、魔術を止めてしまえば、ホラこの通り」

 兵士が魔術を止め、右手の発光が消えると、伸びた髪は光に変わって散っていった。


「これ、採用じゃないか!」

「人間のこの応用力じゃよ……。竜神族ならやろうとも思わない魔術じゃの」

 浩太こうたとキマロが言った。


「使うのは簡単な魔術なんですが、髪を自然に見せたり、ホラー演出のために気持ち悪い動きをさせようとなると、より訓練された芸人が必要ですね」

「けど、地球には魔術がないから、今のを見せるだけでも充分だと思いますよ!」

「そうなんですよね! 私もチキュウの皆さんがこの演出でどんな反応をするか見たいぐらいですよ」

 兵士までもノリノリになって来ており、文化祭のお化け屋敷に協力してくれることになった。



    ◇



 拓海たちはその許可を得るために担任の剣持けんもちのところへ向かった。


「また面倒事を……」

「いいじゃない。私は面白いと思うよ」

 このところ色々なことが起きすぎて嘆きのような声を上げた剣持に、柚希ゆずきが言った。


「15年前の私のクラスもお化け屋敷だった。私は参加できなかったわけだけどね。だから、良いものにしたい」

「ホラホラ先生、柚希もこう言ってるんだから」

「ふー。分かった、細かい調整は僕がやる」

 剣持は渋々という表情で了承したが、柚希に思い出を作ってもらいたいという気持ちもあるのだろうと拓海は思った。


「ところで、ちょうど皆揃ってるから伝えるけど」

「何ですか?」

ざきが天狗の札の魔具で活躍しただろ? 作者の天狗が君たちに会いたがっている」

「ああ、それはぜひ私たちも挨拶したいです!」

「そうですね、ここにいる全員、あの魔具に助けられてますし」

「君たちならそう言うと思った。じゃあ、怪異研究会の合宿ということで行こう」

「え、合宿? 遠いんですか?」

「海まで行く」

「「「ええ、海!?」」」

 何人かの声が揃った。それは結局、旅行のようなものだからだ。


「で、でも、私と莉子は旅行したばかりですし……」

「旅費も宿泊費も部費で出せる。知ってるだろ、今年の君たちの活躍で上から予算が沢山出てることを……」

「そ、そうでしたね」


 柚希の救出や異世界騒動、そしてヴァンパイアとの戦い。今年の怪異研究会の活躍によって、怪異を専門とする組織から認められて活動資金が部費として舞い降りて来ていた。


 なお、それだけではなく、各人にも謝礼金が渡されている。受け取らないことも考えたのだが、それはルビーが認めなかった。


(仮に部費が出なくても、あと何度かは旅行できるぐらいなんだよな……)

 拓海はそう思った。だが、部費で出るというなら、それに従うまでだ。



「楽しそうじゃの、ワシも行くぞ!」

「行けるなら私も行きたい!」

「そうなると必然的に俺もだな……」

 その願いに剣持も異論はなく、キマロとクラリスと浩太も参加することになった。


「浩太くん、もう怪異研究会に入ったら?」

 柚希が言った。浩太はすっかり怪異研究会と一緒に行動することになっていたが、入部はしていないのだ。中学の頃と同様に学外での自由な活動もしたいからという理由だったが、実際にはキマロやクラリスとつきっきりだ。


「最近、それもいいかなと思うようになってきた」

 浩太が言った。


(学外での彼女作り、諦めたのかな……?)

 拓海は思った。きっと浩太をもってしても今の状況でそういう活動は難しいのだろう。大体、どこへ行くにもクラリスとキマロがついて来るのだから。


 剣持が急遽の合宿の手配をして連絡をするということになり、この日の怪異研究会の活動は終了となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る