第17羽 FLYING IN THE SKY
『ただいまの、富士川トリ娘スカイスポーツ学園、フォルテックさんの記録は、1308メートル09でした』
ウイングノーツは、ガードレールに身を預けながらそのアナウンスを聞いていた。
正面の琵琶湖の湖岸に設置されたプラットフォームから、腕に羽の生えた少女たちが一人、また一人とその翼を広げて湖上に飛び出している。
トリ娘コンテスト。日本全国から集まったトリ娘たちが、琵琶湖の大空を舞台に空を飛んで競い合うその大会を、ウイングノーツはそこからじっと見続けていた。
「飛びたくても飛べないのはつらいわねぇ」
かけられた声に横を見ると、青葉が笑みを浮かべながら立っている。先程までは見当たらなかったので、どこかから戻ってきたところなのだろう。
「そうですね……って、そんなことないですよ。再来週には別の場所で飛びますし」
苦笑しながら、ウイングノーツは再び大会の様子に目を向けた。
「懐かしいですね。1年くらいしか経っていないはずなのに」
さっきの青葉の言葉は、初めてこの湖岸で声をかけてもらったときのセリフそのままだ。
「そうね。でもこの1年、編入から滑空、ディスタンス転向と短期間でよくここまで来れたと思うわ。まだまだ課題は多いし結果は出せてないけど、着実に力と技術を身に着けているのはわかるわ。さっきも湖岸にいる人たちにいろいろ聞き回ってたでしょ?」
「あ、はい。普段はみんなそれぞれのトレーニングで忙しいから、意外と深く話す機会がないんですよね。あと、記録飛行の準備のおかげで技術専攻の人たちともつながりができたのも大きいです」
ちょうど、プラットフォームから最終フライト――ディフェンディングチャンピオンであるフーシェが飛び立ったのが見えた。重力に負けずまっすぐ飛び出せているのが、ノーツのいる場所からでもよくわかる。
「そういえば、マエストロの結果は?私ちょうど見れなかったんだけど」
青葉の問いに、ウイングノーツは少しため息をついた。
「380メートルちょっとでした。途中までまっすぐ飛んでていい感じだったんですけど、急に右翼が痛んだみたいで」
その回答に青葉は少し顔を曇らせた。
「……まだ万全な調子ではなかったのかしら」
「そう……かもしれません。でも、今飛んでるフーシェさんは別格として、他の人たちはなかなか距離が伸びてないようなので、もしかしたら順位はいいところまでいくかもしれません」
「なるほどね。聞いた限りでは定常飛行に持ち込むこと自体はできたみたいだから、完全復活すればもっと飛ぶ可能性はあるとも言えるわね」
「はい。先に課題を克服したみたいだし、負けていられないと思いました」
「そうね」
『さあフーシェ!もう3キロを通過しました!これは速い!』
場内スピーカーから実況が聞こえる。もう湖岸から肉眼では確認できなくなってしまっているが、フーシェはまだ飛距離を伸ばしているようだ。
「……青葉さん」
琵琶湖の風を受けながらしばらくフーシェが消えた方を見ていたウイングノーツが、視線は変えずに青葉に話しかけた。
「青葉さん、アタシ、次回は必ずここに戻ってきます。選手として。記録飛行の結果をひっさげて」
青葉は、湖をまっすぐに見つめるウイングノーツの顔を見つめた。心なしか赤い瞳が燃えているように輝いている。
「トリ娘コンテストではなく、記録飛行を第一目標にするって選択肢もあると分かりました。でも、トレーニングしながら考えてみて、やっぱり自分はトリ娘コンテストを軸に置きたいなって思ったんです。ばぁちゃんや、お世話になった人たちに自分の成長した姿や成果を見てもらいたいなって。それには、やっぱりテレビ放映もあるトリコンが一番近い舞台かなって考えました」
青葉は頷いた。
「……いいんじゃないかしら。記録飛行をメインに据えているトリ娘も何人かいるわけだけど、どちらも決して悪い道ではないわ。結局のところ、飛びたい
その時、
『素晴らしい記録が出たようです!』
興奮した声の場内アナウンスが響き、二人は思わずスピーカーを仰ぎ見た。どうやらフーシェのフライトも終わったようだ。
『ただいまの、富士川トリ娘スカイスポーツ学園、フーシェさんの記録は――7945メートル85でした』
うおおおおという観客席の歓声がここまで聞こえる。逆転優勝、そして連覇という結果に会場は盛り上がっているようだ。
「……さて、私達は行きましょうか」
青葉が湖に背を向けて、駐車場に向けて歩き出す。
「さっきのアナウンス。自分のフライトで聞けるようにならないとね」
「はいっ!」
振り返ってニッと笑う青葉に、ウイングノーツも同じ笑みを返して走り出した。2週間後に迫った、記録飛行に向けて。
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