3-8話 襲来
宿のおかみさんと家族連れも走って来た。
「まあ、一体どうしたの!!?」
おかみさんと家族連れの父が男女に駆け寄った。家族連れの母は息子の目を隠した。とっさに莉子も前に出て、娘の目を隠すと共に抱きしめた。
「お、俺は大丈夫です……」
「何を言っているの、そんなに血だらけで!!」
おかみさんが手当をしようとするが、男女の女の方が息を切らしながら言った。
「それより、出入り口を閉めて下さい!! 全部!! 早く!!」
「え?」
「彼は私が見ます! 早く閉めて! 奴らが襲ってくる!!」
それを聞いた莉子は、とっさに呪視の環で男女を見た。男の傷跡には、呪いのような痕跡が残っている。
「おかみさん、言う通りに!」
間違いなく怪異に関わる事件が発生したと判断し、莉子はおかみさんにそう言った。
「出入り口、どこにありますか!?」
状況を察した様子の日菜菊も戸締まりの手伝いを買って出た。
旅館の亭主もキッチンから出てきて、全員で扉を閉めた。その直後、外から悲鳴が響き渡った。
「ぎゃぁぁぁぁあああ!!」
「うわぁぁぁぁああ、来るなぁ!!!」
莉子は2階に駆け上がり、窓枠に乗り上げ、外を見た。
道路で人が襲われている。人が変な集団に押し倒され、噛みつかれていた。集団はうめき声を上げながら奇妙な歩き方をしている。
(こ、これは……!?)
莉子の表情が曇る。日菜菊と家族連れの父も莉子の元にやって来た。
「な、なんだこれ、一体どうなってるんだ!?」
「分かりません!」
「人が人に襲われてる!?」
噛みついている側の怪しい動きをする者の人数はどんどん増えており、一部は向かいの旅館に入っていってしまった。すぐに向かいの旅館の中からも悲鳴が響き渡る。
「助けて!!」
「開けてくれ!!」
女と男の怒鳴り声が、莉子たちのいる旅館の正面玄関から聞こえた。見ると、3人ほどの男女が扉を叩いている。その向こうからは怪しげな動きをする者たちの集団が迫ってきていた。
「大変だ! 助けないと!!」
家族連れの父が真っ先に反応し、旅館の正面玄関に走った。莉子と日菜菊も後を追う。
正面玄関に着くと、一度施錠した鍵を開け、3人を招き入れた。それは、川で会った大学生のグループの一部だった。再び扉を施錠しようとすると、怪しげな動きをする者の一人が手を入れてきた。
「うわ!!」
「きゃ、何なの!!」
家族連れの父と莉子が叫ぶと、大学生の男が叫んだ。
「絶対入れちゃダメだ!!」
言われなくとも、こんなに怪しげな動きをしている者を中に入れるという選択肢は誰にもなかっただろう。家族連れの父と莉子と日菜菊は、そこにある物で腕を入れてきた男を叩いたりして、何とか扉を施錠した。
「一体、これは……?」
日菜菊が言った。
1階にいることにも危険を感じたので、全員で2階にある大部屋に移動した。莉子が外を見ると、向かいの旅館からぞろぞろと怪しげな動きをする物たちが出てきていた。悲鳴はもう聞こえない。
(仲間を……増やしている?)
莉子はそう思い、呪視の環で見た。その集団は全員、呪いに蝕まれていた。
「外で何が起きているの!?」
家族連れの母が悲鳴のような声を上げた。姉弟は母に抱きしめられながら泣いている。
「あれは、ヴァンパイアなんじゃないですか?」
莉子が、神社を調査していた男女に聞いた。
「……そうです。言い伝えは本当だった。神社に封印されていたんですよ、ヴァンパイアが」
女がそう答えると、さらに続けた。
「私は、
「ヴァンパイア・ハンター!? なんだそれ!」
大学生の男が苛立ち混じりの声で言った。
「ちょっと静かにして! ちゃんと聞こう!」
大学生の女が叫んだ。彼女は川で見たカップルの女だ。カップルの男の方も一緒に逃げ込んで来ていたが、彼は一言も発していない。
次に血まみれの男が喋りだした。
「俺は
「グール?」
「噛んだ相手をグールに変えてしまい、グールになった者は次々とグールを増やしていく。邪悪なヴァンパイアの得意技です! 封印されていたヴァンパイアが村の人をあんな風にしてしまったんです!」
「そうだよ、噛まれた友達、みんなおかしくなって、私たちを襲ってきたもん!」
壮亮の言葉を裏付けるように、カップルの女が起こったことを口にした。
「じゃあ、その封印されていたというヴァンパイアはどこに?」
「さっき遭遇して戦いましたが、このザマです……」
莉子が尋ね、壮亮が答えた。
「ていうか、これ、かなりマズいのでは……」
日菜菊がそう口にした。確かにその通りだと莉子は思った。自分たちが危険なのはもちろんだが、あんなに簡単に化け物を増やしてしまうグールが山を下りたら街は壊滅してしまう。
「グールにされた人を元に戻す方法はあるんですか……?」
莉子が聞いた。
「そ、それは……」
歯切れの悪い返答だ。無いのだなと莉子は思った。
「……通常、グールにされた人間はヴァンパイア・ハンターの処理対象です」
津麦が辛そうな顔をして言った。
「そ、そんな!? じゃあ、友達みんなどうなるの!!」
「どうなんだよ!?」
カップルの女と大学生の男が声を荒げる。津麦は言いたくなさそうな顔をしていた。
莉子はもう少し冷静に現状を考える。つまり、ヴァンパイア・ハンターの
「……まずは私たちの安全を考えましょう」
津麦が苦し紛れな言い分で話題を逸らした。
「そうだ、さっきからスマホが全然通じないよ」
家族連れの父がそう言う。
「姑息なヴァンパイア……。奴に電波塔を破壊されました」
壮亮が言う。長い年月を経て復活したヴァンパイアは、電波塔を破壊すれば外部との連絡手段が絶たれることを理解したらしい。
「じゃあ、宿のインターネットは!?」
「ダメだ。この旅館のネット環境は電波塔を経由している」
亭主が返答する。
「けど、向かいの旅館には光回線が来ているはずだ」
「で、でも誰が行くんだよ!? 外は化け物でいっぱいじゃないか!」
「誰かが行かないと私たち全滅よ!!」
「いや、その必要はないです」
莉子が日菜菊を見て言った。日菜菊は頷きを返す。
「既に通報済みです」
日菜菊が答える。通信を破壊するなどという手段を取ったヴァンパイアも想定していなかったであろう、日菜菊と
「なんでそんなことができるんだよ!?」
「この
莉子は
だが、グールは数を増やし、旅館の扉を叩いて中に入ろうとしている。それほど長くはもちそうになかった。
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